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MEGA-KILLER ~地下衛生管理局特別殺虫係~  作者: 浪川晃帆
第二部
77/81

第77話 地下核実験場ー5

 

 

 意識なく操られた沙紀。彼女の放った弾丸は、潤史朗のすぐ横を掠めていった。

 今、回避をしていなければ確実に当たっている。やはり彼女に意識はない。この状態は、もはや動かなくなるまで拳銃をぶっ放すだけのゾンビだろう。


「さあさあ、一体どうするつもりかな。潤史朗くん。」


 再びレイシアの体に降り立ったテントウムシドローンは、走り回って銃弾をかわす潤史朗を眺めながらに言った。


 打つ手なし、なのか。 

 確かにこのテントウムシ、こと東雲廉士の言う通りである。操られた沙紀は、潤史朗が死ぬまで発砲をやめる気配はない、そして沙紀自身はその重症で動き続ければ出血多量でやがて死ぬだろう。

 この状況、沙紀を拘束すれば収まるか。

 残念だがそれは厳しい。まず第一に道具がなければ、あったとしてもそのような行動をそこのテントウムシが黙って見ているとも思えない。そして拘束できたところで、沙紀がそれを脱出しようともがけば結局は死ぬ。

 根本的な解決は、やはり催眠状態の解除。

 しかし、如何にして。


「はっ、ははは、あははははっ。」


「?」


 弾を避け、走りながらに笑う潤史朗。

 テントウムシは首を捻った。


「どうしたの? 頭が壊れちゃったのかな?」


「いいや! そんなことはないさ。ははは。」


 その間、幸いにも拳銃の弾はなくなった。 

 して次に、沙紀が取り出したのは兼戦闘ピッケルである。

 彼女はそれを手に持つと今にも倒れそうな足取りで、ゆっくりそれを振り回す。

 ここまでゾンビじみた動きともなると、回避するのに動体視力など関係ない。

 当たりようもないピッケルの斬撃。

 もはや問題なのは、沙紀の命が尽きるその瞬間まで時間のみだ。

 果たして、潤史朗に策は……。


「はははっ。」


 あるのだろう。


「姑息なテントウムシだ! なるほどなるほど、この方法をもって眼鏡の中尉をあんな風に使っていたのか。」


「そうだよ。」


「笑止!!」

 

 と、潤史朗は間髪入れず。


「で、この僕が眼鏡の中尉を殺して、そうしてここに舞い戻ったと?」


「違うのかい?」


「はっははっははははは、あはははは。」


 笑う潤史朗とテントウムシ。

 一方にあっては、表情に現れなくとも愉快な気分ではないだろう。


「滑稽だ。奥の手みたいにかましてくるから、一体なにかと思いきや。」


「……。」


「嵯戸中尉は健在さ。」


「なにをやってくれたのかな?」


「なにって? ほら、こうやってさ……。」


 そう言う潤史朗が、手を伸ばしたのは右側頭部。

 アクションカメラがそこに触れる。しかし、押すボタンはいつものそれではない。

 素早い入力。

 ここで新たな力を発動させる。

 しかしこれは、決して驚くべき様な類のものではない。


『オペレーションシステムが選択されました。』


 アクションカメラがアナウンスを始めて。


『オペレーションを発動します。』


 そして次の瞬間よりアクションカメラのランプは高速で点滅。

 電子音声はさらに続ける。


『オペレーション・スタンハンド。……システムの起動が完了しました。放電出力の設定は、レベル2。感電にご注意下さい。』


 潤史朗の左腕。

 一度はレイシアとの戦闘中に分解されてしまったが、その不具合の原因は新機能の搭載による調整不足である。

 内部に絶縁体を仕込み、そして溢れんばかりの電力を、その少しばかりを表面に流した。

 構える左手には、暗闇の中に小さな稲妻が輝いている。

 果たしてこれを特殊能力とでも言いえるのか。

 いいや、ただの電流だ。

 悪く言えば漏電、良く言ばスパーク。ただし、いずれにしても使い勝手は抜群だ。

 例えば、目の前の人にちょっとだけ休んでもらいたい時など。


「いくよ、スタンハンド。」


 振り下ろされたピッケルを回避、そして潤史朗は、電気を帯びたその左手を沙紀に少しだけ触れさせた。


 簡単に言ってしまえばスタンガン。いいや、もはやスタンガンそのものだ。


 崩れるように倒れる沙紀を右腕で支える。


 かくして催眠効果は破られた。 

 

