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MEGA-KILLER ~地下衛生管理局特別殺虫係~  作者: 浪川晃帆
第二部
78/81

第78話 深いところ

 

 

 

 動き出す。

 地底に眠りし災厄が。

 それは巨大に、強大で。

 激しく。

 また静かで。

 暴れ。

 そして、踊る。


 激しい地下の振動の中、命の警告は完全に無視した。

 一寸先も見通せぬ、この暗い闇の先には先のない先がある。

 自ら死に向かって走っているようにしか思えなかった。

 またそれが何とも快感で。

 頭のネジが飛んで、とんだ開放感がアドレナリンとともに、空いたねじ穴から勢いよく噴出した。

 

 パラリパラリとトンネル上部より落下するのは、この横穴を構成する壁の欠片。

 地の唸りは、崩落の予兆。 

 しかし、絶望というよりは、歓喜の叫び、雄たけび。

 この手をぴたりと死に触れさせることは、これ以上になく興奮した。

 それだけのことだ。

 最悪で最高。


 今、ルニアの元へ。

 どんな恐怖が待ち受けていようと、必ずそこにたどり着く。

 恐怖も狂気も、どちらも親しい友人で、まるで恋人か、若しくはそれ以上の何物か。


 そして、たどり着くは最深部。

 行き止まりの空間に、どかんと居座るその巨龍こそ、超メガ級地底害虫ムカデリオンだ。

 なに、なんてことはない。ただの大きなムカデである。


 それでルニアはどこに?

 まもなく発見。

 彼女は無事だ。


「あっはははははははっははははははははははっはははははっ、あは。」


 凄まじい笑顔でこの化け物を迎え撃つ彼女。

 いや、化け物はどっちだ。


 掘削地龍ことムカデリオンの突撃を正面から受け止め、一瞬の間を置き、そしてどこまでも吹き飛ばされるルニア。

 宙を滑走し、小さな彼女は風に舞う木の葉のようであった。


 そして、そこに現る者は潤史朗である。

 飛んできた彼女を胸に受け止め、両腕で抱えた。


 腕の中に抱えたルニア。 

 額からはドクドクと血を流し、白い頬を鮮やかにつたう。

 身につけた耐衝撃スーツはボロボロだ。一体どんな衝撃を受けたのだろうか。

 しかし金色に光る両眼は、その輝きを一層強め、目が合うとニコリとそれを細めるのだ。

 

「うふふふふふふ。ねえねえねえジュンシロウ、こいつ、とっても強いんだよ!? うふふふふふふふふふふふふふ。ふふ。」

「そうみたいだね。大丈夫?」

「うふふ、ルニア、とっても楽しいよ?」

「怪我は?」

「わかんない。」


 次の瞬間、見上げるそこには巨大の頭。

 ムカデリオンの頭部がこちらを見下ろした。

 開かれた左右の牙は恐ろしく広く構えられる。

 突撃。


 ルニアを抱え、そのまま空中へと退避する潤史朗であるが、今の衝撃で飛散した大量且つ巨大な岩石が潤史朗の方にも襲い掛かった。 

 その岩石を制するのはルニアの力。

 接近する巨大な岩の塊、その軌道をうまく逸らした。


 そして着地する。

 ルニアを置いて、地に立つ二人は巨龍の目前。

 

 ムカデリオンの放つ息吹は、トンネルの中に大きな風の流れを作り出し、低く唸るように往来する。

 そのムカデの頭部にはなんら損傷も見当たらない。


 対して、傷つき、ボロボロの姿であるルニア。

 この巨大な相手に超常現象たる例の力は通用しなかったか。

 

 ムカデリオンからしてみれば、この構図はまさに人間とアリのようなものだ。もはや敵とさえみなしていないかもしれない。ちょっと鬱陶しい虫を軽く潰そうとしているだけだ。

 そもそもこれを二人で倒そうなど、発想からして狂っているのだ。


「うふふふふ。」


 しかしルニアは。

 これが彼女の本質なのだろうか。

 戦いにおいて、自身の死ぬ事など欠片も感じてはいないのだろう。

 

