日常研究部 3ー1
静寂の中、バタンと扉を閉める音が鳴る。
鳴らしたのは自分だ。
主なるものをこんな時間まで放ったらかしにしておいて従者を名乗るのはいささか傲慢過ぎるのかも知れないが、私はこの方の執事だ。
「……遅くなって申し訳ありません。良い夢を」
ぐっすりと眠った少女を確認し、優しく言葉をかけ後にする。
日の出まではまだ時間がある。少し眠ってから今日の出来事を報告するとしよう。
ナーサス・コメラ……彼の隠れ家で遭遇した黒幕であろう奴らのことも。
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「おはようございます。昨日は遅くなってしまってすみません」
「おはようキール、怪我はしていない?」
「はい、お嬢様との約束でしたので」
見たところ怪我はないようだが……あまり睡眠は取れていないように思える。
「もうひとつの約束、昨日得た情報を教えて」
「わかりました。昨日、私達はナーサス・コメラの隠れ家を発見しましたーーーー」
キールは話し始めた昨日あった出来事を。
執事達は二手に分かれたそうだ。
一つはナーサス・コメラの捜索。
もう一つはこの地域の見回りだ。
キールは捜索組だった。
捜索組はまず、森の近くの廃墟にてナーサス・コメラと思われる目撃証言を得た。それに基づいて隠れ家を発見することに成功。
そこでナーサス・コメラ本人とは遭遇できなかったが
黒幕と思われる二人組と遭遇、その内獣人が一人、竜人族が一人だったらしい。
戦闘になるかと思いきや、相手は徹頭徹尾逃亡を貫いた。
結局傷は与えたものの仕留めるまでにはいかなかったという。
その後、見廻組から報告が入った。
いきなり襲いかかられ、二人を討ち取ったものの一人連れ去られた。
討ち取ったと言っても自爆された為証拠は何も残っていない。
その後は連れ去られた者の捜索に従事したそうだが、結局見つけることは出来なかった。
そのため、今日もこの後すぐ捜索を再開すると言った。
悔しそうな表情だ。恩師を葬られ、仲間を連れ去られた。
仲間を失う悔しさと共に、自身の不甲斐なさを恨んでいるのだろう。
「獣人族と竜人族の性別は?」
「獣人族が女、竜人族が男でしたが……どうやら子供のようでした」
「子供!?」
「はい、それこそお嬢様と変わらないくらいの」
まさか!? そんなことはありえない!
そんなことがあっていいはずがない。いくら特徴がカルナムート先輩とティナ先輩だからって……そんなことは無いはずだ。
「無理はしちゃダメだぞキール。それと魔人には気をつけろ、自爆といえば魔人だからな」
「分かりましたが、ここ数十年この国では魔人は確認されておりませんよ?」
数十年!? 魔人を悪と決めつけるのはいけない。
だからといって全ての魔人が善であるわけがない。
魔人の中には好戦的な者が多いというのは迷信ではない。
そんな魔人達が数十年現れないとなると……考えられるのは、個を望む魔人が集団としてまとめあげられたという可能性。
「行ってきます」
俺は不安を抱えながらも学園へと向かった。
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放課後、ある覚悟を持って俺は『日常研究部』の部室の前に来ていた。
「一年のシャルテアです! 今いいですか?」
返事はない。
「……失礼します」
扉に鍵がかかっていたが【錬金魔法】で外させて貰った。
中には誰もいない。
菓子やらプリント、遊び道具と思われるものが散乱していた。
「怪しく無さすぎる(【空間探知魔法】発動!)」
指定範囲は半径十メートル。
半径十メートルの球の中に含まれる全ての情報が脳に送られてきた。
「やっぱり……先輩」
その情報に誤りはない。ロッカーの下、ではなく部屋の中心の床には細工が施されている。
さらにその地下には……空間がある。
俺は机をどけ床を調べる。情報通りの位置に仕掛けを発見する。
床と同色の小さな取っ手を引っ張ると……いかにも怪しげな地下への階段が現れた。
進む、それ以外に選択肢はない。
階段は意外と長く続いた。九メートルくらいだろう。
階段は直接部屋に繋がっていた。
その部屋は部室の雰囲気とは違い、まるで警備隊の捜査本部のようだった。
あるのは黒板と武器のみ。黒板にはこの事件について調べた形跡が明確に残っていた。
黒板には執事達のことが事細かく書かれている。
ーーーー犯人像として。
ナーサス・コメラの隠れ家で現れたことや、魔力災害級の魔力反応があった時にほとんど同じ場所にいた事などか記されている。
執事達は先輩達を犯人と、先輩達は執事達を犯人と勘違いしている。
このままではーーーー犯人を追う者同士で衝突する!