「と、この要領で眼鏡さんにも眠って貰った。別に驚いたりしないよね? 君だってスタンなんちゃらで、一度はクガマルを撃退したんでしょ?」


「なるほど。」


 そうして潤史朗は彼女を隅の方へと運んで寝かす。


 再び向かい合う二人は、志賀と東雲。

 何が本物で、何が偽物なのか。そんなものは結局戦いには関係ない。

 ただ、今ここに二つに力がまたしても拮抗するのだ。


「で、司令官だかテントウムシだか知らないけど、その程度の知力で真実を見破ったとは片腹痛いな。そんな姑息な手段で志賀潤史朗に勝てるはずもあるまいよ。それとも何だい? 君にとっての志賀潤史朗ってのは、単なる格闘馬鹿とでも?」


「何が言いたいのかな?」


「何って? そうさ、僕らにとっても格闘戦なんて遊びに過ぎない。そして君は、志賀潤史朗の天才的戦術の前に敗北する。」


「?」


「クガマル!」


 飛翔するクガマルは再び潤史朗の右腕へ。

 合体。


「オーバーアクティブ。」

「あいよ。」

『設定が変更されました。現在の設定は、オーバーアクティブ……。』


 して体の制御はクガマルへ。

 

「それでどうする気だい? 自称志賀潤史朗とやら。」


「何って? 叩きのめすだけさ、ゴキブリみたいに。その自称司令官様をね。」


「そうかい。まぁいいけど、一つ良い事を教えてあげよう。」


 と、そう言った瞬間に東雲操るレイシアの体は潤史朗へと急接近。

 そこから繋がる攻撃は、果たして蹴りかそれとも手刀か。

 否、そのいづれでもない。

 最接近したそのタイミングにて、頭部のテントウムシからは、緑色の光線が放たれた。


「君自身、これに対策ができてないじゃないか。」

 

 潤史朗の顔面に照射される緑の光は、例の催眠波動に他ならない。 

 潤史朗は両眼に光を浴びた。


「ははははははっ。何を言い出したかと思ったけど、結局克服できてないじゃないか。それとも自分自身を気絶させるかい? あははははは。」


 催眠波動を直視した潤史朗。

 果たして。


「じゃ。取り敢えず、君は自身の両腕両足を破壊して降伏して。はい。」

 

 そして、東雲廉士の命令は発せられた。

 催眠波動と、これに抗うことの出来ない絶対命令である。


「……。」


「……。」


「……。」


「おや?」


 動かない潤史朗。

 首をうなだれ、命令に従うことも無ければ、他に行動する素振りも見せない。


「これは?」


 と、テントウムシがこの現象を不思議がると同時に、いつもの側頭部がまたしてもアナウンスを告げるのだ。



『オペレーションシステムが選択されました。』



「な?」

 気を失っているのだろうか。ただそのまま突っ立つ潤史朗の、その管制装置のみが喋りまくる。


『オペレーションを発動します。』


『オペレーション・マニピュレーターコンバージョン。システムの起動が完了しました。マニピュレーターコンバージョンを実行します。』

 

 そして次の瞬間よりアクションカメラのランプは高速で点滅。

 電子音声はさらに続ける。

 

『無線接続作業実行中。外部端末を探しています、しばらくお待ち下さい、接続完了。オペレーションが成立しました。』


 すると。


「言われた通り、ほら、気を失ったよ。」

 

