日常研究部 4ー2
「失礼しました。続きをお願いします」
予想内の訪問があったが、さして支障はない。
俺の株が上がるとなるということは俺が貴族にでもなった時なのだろう。
「何の話をしていたか忘れてしまったよ。それよりも今日は寝よう! ……疲れたよ」
ということで俺達はぐっすりと眠った。
そして夢を見る。
ここは……夢の中なのだろうな。
何も無い一面に広がる白。
ポツンと俺だけが存在している。
特別驚くことでもないのだが、俺は一番初めの姿をしている。
初めの世界での俺は黒髪に赤毛が混ざったのが特徴的だったそこら辺の公園で遊んでいるような少年だった。
しかし、魔法使いにおいて黒髪に赤毛といえば一人の死神のことを指していた。
思春期に入った頃、俺の目は紅く変色し、悪魔の子として世の中から追放された。
真っ先に思ったことは今まで信頼していたものは何だったのだろうか? ということだった。
そして、やけにあっさりと親も手放したもんだなと思い調べてみると……義父母だった。
中々にショッキングな出来事だったはずなのだが涙も何も出なかった。
この時の俺は魔法以外に興味はなかったのだろう。
そうでもしなければ世界を生き抜くことは出来なかった。
当時の俺は魔法の研究が唯一好きだと言えるものだったのかもしれない。
二十になるまでは何を食べていたのだろうか、確かそこら辺にいた魔物を倒しては食べ、倒しては食べていた気がする。
そんな時、ふと俺は迷宮に入ろうと思ったのだ。
そこである男、『死神』に出会った。
後から聞けばすぐに自身の子だと分かっていたらしいが、出会いは最悪だった。
奴は俺を殺しに来たのではなかったが、俺の目の前で何事もないように人を殺そうとした。
俺は反射的に魔法を放ってしまった。
死神も反射的に別人を処刑するための魔法の照準を俺に変えた。
その時、俺は今までの人生でも五本の指に入るほどの大怪我をした。
目を覚ました時、横にはその男がいた。
死神によって治療されており、一ヶ月後には元の生活を送れるようになるにまで回復していた。
そこから二人での旅が始まった。
世界各地で処刑を行うその男は誰よりも魔法使いであろうとした。
悪という事象を上書きするだけの作業。その内容が殺しだっただけということだったのだろう。
ある日、男は死神を引退し、その技術を本格的に俺に伝え始めた。
平穏な師匠と弟子の隠居生活とはいかなかった。
時代は神代と言われる神の跋扈する世界だった。
迷宮には財宝とともに災厄をもたらす神々が住まうということも珍しくはなかった。
男は死神の名を冠すると共に神殺しの名を有していた。
いつの間にか男は死神と恐れられる側面と共に、悪を断罪する世界の抑止力となっていたのだ。
死神を引退したとしてもその役割からは逃れられなかった。
災厄を振りまく邪神が現れれば、すぐさま討伐に向かった。
しかし、邪神がいるということはその逆がいるということ。
善神は死神と協力し、世の平穏を守っていた。
こうした中で俺の知り合いの殆どは善神といった世界に平穏をもたらす存在ばかりになっていき、俺はーーーー神々に愛されていた。
しかし、神と言っても創世神ではない。
創世神の作った原初の生物、という方が相応しいのかもしれない。
本当の神は創世神ただ一人のことを指すのが正しいのだろう。
そしてある日、俺は運命の導きと共に一人の女の子を迷宮で見つけたーーーー
「人様の過去を見るのは楽しかったか?」
過去の記憶はここまで、俺はこの続きを知らない。
ここからの記憶は忘れたのか、ここで死んでしまったのか……分からない。
次の記憶は次の世界だ。
しかし、これ以上俺の記憶を見せてやる気はない。
『実に数奇な人生、気に入った!』
「何もんだ? 夢に出没するのは夢魔といった類かと思ったが……違うな?」
こいつはそんな生温い生物ではない。
夢魔に対する迎撃魔法もあるが、無駄だろう。
『まだまだ正体を明かすには早すぎるな、どれちょいとイタズラしておこう!』
