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日常研究部 4ー3

 国は雨なのにも関わらず復旧作業に勤しんでいた。

 生き残った人々は死んでいった人の犠牲の上に生きている。

 負い目を感じる必要はないのだとしても……未熟な自分を責める人もいるだろう。

 しかし、それを乗り越え、人は大きく強くなり、国はまたひとつ成長を遂げるのだろう。


 激しい雨の中、その音に紛れ、国を密かに発つ者達がいた。


 俺は今日、本当の日常研究部の活動に初めて参加する。

 時は六月中旬の夜。

 親に真実は言えず、キールにも言っていない。


「シャーちゃん、もう一つこの部活のメンバーの重要なことを言っておこうかな」

「なんですか?」


 目立たないように黒いローブを全員が羽織り、闇に紛れている。

 この街はこの国の首都でありながら国境に接している。


 いや、正確には魔王領域と区別をつけるために国境を作ったのだ。

 そこから出るには身分を証明するものが必要となるのだが……学生証を出して通してくれる訳がない。


「ここにいるシャーちゃん以外の部員は何かしら身分を国から貰っているんだよ……未来の外交官としてね」

「それって……もしかして……」

「シャーちゃん以外は正規ルートで出国できる」

「ひどいっ!!」


 関門は目の前に迫ってきている。


「はぁ、そういうことはもう少し早めにお願いします。先に抜けますね(【存在遮断魔法】発動……解除)」


 魔力が減ったのを感じる。今も俺は魔力を常に消費し続けている。

 姿を固定している魔法の解除はあの後すぐに試みたが失敗に終わった。


 今は【魔力凝縮魔法】を使い、魔力の減少を抑えているが、一体いつまで持つかはわからない。


「お待たせシャルテアちゃん! ドキドキするね……相手は世界最強だよ? 緊張で心臓がバクバク言ってるよ!」

「最強ですか? じゃあ魔人達を組織化させたのは魔王なんじゃ?」


 魔人という種族を組織化させるなど並大抵のことでは出来ない。

 しかし、姿の固定までできる化け物ならば話は変わってくる。


 奴ならば組織化くらい容易くやってのけるだろう。

 しかし、それでは今回の指令が根本的におかしいことになってしまう。


「それは可能性としてはゼロとは言えないけど……まずないだろうね」

「何でですか?」


「そもそも魔王は他人の力を必要とするまでもなく世界を侵略出来るだろうからだね」

「はぁ、そこまでなんですか?」


 確かに強敵ではあるだろうが、最強を冠するにはあと一押し欲しいところだ。

 あのレベルであれば今の俺で十分対処できる。


「吸血鬼だけでは無理だな〜。一つの種族で魔王を対処できる力があるのは……全てが謎に包まれた人間の国だけだね」

「謎なんですか? 魔法が使えない時点で戦闘力は皆無に等しいと思いますが?」


「そうだと良かったんだけどね……この話はまた今度にしようか……早速だが魔物退治だ!」


 この距離でしっかりと探知ができているということは、エリスフィア先輩は無属性魔法を使えるのだろう。


「俺の力で蹴散らしてやろう!」


 ティナ先輩がそう豪語するが、俺はそうは思わない。

 ティナ先輩の火属性魔法を、この狭い森で使えば第二被害が間違いなく出てしまうだろう。


「(【魔力探知魔法】の範囲を拡大)そうですねティナ先輩にお願いしましょう」

「えっ!? 第二被害が出ちゃうよ?」


「いいんですよカルナムート先輩、それが狙いですから。この近辺にいる魔物の数は少し多過ぎる……まとめてやった方が楽でしょ?」


 魔物は火に引き寄せられ続々と集まってくることだろう。

 そこを一気に叩けば終わりだ。


「飛んで火に入る夏の魔物ってな!(【結界魔法】でを展開、炎を遮断。【爆裂魔法】に【威力累乗魔法】を付与!)」


 初めの三体の魔物はティナ先輩によって焼き払われた。

 その火におびき寄せられた魔物達が五分後には二十体ほど集まっていた。

 今展開している結界は来る者拒まず、去る者は許さずだ。


 結界を徐々に小さくすることでジワジワと炙り殺しても良かったのだが、面倒だったので紅蓮の魔法陣を発動する。


 俺の爆裂魔法で木っ端微塵にしてやり、消火活動を終えた。


「行きましょうか。魔人達の計画とやらを防がないといけませんし」


 魔人を絶滅させるにしても手間と時間がかかるし、魔力量も完全に復活してからじゃないと不可能だろう。

 ならばとりあえずは目先の獲物で我慢しておこう。


 全魔人が統一されているとは考えにくいが……もしそうならば、いつこの世界が支配されるか分かったもんじゃない。


「どうかしたの?」

「何でもないですよ睦月先輩。そう言えば、睦月先輩とカラミア先輩は戦えるんですか?」


「当たり前だ! 忌み子と一緒にするな!」

「こらこら、自分の身は自分で守れるよ。だけど、それくらいの戦力と考えていてね」


 なるほど、足を引っ張ることは無いけど、攻撃力として数えられる程の戦力ではないと言うことか。


 部長にも聞いておきたいところだが……なんか聞き辛いな。

 一度も声を聞いたことがない気がしないでもない。


「夜が明ける前に森を抜けて山岳地帯に入りたい! もう少しペースを上げるよ!」


 魔王城までは約三十キロほど広がる森を抜け、十キロほどの山岳地帯を抜けた所。

 夜の森と言われる地域の中にあるらしい。


 時刻は午前三時、確かにもう少しペースを上げなければ約午前五時の日の出には間に合わない。


「なぜ日の出までに山岳地帯に入りたいんですか?」


 別段急ぐ理由が見当たらない。


「この森には幻獣フェンリルが住み着いているんだ! 朝ご飯にはされたくないだろう!?」


 えっ? フェンリルって確か……飼い犬じゃなかったっけ??


 ん!? この魔力反応は……桁違いに大きい!


「最悪だ……この森を騒がしくしてしまったせいで……フェンリルが目覚めた!! 全力疾走だみんな!!」


 さっきから魔物を倒しながら進んでいる。

 それが森に警戒心を持たせ、フェンリルを起こすという結果がもたらされたというわけか。


「先輩方、戦闘態勢を……もう間に合わない」


 夜の森に雄叫びが響いた。


 いつの間にか止んでいた雨。

 雲は風に流され、漏れ出した月明かりは眼前の丘の上を照らしだしていた。

 同時に獰猛な赤い目が俺達を捉えた。


 山岳地帯まで後一歩、間に合わなかった。


 再び雄叫びが森に木霊する。

 次の瞬間ーーーー木々を薙ぎ倒し、地面を削った轟音が鳴り響いた。




読んでくださってありがとうございます!!

感想等宜しければお願いします。

ブクマ、評価等、とても嬉しいです! ありがとうございました。

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