武器を三つほど【収納魔法】に入れ、部屋に取り付けられた扉から外に出る。
既にこの先に通路があることは【空間探知魔法】で確認している。
そしてーーーー
「よくここまで来たねシャーちゃん」
「やはり貴方でしたか……エリスフィア先輩」
一人、通路に立ち塞がるような反応があった。
「貴方達は何者なんですか?」
部屋についても、部屋に置いていた武器の質についても、ただの学生では説明出来ない。
「シャーちゃん、大方予想はついているんだろう? じゃあ最後に聞こう……日常研究部に入部してくれるかい?」
ああ、やはり……表の顔は一部活、裏の顔は秘密組織。
ならば先輩達が調べていた、この国最大規模の事件の真実を教えてあげよう。
首から下げていた指輪を千切り取った。
「昨年の第二王子死亡事件、貴方達が調べているものですね」
「あの部屋に置きっぱなしだったか。それが?」
指輪を左手の中指にはめ、魔力を流す。
俺が手を施したことで、この指輪の性能は限りなく【変化魔法】に近づいている。
いや、既に【変化魔法】の効力を越えている。
「そんな馬鹿なっ!?」
「エリスフィア先輩。俺の名前はシャルク・ウィズマーク、この国の元第二王子です」
この指輪は身体的特徴だけでなく服装も変えられる。その代わりその二つを同時使用した場合……一分しか持たない。
「そんなわけが無い! 彼は吸血鬼だ!」
「俺のどこが吸血鬼じゃないんだ?」
「っ!? まさか【変化魔法】!?」
「そんな大層な魔法は使えない」
後二十秒! 本題を言わなければ!
「真実が知りたいならば、今は力を貸してくれ!」
あと十五秒!!
「しかし! 犯人は? 敵の正体は!?」
あと十秒!!
「原因は魔人だ! 既に執事達の一人が連れ去られている!!」
あと五秒! 頼む!!
「……分かりました。協力しましょう」
シュン。
いつも通りの第二学園の制服にシャルテアの姿に戻ったが、言質は取った!
「エリスフィア先輩、この事はまだ内緒にしてください」
「まだ信じた訳じゃない。……今回はシャーちゃんの頼みを断り切れなかっただけさ」
よりにもよってこの世界で最も考えの読めない人に最大の情報を与えることになってしまったが、今それを後悔している暇はない。
「エリスフィア先輩はカルナムート先輩達に連絡を! 私は執事達に連絡します!」
「りょーかい」
ふ〜、これで衝突は避けられた。
ひとまず安心できる。
「何だって!? すぐにその場を離れろ! 執事達!?連れてきてくれ!」
連絡するかと思った直後、一足先に連絡を入れたエリスフィア先輩の様子がおかしい。
「とりあえず逃げろ! 相手の力は未知数だ!」
「キール! 聞こえるか!?」
『お嬢様!? 今は立て込んでおります! また後で!』
向こう側からはキールの声以外にも人々の悲鳴が聞こえてきた。
「その場から逃げろ!」
『でも人がまだ!』
『貸して、シャルテア? 私レチエール、今から言うことをよく聞いて』
「レチエールさん!?」
なんで彼女が? 危ない!
『敵は魔人、吸血鬼殺しの魔法を使うわ! ここまで言えばわかるわね?』
やっぱり! それじゃ吸血鬼は戦えない!
『ここは私が持たせるわ!』
ブチッ。
通信用の魔具が強制的にきられた。
「エリスフィア先輩! 私は行きます! ここで執事達を迎え入れて閉じ込めておいてください!」
「ああ、了解した。頼んだよ」
返事をする猶予もない。正真正銘本気で行く!
俺は出せる限りの速度で地下を駆け抜け地上に飛び出し、そのまま戦場の中心へと走った。
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