魔王城の双子姫 1ー3
視界が火花で埋め尽くされた理由は簡単だ。
即席で展開した結界と正面からの攻撃が衝突したからだ。
「持たないっ! 避けろ!」
二本の剣が顔のスレスレのところを通る。
まさに間一髪といったところだ。
「フェーカス、こいつらか!?」
『この前僕をタコ殴りにした奴らだ!』
ふふっと笑みを浮かべている二人組みがさっきまで俺達がいた場所に立っていた。
身の丈に合わない剣を片手で担いでいる。
ゴスロリと言われていた服を二人とも着ていて、顔の目元を隠すように仮面が付けられている。
「どちら様かと思えばこの前の犬っころではないですか? 懲りずにまた来たのですか? ねぇお姉ぇ様?」
「そうですね、私もそう思うわ。お姉ぇ様」
初めに口を開いた方の女の子はやや挑発的な声だ。
一方、次に口を開いた女の子は無機質な声だ。
しかし、二人に共通していることがあった。
それは、何故か語尾の『お姉ぇ様』だけに強い意志が込められているように感じたのは……気のせいだろうか?
「で、どっちがお姉ぇ様なんだ?」
「「お姉ぇ様はお姉ぇ様に決まっているでしょう!?」」
あっ、これ面白いな。驚く程に息ぴったりだ。
いかにも双子って感じで……そう言えば、俺も双子の姉だったっけ?
『主、負けてないですからね? 負けてないですよ?』
「あ〜ら? 生意気にも念話なんか使っちゃって! ねぇ、滑稽よね……お姉ぇ様?」
「私もそう思うわ、お姉ぇ様」
念話を感知できるのか!? 感覚的なものなのか、魔法の一種なのか何なんだ?
『主〜!! こんな奴らさっさと倒しちゃいましょう!』
『いやいや、別に戦いに来たわけじゃないんだし……あっ、眷属達倒しちゃったな』
念話の内容に突っ込んでこないことから、内容までは把握出来ないのだろう。
「お姉ぇ様、さっさと終わらしてもう一方の害虫を退治しに行きましょう?」
「お姉ぇ様、今のは……害虫に失礼です」
「おいっ! 害虫に失礼ってなんだよ……フェーカス、ぶっ潰すぞ!!」
今の言葉はちょっと頭にきた。
倒しにかかるかどうか迷っていたのが馬鹿みたいに吹き飛んだ。
「倒すですってお姉ぇ様! 身の程知らずを叩きのめしてあげましょう!!」
「激しく同意、お姉ぇ様」
ドオォン!
振り下ろされた剣が地面をえぐる。中々の速度だ。
シャルテアバージョンの俺とフェーカスでは負けていたかもしれない。
しかし、今の俺はアルフォードバージョンだ。負ける気はしない。
負荷の大きく、使用を控えていた魔法も使用可能だ。
「フェーカスは離れてろ! 俺だけでやる! 魔人達が壁を突破して来たら応戦してくれ!」
『ご武運を! ボッコボコにしといてください!!』
まぁ、フェーカス。ペットが戦闘要員に負けたところで誰も不思議がらないさ。
「舐めてますのね? お姉ぇ様!」
「口を動かす前に手を動かして、お姉ぇ様」
こうした間にも連撃が繰り出される。
手から【風化魔法】を発動し、武器破壊を試みるがイマイチ効果は見られない。
片方の剣に小さな亀裂が生まれただけだ。本来ならばもう少し効果が出てもいいと思うのだが………。
連撃に大きな隙はない。避けることが不可能な速度ではないが、それでも剣の大きさを考えると速い方だろう。
この剣の大きさで、ここまで隙を作らないのは賞賛に値する。
しかし、それだけではフェーカスが負けた理由は見当たらない……何か他にもあるな。
こっちから揺さぶりをかけてみるか。
「本気出さないと勝てねぇぜ?」
俺的に挑発的な方はチョロそうだが、無機質な方は賢そうだが……どう出てくるか?
「殺す、お姉ぇ様。出し惜しみなんてしない!」
あっ、チョロいのは静かな方でした。
ごめんね挑発してくる方がチョロいとか思っちゃって。
「もう、お姉ぇ様は! 我慢ということを知らないんじゃない!?」
文句を言いつつも息はぴったりだ。
しかし、魔力の流れの変化は見られない。
てっきり魔法かと思っていたんだが……。
それにしてもっ、上手い!
初めは剣を余裕を持って交わせていたが、どんどん速度が上がり、今ではスレスレ、間一髪と言った感じだ。
縦、横っ、突っ!
