日常研究部 4ー1
「むっ? 自律型分身がやられたようだな……吸血鬼の総本山の街の奴か」
吸血鬼の総本山、吸血鬼を統治する王が住む街だが、そこまで戦力が高かった訳ではなかったはずだ。
「ニュクス様、どうかされましたか?」
ここは本部、我ら永劫の教団の幹部が集まっている。
「何でもない。それよりも全ての計画が実行されたようだ」
全ての分身体から報告が入った。
結果はあまり芳しくなかったが……まぁいい。
「結果はどうだったのですか?」
「そう焦るな。吸血鬼の国は二つ、人間族の国はゼロ。獣人族は二つだ」
「「っ!?」」
「そう驚くな。想定内だ」
動揺するが、幹部が直接手を出していない計画としてはまずまずのところだっただろう。
そう悲観することもないのだが……。
「もう一つ実行していた作戦はどうなったのですか?」
そう、こっちの方が問題だった。
「もちろん、奴には傷一つ付けられていない」
沈黙。それも仕方が無いだろう。
やつは強い。我以上に強い。それでも母上には敵わないのだろうが……。
「次の計画に移る。奴の、魔王を殺すぞ!」
「「はっ!」」
世界を我が手に、『箱舟』を手に入れた暁には貴方をーーーー母上の封印を。
魔王。
かつて四人いた魔王達の全てを蹂躙し、世界に恐怖を与えた。
その美貌は支配者としてのカリスマ性を引き立たせ、その力は強者と言われる者を屈服させ、蹂躙するのに十分だった。
なぜそんな生物を生み出してしまったのか……竜族と吸血鬼族の混血種。
この時代の真祖と呼ぶにふさわしい生物を討ち滅ぼす計画が始動する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あの後、俺はすぐに学園に向かった。
魔人の反応はこの街から消え去り、真の静寂が訪れていた。
暁の星はまだ昇らない。
「あっ、エリスフィア先輩」
「やぁ、シャーちゃん。明日からしばらくはこの学園も休園になるそうだよ」
夜の学園。生徒達は鬱状態になっているが、仕方ないか。
「こっちはどうなったんですか?」
「校内には三百人程が残ってて、その内百人が操られた、ってところかな。吸血鬼殺しの魔法を使ってこなかっただけマシだったんだと思うけど」
周りの惨状を見るに、マシだったなどと気楽には言えない。
隣で笑いあっていた仲間に襲われ、反撃しケガをさせ、手加減して傷つけられ……。
この中にも親族を殺された者も少なくはないのかもしれない。
しかし、王が機転を利かし王城内の大広間に近住民を匿った為、被害はこれでも最小限に抑えられたと言うべきだろう。
「先輩。そろそろ話してくださいますよね」
「君が入部するというのならば、話そう。とりあえず中へ入ろうか」
普通の部室に見えてそうではない部屋。いつかに聞いた地下室の噂は本当だった。
中にはカルナムート先輩、ティナ先輩、部長、知らない二人がいた。
「はじめまして、私は睦月 桜。人間同士よろしくね」
「忌み子じゃないんですか?」
確か忌み子ながらに進級を果たした生徒はいなかったはずだが?
「忌み子じゃないよ。人間の国からの留学生だよ。君みたいなのと一緒にするな」
「こらっ! そんなこと言っちゃダメでしょ! ごめんねシャルテアちゃん」
「いえ、構わないのですが、そちらの方も?」
丁寧なロングの女の子とは違い、口が悪いロングの女の子。
こういうと似ているように感じるかもしれないが実際は全く似ていない。
おおらかな雰囲気を持つ丁寧な女の子は黒髪、鋭い緊張感のある雰囲気を持つ口の悪い女の子は金髪だ。
「ほらカラミアちゃんも自己紹介!」
「……カラミア……クリスティーナ…………」
「よ、よろしく」
怖い、俺このカラミアって子苦手だ。
触れたら確実に刺されるやつだ。
「本題に入ろうか……シャルテア。君はこの部に入部してくれるかい?」
「……この国のためになるのなら」
俺は既に決めていた。
この国のためになるのならば喜んで入部しようと。
この国の害になるというのならば喜んで敵対するくらいの覚悟は決めてきた。
「この国の為にはなるよ……吸血鬼族がこれからも生き残るために活動する部活だからね」
ならもう迷うことは無い。
生んで育てて、生かしてくれた両親とキール、家臣達。彼らを守る活動を拒否する理由はない。
「私は日常研究部に入部します……これからよろしくお願いします」
ぱちぱち、と拍手が起こる。
これからこの人達とどんな事をするのか考えると今から楽しみになってきた。
「それではこの部の本当の姿を教えよう。この部は……」
コンコン、
扉を叩く音がエリスフィア先輩の言葉を遮る。
「どちら様ですか〜?」
「一年、ハーダック・ウィズマークだ。そこにシャルテアはいないだろうか?」
「私? いますけど、どうされたのですか?」
まさか……バレたか?
「少し出てきてくれ、確認したいことがある」
「分かりました。少しの間失礼します」
「いってらっしゃ〜い」
扉を閉めて外に出る。
表情からしても、あのことで決まりだろう。
「お待たせしました」
「いや、ひとつ聞きたいことがあったんだ」
「何でしょう?」
十中八九あのことだろうと予想はついているが、あたかも知らないように振る舞う。
「校内では俺があの巨獣を倒したと大騒ぎになっていた。お前も知っているだろう?」
もちろんですとも、あんだけの生徒が話をしていたら嫌でも耳に入ってくるだろう。
「もちろんです」
「お前はあの時何をしていた? 校内にはいなかった」
いなかったけど……嘘ついたらバレるかな?
「俺は巨獣を倒したのをお前だと思っている。全くの見当違いかもしれないが、ともかく俺には全く心当たりがない」
「第二王子はその時どちらへ?」
「丁度、中央通りを走っていた。王城への襲撃があったと聞いたからな。その時俺は後ろから見ていたんだ、俺の……いや、誰かが巨獣を倒したのを」
変装した所を見られていないのなら突き通せるか。
「私はあの時、確かに外にいました。巨獣を倒したのも見ていました。貴方そっくりの影が巨獣を倒した光景を」
これでいい。俺の評判を上げることは不可能に近い。
それなら弟に手柄を譲ってもバチは当たらないだろう。
「残念ですが私ではありません」
「……そうか邪魔したな」
「いえ、ではおやすみなさい」
「ああ」
俺はこの時安心しきって背を向けた。
まさか、第二王子が全てを見ていたとは知らなかった。
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