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魔王城の双子姫 2ー1

 バキッ! 剣が砕け散った。

 しかし、油断は禁物だ。武器がない体術だけでも相当なものだと予測はつく。


「くっ! ()()()()()に応援を!!」


 ん? お姉ぇ様達に?

 どちらにしろ面倒なことになる前に……。


「大人しくお縄につけ! (【束縛魔法】と【拘束魔法】に【威力累乗魔法】を付与!)」


 二人の体には光の輪がはめられ、白い包帯が体を拘束した。

 包帯はクルクルと体を余すことなく隠していき……二つのミイラが出来上がった。


 ウ〜ウ〜とうめき声が聞こえるが気にしていられるほど俺に猶予は……残されていない。


『アルフォードくーんー助けてっ!!』


【念話魔法】の有効範囲に入ったのかフェーカスからのSOS信号が入る。


『なんだ? そこまで魔人達が強かったのか?』

『違うよ! 僕が着いた時には魔人達は死体になってて、あの二人がいーーーー』


 ノイズのような音がフェーカスの声を遮る。

 この現象は知っているーーーー妨害だ。


『あーあー、割込めた! えっとー、こんにちは!』

『ああ、状況を教えろ。こっちには二人、人質がいるぞ。嘘はつくな』

『こっちだってオオカミさんがいるもん!』


 アイツ……まぁ、ペットに強さは求めちゃいないが。

 それにしても面倒なことになった。これでは人質が使えない。


「うっ!?(やばい、この感覚はそろそろ……)」


 感覚は体の芯を絞られている感覚だろうか。

 量的にあと数分も持つかどうか……。間に合わなければ最悪、死ぬ。


『こちらに敵意はない。お前らの王の手助けに来た』

『手助け? 頼んでないけど?』

『王を出してくれ、お前達も早く人質を交換したいだろ?』


 ここまで来れば分かる。俺の姿を固定した張本人の魔力が至る所から感じられる。

 例えば、今片手に担いでいるミイラとか。


『む〜、じゃあお城に来て。先に行って待ってるから!』


 視線を正面に戻す。そこには巨大な壁がそびえ立っていた。

 どうやらこの森は最低でも二重の囲いがあるようだ。一つ目は黒色の木々。二つ目は目の前に立ち塞がっている壁だ。


「入り口もなしか……仕方がない」


 敵感知の為など、常時使用していた魔法を全て解除する。急に二人を担いでいた肩に重みを感じるようになった。


 そして、その魔力を足と手の握力の強化に回す。【魔力凝縮魔法】を解除した為魔力を失う速度が上がる。

 この先にもう一枚壁があった時点でーー終わりだ。


 力の限り踏み込んだ。

 姿が無理やり元の姿に戻ろうとしている為か、外見以外は全てシャルテアに戻っている気がする。


 地面を蹴る。

 地面はその反動を受けるように粉砕されクレーターが出来上がった。


 風圧を顔で受けきり、余裕で壁を飛び越えた。

 そこで魔力が完全に切れ、力が抜ける。


 二人の少女にかけていた魔法も解けた。

 視界にゴスロリが二着、そして城を捉えた。

 そこには隣にいる二人の少女がフェーカスの上に乗っている姿があった。


 そこで視界は暗転し、身勝手にも、誰かが絶望的な状況をどうにかしてくれて、死なないことを願った。

 その思考が死神と呼ばれていた彼とはかけ離れていることに、彼自身は気づかない。


 その時、俺は夢を見た。

 いや、夢というほど優しいものではなく、走馬灯と言った感じだ。


 一面に広がる赤、血で埋め尽くされた戦場に終わりはない。そこに俺である者はなく無く、ただひたすらにその光景を作り出していた。


 絶望はなく、幸福もない。

 己を失う、いや、己を侵食されていた。しかし、そのぬるま湯に浸かるのは楽であり、このまま眠ってしまいたかった。

 そう思うたび目の前の人が肉塊となる。


 愛する人、愛してくれる人、尊敬してくれる人、尊敬している人、彼らはその度に立ちはだかり、手を伸ばす。


 情景が変わる。

 変わったのは時間、その景色は変わらない。

 ただ一面の赤、別の戦場となっただけだ。さっきの時より立ちはだかる者が一人減った。


 変わる、減った。変わる、また減った。


 そうしてたった四人、二十人以上いたがそれも過去……。


 高らかに笑い声が響く。それは勝ち誇り、欲にまみれた豚が発する音と良く似ていた。

 既に目の前に立ちはだかる者はいない。それなのに俺はふと知れず雫で頬を濡らした。


 自分の手を初めてみた。血塗れの汚い手。

 その時、この声の主を初めて知った。


 思い出される瞬間。

 目の前の女の子が体から血を吹き出しながら……視界を赤に染めながら何かを呟き倒れるその瞬間。


 俺はーーーー死んだ、そう確信した。


 視界は暗転することもなく、ただひたすらに霞んでゆき、やがて無となった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 体がだるい。まぶたが重くて上がらない。唇がと唇が真空となったように離れない。


 現状を言おう。

 俺は生きていたみたいだ。


 数分後、皮膚がなにかに触れられた感覚を感じた。

 それと同時に体に力が巡る。徐々に解凍されていくように体の隅々まで行き渡った。


 目を開けると、白い光でしばらく視界を埋め尽くされ、やがてぼんやりと見えてきた。

 そして、初めに目に映ったのは、いつかの怪しいエリスフィア先輩だった。


「先輩……無事だったんですね」

「起きた! シャーちゃんが起きた! 無事かどうかって? 見ての通り無事さ」


 確かに外傷はないようだ。布団の上に寝かされているのは前提として、予想外にだだっ広い部屋の中央にいるようだ。


「うっ、いたた。ここは」

「無理しちゃダメだよ! ほら、横になって! ここは魔王城の空き部屋、僕達は名目上捕虜ってことかな?」


 起き上がるだけでも体の節々が悲鳴をあげた。

 それにしても捕虜って言ったか!? バッチリ失敗してんじゃねぇか!


「……私は何日ほど?」

「丸々二週間と二日だよ。もう七月だね」


 そんなにっ!? そこまでの……重症だったな。

 そこを反省していても始まらない。魔王城に着いたならばさっさと魔人達のことを。


 バタンっ!と扉が開け放たれた音がした。カルナムート先輩かと思ったが、足音が違う気がする。


 ティナ先輩当たりかなと思っていた俺は次の瞬間、度肝を抜かれた。

 怪奇現象、そう思っても仕方がなかったと思う。


「「「「大丈夫?(なの)(かしら)(かな〜)」」」」


 少女が四人に分身していた。

読んでくださってありがとうございます!!

感想等宜しければお願いします。

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