表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/62

五度目の転生は失敗!?

  暗闇、静寂、何もなく何も聞こえない場所。ここはいつもの世界の狭間だろう。この場所に訪れるのは五度目。

  いつもの事ながら何も無い。空間と呼んでもいいかどうか分からないような場所だが、俺しか存在しないと言うのは悪くない。


「やっと……見つけた、ぞ。転、せい、しゃ!」


  静寂を破り、暗闇の中に自分の魂以外にもう一つ魂の輝きが現れた。

  その輝きはみすぼらしく、荒んでいた。魂が激しく、削れていっているのが分かる。

しかし、その声は激しい憎悪を含んでいた。自分の魂が消滅しそうなのにも関わらず、俺の方へと飛んでくる。

そしてこの魂が放つ鼓動、いわゆる魔力反応には覚えがあった。


「お前本当にしつこいな〜。まぁいいや、精々残り少ない余生を有意義に使えよ? ここ何にもないけど」

「かな、らず……殺す!」


俺は友達に軽い冗談を言うように、その魂を挑発した。その直後に発された『殺す』という言葉からは凄まじい執念を感じられた。

こいつの死に際よりも憎悪は膨れ上がっている気がする。死んでなお俺を恨み続け、世界の狭間まで辿り着いたことは大いに賞賛に値する。

だが、世界の理は理不尽、必ず努力が報われるとは限らない。


「気長に待つとするよ。次の世界でね」

「さ、せる、か」


  俺の魂は事前に組み込まれた【輪廻継承(りんねけいしょう)魔法】が発動し、この世界の狭間から離脱しようとしている。

  その安全かつ最強の魔法に横槍が入った。もう一つの魂からの魔法である。


「残念だったな、お前の残り少ない魂を削っても俺には届かない」

「ふ、はは、お前の、順風満帆な旅は終わりだ! 来世で苦しめ」


  全く最後だけは饒舌な野郎だ。こいつの正体は前前世の時に現れた魔王だ。

しつこくてイヤミな奴でで人類の敵、そんな奴に恨まれても痛くも痒くもないね!



  景色が消える。魂の輝きで視界は白く染まり尽くす。これでもう世界の狭間から脱出出来たことは確実だ。

  さぁ目を開ければ世界最強の順風満帆な人生が俺を待っている!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おぎゃあ、おぎゃあ!(ようこそ世界! こんにちは最強ライフ!)」


  おぎゃあ? 声を発したのは本当に俺か!? どうなってる!?

俺が発したであろう声は……まさに産声だった。


「残念ながら……忌み子です。十歳まで育てて売るか、今ここで殺すかどちらになさいますか?」

「おぎゃ?(へっ?)」


  今まで四回とも十歳前後の男子に転生していたのに何でこんなことに!?

  それに生まれたての赤ん坊を殺すか売るかって何その鬼畜選択!?

  勿論……親は反対してくれるよな?


「こっこんなに頑張って産んだのに忌み子だなんて! ねぇ貴方! 私はこの子を育てたいわ!」

「おぎゃあ!(お母さ〜ん!)」

「女か……大した労働力にもならないぞ」

「おぎゃおぎゃああ!(なんてこと言うんだクソ親父!)」

「それにうるさいぞ?」

「……」


  あ〜! 女の赤ん坊とかなんなんだ! これまでの経験上女の利点などほとんどなかったぞ!

  次に【輪廻継承魔法】が使えるようになるのは三百年後、それまでに死んだら本当に死んでしまう!