次々に繰り出される連撃。それに対応しきれず遂に体勢を崩しながら後ろに跳躍する。
「貰った!!」
それも織り込み済みかのように剣が真上から襲ってくる。
一人が連撃で追い詰め、もう一人がトドメの一撃を確実に決める。
いい、コンビネーションだ。
「あまいっ!」
あらかじめ展開しておいた【氷塊魔法】を発動する。
左手から二本の氷の杭が現れ、二人の剣をめがけてそれぞれ突き出された。
「「貰った!!」」
誘われた。
そう気づくのに時間はかからなかった。
読まれていたのか氷の杭は剣によって砕かれた。
それと同時に背後から土の矛が俺を襲った。
「チッ! こっちが本命か!?(【爆裂魔法】を発動! 魔力の流れに変化は無かったぞ!?)」
土の矛を攻撃用に展開していた【爆裂魔法】で吹き飛ばす。
そして、俺は一度距離をとった。
「まさか今のを防ぐとは、侮っていたわ」
「ちょっと!? 何素直に認めてるの、お姉ぇ様!」
「今のはなんだ? 魔法じゃないな」
「そうね、魔力は使ってないわ」
「呪力だよ!どうせ止められないからバラしても問題ないよね、お姉ぇ様!」
あ〜、二人とも馬鹿なのかな?
それにしても呪力か、幻獣種の分類に入るのだろうか。
しかし、対抗手段が無いわけではなかったはずなのだが……分からない。
記憶の損失で多くの知識を失っている気がする。
けど、それを理由にーーーー負けられない!
「それはどうかな? (【氷獄魔法】を展開、【爆裂魔法】を二つ展開、一つに【威力累乗魔法】を付与!)」
この双子を殺すつもりは無い。
むしろ、死んでもらっちゃ困る。
最大限の魔力量を消費するかもしれないが仕方がない。
魔王に出会えば元の姿に戻れるので、【魔力凝縮魔法】に費やす魔力がいらなくなり余裕もできる。
「「殺す(わ)!!」」
連撃が始まる。これを魔法なしで避けきる事が第一条件だ。
太刀筋は鋭くなり、その速度は前の速度を凌駕する。
最後の突きはその速度、キレと共に文句のつけ所が無かった。
突きを避けるように斜め後ろに跳躍する。
それでも、避けきれずに腹が浅く切られ、血がにじみ出た。
だが……それだけ、行動するのに支障はない!
「もらった!!」
「こっちがなっ!(【氷獄魔法】発動!)」
この二人は呪力を使って地面を操ることができる、俺はそう予想を立てている。
呪力による攻撃は魔法でも防ぐことが出来るのは、フェーカスの爪を【結界魔法】で受け止めたことからも分かるように可能だ。
着地と同時に十六方位全てから土の矛が迫り来る。出し惜しみをしないという意思が感じられる攻撃だ。
本来の【氷獄魔法】であれば、瞬時にその現象は停止する。しかし、その現象は止まらない。
土の矛という現象と、現象を止めるといった能力のぶつかり合い。
そのぶつかり合いの勝者が決まるまで……二つの現象はその進行速度を落としながらも発現する。
停止を確認する前に左手を上にかざし【爆裂魔法】を発動する。
これで上から振り下ろされていた剣による攻撃を防ぐことが出来る。
これで……整った!
俺はこの状況を作り出すために行動していた。
まず、【風化魔法】で剣を破壊しようと試みた時に双子の挑発してくる方の剣に亀裂が入ったのを確認した。
そして、氷の杭をその亀裂に当てようとするが失敗。
そこでこの策を実行することを決めた。
挑発してくる方はトドメの一撃の時に【爆裂魔法】を当てることによって剣を破壊する。
これには成功し、視界の隅には砕け散った剣が写っている。
無機質な声の方には【威力累乗魔法】を付与した【爆裂魔法】を武器に直撃させることで破壊する。
連撃からの本気の呪力の行使をした直後は動きが鈍くなるだろう。
それは魔法でも同じなので経験則で分かる。
そして今、たった五メートル先に無機質な声の主はいる。
まだ土の矛の進行は止まらない。
だが、地面から二メートルしか突き出していないならば飛び越えられる。
常時使用中の【身体強化魔法】に【威力累乗魔法】を付与する。
俺は足に力を込め地面を蹴った。
今の俺にとって助走なしで五メートルの跳躍など朝飯前だ。
「終わりだ!」
【身体強化魔法】の効果を右腕に集中させ、三倍の魔力を加える。
相手の正面に着地すると同時に、武器を狙ったアッパーで剣を打ち上げる。
幼い体は剣に流されるように仰け反り、腹という弱点が晒される。
しかし狙いは……殺すことではない。
俺は迷いなく、左手の標準を剣に合わせてーーーー魔法陣を発動した。
読んでくださってありがとうございます!!
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