「ルニア。」

「なぁに? ジュンシロウ。」


 そう笑ってこちらを見る彼女はいつも通り。

 そして、流れる血液が一層痛々しく見えるのだ。


「血が出てる。」

「ふぇ?」


 ポーチから滅菌ガーゼを取り出して、彼女の顔の汚れを拭って落とした。

 傷は……、すでに閉じかけている。


「ねえねえジュンシロウ、コイツ殺そうよ。うふふふ。ね? いいでしょ? やろ?」

「いや、もういいんだルニア。帰ろ、一緒に。」

「どうして?」

「傷だらけだよ、ルニア。」

「うふふふ。こんなのルニア平気だよ。ふふふ。」

「それでもだ。これ以上傷ついちゃ駄目。みんなで一緒に帰りたいから、頼むよ。」


「うふふふ、ふふふふふ、ふふ、あははははははは。」


 そう笑うルニア。いつもと同じ筈である少女の笑みは、その裏側に底知れぬ何かを感じさせた。

 またこの声が、それが聞こえる度に、どこか自分の深いところを優しくそっと触れるように感じられ、不思議な感覚を覚える。


 そして彼女は、その細く白い両腕をこちらの首に回し、そして、小さな顔をゆっくりと近づけるのだ。


「優しいね、ジュンシロウ。でもルニアは平気なの。」

「平気じゃない。ぼろぼろだ。」

「こんなの大したことないよ。うふふ。」


 その間、強力な咆哮を浴びせてくるムカデリオン。

 都市をも破壊せん巨大な化け物は、どうしてか今、二人の横に脇役を押し付けられていた。

 その様子を横目でちらと見る彼女は、面倒臭そうに左手を掲げる。

「うるさいなぁ、もう。」

 と。

 その力は大咆哮の暴風を切り裂き、二人の空間を静かに保った。


「ねえ、ジュンシロウ。ルニア知ってるよ? ジュンシロウもルニアと同じ。」

「同じ?」

「そうだよ。だからジュンシロウはルニアを受け入れる。ルニアの好きなジュンシロウはルニアと同じ、この暗闇で、何者にも敵わぬ敵を前に、心の奥で笑ってる。」

「僕が?」


「ねえ、ジュンシロウ。今、何を思ってる? どうしたい?」


「僕が思っていること?」


 光る彼女の瞳は、まるで胸の深いところを覗いてくるかのように、真っ直ぐこちらを見つめる。


 どうしたいかって? 

 ここからみんなで脱出して、それで……。

 妹の待つ家に帰る事。


 それだけ??


 いいや。違うだろう。

 そんなことはわかっている。

 自分が一番良く知っている。

 この胸に秘める探求心は、いつだって胸の奥に暴れている。

 もっと知りたいのだ、この地底の秘密を、新たな虫を、ルニアのこと、遺跡の全て、そして自分の過去と、いやそんなことはもはやどうでもいい。

 この地下の秘密に魅せられて数年。

 魂の生きがいは、いつだってここに置いてある。


 それが。

 何もない自分の全てである。

 

 何もない?

 そう。

 本質的な、自分なんてものは何もない。


「……。」

「ね? そうでしょジュンシロウ。ルニアわかってるよ。」


 そっとその身を近づけて、彼女の顔はすぐ横に、触れそうな距離までやってきた。

 耳元で囁くルニアの口。


「ルニアに見せてよ、ホントのアナタを。アナタの沈む、そのずっと奥の、一番深いところを。ね?」


 身を寄せるルニア。


 彼女の体を優しく離した。


「君には僕がどう見えているのだろう。」

「ふふっ。」

「この上っ面なんて、一切見えてないんだろうね。」

「そうだよ。」


 体勢を整える。

 この正面にムカデリオンを見据えた。


「でも、例え口先だけでもさ。みんなの為とか、誰かの為とか、そうやって言わせておくれよ。」


「ルニアの為、でもいいんだよ。」

「じゃあそうしようか。」


 それで、この巨大なムカデをどうやって倒すか?

 そんなものどうでもいい。

 この地下と、そこに蠢く巨大な神秘にただ触れていたいだけなのだ。



 しかし残念ながら。

 こう見えてきちんと策がある。

 いや、例えなかったところで、なにかしらは捻り出すのだろう。

 つまらない戦いで申し訳ないと、胸で小さくルニアに謝るが、そんな彼女はこちらを向いて笑っている。


「いいよ、殺そ。どうすればいい?」


「なんでもいいよ。取り敢えず、なんか突進してきたみたい。」


「ふふ、そうだね。かわいい。」


 襲い来るムカデリオン。

 対し、地を蹴り上空に退避する二人。


 地面を大きく抉るムカデリオンの頭部。 

 その大顎は凄まじく岩盤を捲り上げ、恐らくはこの要領で地面を掘り進んでいたのだろう。


 その様子を宙より見下ろした。

 顔を見合わせる二人。


 モードは既にハイパーアクティブだ。

 その効果がどうであれ、いまここに、キックを落とさずにはいられない。


 超電力キックを、このでかいものの頭上に。


「ルニア。」

「わかった。」


 ただし、今日のキックは一味違う。

 