「あまりオススメはしません。この国の王ともあられる方々の娘が人間などでは評判が悪くなるのも必然のことでしょう」

「この一件はすべて内密に、そして全てをお前に委ねるオリビア」


てか、人間で何が悪いんだ? 人間ほど便利な種族もそうそういないと思うが。

  それにしても、この部屋にはどうやら三人しかいないらしい。母親と父親、もう一人は助産師の人だろうか。

薄暗く、あまり文明は発達していなさそうだ。


「いいのですか?」

「お前が頑張って産んだのだ。誰にも異論は唱えさせない」

「しかし王っ!」


  本当に王なのか? それなら中々の幸運かもしれない。今までは平凡な家の出ということで何度か苦労したからな。


「異論は認めない。聞こえなかったか?」

「っ! 席を外しております。決まり次第お呼びください」

「ごめんなさいねキール。いつも迷惑ばかりかけてしまって」

「いえ、気になさらずに。それでは失礼します」


  扉を開け助産師らしい男の人が退室した。名前はキールというらしい。今の筋力では首を動かすことすらできないので部屋の全貌を知ることが出来ないのが難点だ。


「私はこの子を育てたい。でも十歳になっても死なせたくない」

「それは、後に考える。お疲れ様、俺達の第二子はここに誕生した」

「ありがとう! 大切に育てます」


  顔に水滴が落ちてくる。母親の顔から流れ落ちてきた涙は目にしみた。


「おぎゃあ! おぎゃあ! (いたっ! しみる〜)」

「ごめんなさいね、実は貴方の名前はもう決めてあるのよ」

「忌み子に名前を? それは……いや、何でもない」


「分かっているつもりよ。それでも親からの愛を授からない子はいないわ。貴方の名前はシャルテア。ーーーーシャルテア・ウィズマークよ」


  こうして俺の六度目の人生の幕が開けた。世界に来て三秒で命の危機に立たされるとは思ってもいなかったが、十歳それまでに俺は安全を手に入れなければ死ぬことは判明したわけだ。


  波乱の人生を歩んできたつもりだったが、まだまだ何があるか分からないな。性転換とか考えもしなかったし。


部屋の中に産声が響いた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ーーーー八年後


「お母様、準備が整いました」

「うん! 完璧に匂いは隠せてるし耳も本物同然よ!」

「でも付与魔法は全て跳ね返してしまうんですよね」

「それはしょうがないわ。シャルテアの男装は完璧だしね」


  俺は今日、()()()()社交界デビューする。この八年間どうやって生き残るかだけを考えてきた。


  まず初めにラクガキが上手くかけるようになった二歳の時、十メートル四方の紙に魔法陣を書き上げ魔法を使った。

  魔力量は継承されている。後は日頃から魔力を抑え魔力量を悟られなければいいだけだ。

  前世に当たる五度目の人生で俺は遂に【不老不死魔法】を完成させた。体の成長が止まるのを十五年後に設定し、魔法を発動させた。

  これで死ぬことは回避できた。


  しかし、この魔法も完璧ではない。【石化魔法】や【封印魔法】などに対しては無力でしかない。なまじ死ねない為、余計に苦しむ事になるかもしれない。


  おっと、俺としたことが最も重要なことを言い忘れていた。

  なんとこの国は!


「シャルテア? 時間ですよ」

「ではオリビア様、シャルテア様行きましょう」

「分かりました。俺はウィズマーク家の次男、シャルク・ウィズマークです」

「キール、外ではシャルク様よ」

「心得ております。行きましょうガラード王がお待ちです」


  扉を開ける。耳が割れんばかりの歓声と拍手で迎えられる。目の前には父の背中がある。


「静まれ! 今日は知っての通り第二王子のお披露目だ、しかと目に焼き付けよ!」


  落ち着け俺! 拍手喝采などとうに慣れているはずだろう!


「ふ〜〜。俺のにゃまえはシャルク・ウィズマークだ! この国の第二王子として生まれ落ち、この国を支えるために生まれ落ちた! 」


  かっ噛んじまった〜〜! 第二王子初の演説で、全国民の前で噛むとか今までにない失態だ!


「ここにこの身をこの国、サートリア王国に捧げることをここに誓うとともに! 全国民に宣言する!」

「「おおぉーーーー!!」」


  大きな歓声と拍手が再び俺の心を振るい上がらせる。幸せそうなこの国の裏にどれだけ非道な制度があったとしても、ここにいる国民のこの笑顔だけは絶対に守ると心に誓った。


「「シャルク様万歳! ヴァンパイア万歳!」」


  まるで神輿にでも担がれている気分だ。誰も噛んだことなど気に止めない、善良な市民ばかりに見える。


  そうそう、さっき言いかけたがこの国は()()()()が支配する、この大陸で最も軍事力のある国らしい。


  この栄光は多くの人の犠牲の上に立っていることは知っている。しかし百聞は一見にしかず、俺はそれがどういう事なのかをまだ理解していなかった。


 ーーーー時は流れ、今日は第二王子の十歳の誕生日が祝われる予定だった日が訪れる。

  しかしサートリア王国の全国民は黙祷をしていた。

読んでくださってありがとうございます!

感想等宜しかったらお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