「っ!? お前、姿を固定したな?」
『体は大きくなった、魔力量も復活したが、お気に召さんようだな…何故だ?』
「お前、これのリスクは承知しているんだろうな?」
『ああ、日に日に魔力が削られていくだろうな。何、出会うことがあればすぐに解除してやろう』
人体情報の上書き。
絶対の禁忌とされる魔法系統だ。
別の姿になることもこれに該当する。
リスクは大きく、大した意味もない。
「それに、あの姿は両親から貰ったものだ。この姿になることはそれを否定し、侮辱することになる……それは許せねぇ」
『ふっ! ふははっははははは!! 時にして数千年を生きた神に最も近いお前がそんな青臭いことを言うとはな! 』
「……うるせぇな。あまりグズグズしてると無理やり殺すぞ?」
この姿ならばかつての力を存分に使うことも可能だ。やつを夢の中に引きずり込み、精神を殺す。
『ふふ、楽しみに待っているぞ! 神代の死神!!』
「さっさと帰れ」
回想もこれで終わりだな……目覚めたらどう説明しよう……。
俺は考えがまとまらないまま、深い真の眠りについた。
朝日が部屋に差し込む。
目を覚ますとティナ先輩以外は目覚めていた。
どっかのクソ野郎のせいで寝坊してしまった。
曇天は見えず、空は薄い青が覆っていた。
しかし、ほかの部員達の顔色は優れない。
「シャーちゃ、くん? いや、君は誰だい?」
そうだった。あのクソ野郎のせいだ。
何にしろ一度叩きのめす必要性があるな。
「俺はシャルテアですよ、エリスフィア先輩。これには少し事情があって、あるクソ野郎に会えば元に戻ります」
プクク、という笑い声が聞こえてきた。
その発信源は黒髪ロングと金髪ロングだ。
部長以外は微かに口元がにやけている気がする。
「シャーちゃんだったらいいんだけど……流石にそのカッコは可笑しいよ!」
あはは、と遠慮なく笑う金髪ロング。
それも仕方が無いなと思ってしまうほどひどかった。
シャルテアの制服姿のまま元に戻ったわけであって、女子生徒の制服をピチピチで無理やり着た二十歳手前にしか見えない。
簡単に表現するならば変質者というのが手っ取り早い。
俺はさっさと着替えようかと思ったが、着る服がない。
先輩達に服を買ってきてもらい、男物の服に着替えた。
「とりあえず……これで様になったね」
悪くないカッコだ。
それではクソ野郎を倒しに動かなければ。
「本題に入ろうか。今朝、連絡が入った」
「連絡?」
「ああ、僕らの主はこの国の第一王子、サンドラク・ウィズマークだよ。今回は日常研究部史上最も大きな活動となるかもしれない」
「っ!? 」
サラッとなんて言った!? 第一王子って言ったか? あの人がこんな子供を利用するのか?
ああ、でも完全に理屈主義者っぽかったし……。
「内容は何だったんですか?」
「魔人に動きあり、防衛と妨害を実行せよ。いかなる手段も問わない、結果だけを求む。だってさ」
アバウトに来たな。魔人の計画を阻止しつつこの国を守れということか。
しかし、俺の方にも猶予がある訳では無い。
いきなり別行動とは行かないだろうか?
「シャーちゃんもその姿を戻すために動かないといけないでしょ?」
「はい。だから今回は別行動と」
「その必要はないわよ。姿を構築し直すなんて真似ができるのは魔王しかいないわ」
魔王? この世界にもやはりいるか……。
どっかのしつこい奴見たいのじゃないといいな〜。
「それと何か関係が?」
俺の行き先が魔王のところだとして、それがどう一緒に行動することに繋がるんだ?
「魔人達の次の標的は魔王、僕達、日常研究部は魔王と魔人達の激突の勝敗を魔王側に軍配が上がるように介入する」
「まさか……嘘だろう?」
俺と共に寝坊したティナ先輩はまだ聞いていなかったようだ。
「日常研究部は今から魔王城に侵入する!」
波乱万丈、一難去ってまた一難。
とんでもない事になりそうだ。
読んでくださってありがとうございます!!
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