 天井面を蹴り返し。

 急降下。


 その速度に加わる力はルニアの力だ。

 もはや、例えようもない超速で、真に雷、もしくは流星。

 摩擦で空気が熱く焼ける。


 そして、その頭部に叩き落とされるは、超・超電力キックなるルニアとの連携技。


 直撃の瞬間に、その外殻が波打った。

 唸るムカデは頭を振る。

 どうやらとても痛そうだ。

 

 着地。


 咆哮するムカデリオンは、明らかに機嫌を悪くしていた。

 荒ぶる超級。

 空間が歪む程の桁外れな唸り声である。


 その超級はまたしても顔面突撃攻撃を放ってきた。

 単調な攻撃だ。

 いや、それしか芸がないのだろう。

 確かにそうだ。その巨体があれば、もはや突撃するだけで全ての敵を葬れる。

 

 だがら、それ故に、その突撃を受けて立つ。

 

 着地するルニアと潤史朗。

 ムカデリオンの攻撃は、彼らが地に足をつくその瞬間に。

 再び飛び上がるタイミングを逃した。


 ならば。

 この機械の手足と更に全身をもって受け止めるのみ。


 潤史朗はルニアの前に立ち、その巨大な頭部に正面より向かう。

 

 瞬間、まるで自ら電車に轢かれにいくような光景だ。

 しかし。

 その体当たりは必ずしも無駄ではない。


 全身、両腕でこれを受け、両足で踏みとどまるよう地面に突っ張る。


 その状態にて、後方何十メートルに渡って押しのけられた。

 二本の足が、引きずられた距離だけ地面を綺麗に抉っている。


 そして、ムカデリオンの突撃は、止まった。止められた。

 

「どんなもんだよ、ムカデさんや。」


 と、切らす息の中、喋らずにはいられなかった。

 勿論、今の踏ん張りで巨虫の体当たりを止めたわけではあるまい。

 しかし、この近接距離は大きなチャンスである。


「これをお食べよ。特製の嵯戸爆弾だ。」


 そしてムカデリオンの口の中に投げ込んだのはとある特殊爆弾である。

 そう、あの操られた嵯戸が自爆の為に巻いていた腹巻だ。

 彼曰く、半径50メートル以内のものを吹き飛ばす新型特殊爆弾であるとのこと。


「ルニア。この口塞いで。」


「わかった!」


 何やら凄い爆弾を飲まされて、加えて強制的に口を閉ざされるムカデ。

 次の瞬間。

 一瞬その頭部が膨らんだようにも見えた。

 ぼふんと一発。再び開いたこの口から、黒煙が朦々と立ち昇る。


 そして、その頭を叩きつけるように地面に落とした。

 同時に鳴り響く地響き。

 かなりの効果が伺えるが、その程度は如何ほどに。


 まだまだ。


 頭をゆっくり持ち上げるムカデリオン。

 流石は超級、むしろこの程度でくたばってしまうようでは興醒めだ。

 口内は大火事で、しかもぐちゃぐちゃになっているだろう。

 だが虫だ、そんなことは大したことではない。


「それで、どうする? ジュンシロウ。」


「ああ、そうだね。それじゃあ……。」


 だが、そう言いかけたその時。 

 潤史朗は不意に膝から崩れ落ちる。

 反射的に手をつくが、その手も肘から先が急に力が抜けたようにがくりと折れて顔面から地面にゆっくり倒れた。


 見れば義腕義足の節々から火花を漏らし、さらには煙まで吹かしている。

 どうやらルニアの力の補助を使ったせいで無理が祟ったようだ。

 考えてみればそうだ。普通あの質量のものをこんな小さな体で受け止め切れるはずもない、そして一瞬でもあれ、たかがキックでムカデリオンを怯ませられるほどの力を叩き出したのだ。

 明らかに限度を超えた機動力を発揮している。こうなる事もやむをえまい。

 しかし。


 その目の前には、再び勢いを取り戻したあの怪物が、ごうごうと唸り声を立て、見下ろしているのだ。


「ははは、いい感じじゃないか。はは。」


 笑える程に笑える状況。



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