 その声は項垂れる潤史朗の右腕から。

 両眼に青色の光を宿すはクガマル、それのスピーカーより潤史朗の声を語った。


「マニピュレーターコンバージョンってね。もうさ、本物がどうとか、どうでもいいじゃん。」


 そうしてクガマル、いや潤史朗の意識を乗せたAIドローンは、右腕から離脱する。

 続いて、高速飛行によって東雲の背後へと回り込んだ。

 その大顎を左右に大きく開いて、レイシアの体へと襲い掛かる。


「そらっ、どうだい! お得意のスタンショックで反撃しないのかい!?」


 東雲の周囲を高速で飛び回るクガマルの体。

 その攻撃を回避することは簡単でも、攻撃するのは至難の業。 

 しかし、たとえ困難であろうが、このテントウムシは東雲廉士だ。

 次の大顎攻撃の瞬間に、レイシアの両腕はクガマルの体を捕獲した。


「で、スタンショックは? できないよね。わかるよ。それをやったら下のサイボーグの体が止まるもんね。」 


 捕らえられた状態でもおしゃべりをやめないクガマルの体。

 この指摘に対して、東雲廉士は至極まっとうな答えを返す。


「しかし、君もこうして捕まったわけだ。君こそどうする気だい? むしろこのドローンを捕まえた僕は、完全に目的を達成したことになるわけだけど。」


「そうなの? そうじゃないんじゃないかな。」


「??」


「君が欲しいのはこのドローンそのものじゃなくて、その中身なんでしょ? で、その問題の中身はさ、いま一体どこにあるのだろうかね。」


「なに?」



 時すでに遅し。


『……2、1。充電が完了しました……。』


 東雲の背後にて聞こえるのは、何やら不穏な電子音声。


『……大きな力が発動します。衝撃にご注意下さい。』


 そこに悪魔の笑いはなかった。

 しかし、知っている者にはきちんとわかる。きっとあれは今、高らかに笑っていることだろう。

 ただ、今は突風のごとく地面を駆け。

 右足という名の落雷を振り抜いた。


 激しい破壊。

 クガマルの体を両手で掴んでいたレイシアの体は、背後より襲い掛かった潤史朗の体による超電力キックを直撃した。


 手、足、胴。それらは爆発するが如く。

 レイシアの体は一瞬にて粉砕、吹き飛ばされた。


 残るはテントウムシのドローンのみ。

 彼らは、その中身がコメントを残す隙などは与えなかった。


 潤史朗の体、その左手はテントウムシドローンを鷲掴み。

 同時にテントウムシからは、スタンショックの電撃が放たれるが、その左腕自体がスタンハンドの機能を持ち、重要部分を絶縁体で保護した左腕に電撃は無効である。


 そこに突っ込むのはクガマルの体だ。

 大顎を開き、突入。

 捕らえられたテントウムシドローンは、次の瞬間、真っ二つに両断されるのであった。


 もはやこの場所に、その司令官の脅威は存在しない。

 ほんのわずかな、この一瞬の対決はこれにて幕を下ろしたのであった


 なにが真実で、どれが偽物なのか。

 そんなものはない。真実なんて結局は存在しないのだ。疑えば偽物であるし、信じれば真実になりうる。

 単純に、今この目の前にあるものこそが、現在を生き抜く者達にとっては全てだ。

 だがしかし、ここに唯一真実があるとするならば、きっとそれはそれぞれが戦いにかける理由だろう。その思いは自身らにとって疑う余地のない自分だけの真実なのだから、誰にどんなケチをつけられても、真実でいい。

 やはり結論、何一つ確実なものなんてない。

 なんて適当な。

 適当な、ものだ。


 


「クガマル。君はここに残って。」


 いつの間にやら、トンネル上部より、崩れた岩肌の欠片が舞い落ちる。

 大きく振動する地下核実験場。

 この奥で、本命の戦いはすでに開始されてるのだ。

 

 そんな中、アサルト・ゼロとの戦闘に時間を取られて未だ入り口付近にいる潤史朗とクガマルである。


 そばに倒れているのは重症を負った龍蔵寺沙紀。

 彼女の状態をみて、潤史朗はクガマルにここに残るように言ったのだ。


「バカ言ってんじゃねえ。相手は超級、ムカデリオンだぞ。テメエ一人で何ができる。」


「ルニアがいるさ。いや違うな、ルニアを連れ戻さなきゃ。この戦力じゃ撤退したほうがいいかもしれない。」


「だろうな、だが……。」

 

 とクガマルが言いかけたところ、潤史朗はかぶせるように大声で言うのだ。


「あ~あ~もう! うるさいなぁ君は! いいから彼女をきちんと守るんだ! それともなんだ!? 君ってやつはこんな大けがした女の人をほったらかしにしておくのかい?」


「ああ、そうだ。オレはこいつがどうなろうと知った事じゃねえ。」


「やかましいよツンデレ。」


「あ?」


「ほら、これ。」


 潤史朗が差し出すのはウエストポーチに忍ばした簡単な応急処置キット。

 それをクガマルに突きつけるようにして抱えさせた。


「彼女の応急手当が終わるまでは僕と合流しないこと、いいかい? 僕の意向は君の意向だからね!?」


「あ? オメエなぁ!」


「ツンデレはお黙り。」


 そんな具合で、クガマル、沙紀、そして少年をこの場に残し、潤史朗は一人地下核実験場の深部へと走り出した。

 

 この先で待ち受けるのは、超メガ級地底害虫ムカデリオンと、そしてルニアだ。


 一体どのような戦闘が繰り広げられているのか見当もつかないが、あの巨体相手では例えルニアとて無事では済まされまい。

 可能性として、彼女はもしかすると恐怖という感情に対して鈍感だ。

 強大な力を持つが故だろうか。

 しかし、それは少々危険すぎる。

 時として戦いには恐怖感が必要だ。

 それをこの潤史朗という男が語るのも少しおかしな話ではあるが、それでもこの状態を放置してはおけまい。

 今は少しでも時間が惜しい。

 ただ、暗闇に続くトンネルを走れ。




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