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MEGA-KILLER ~地下衛生管理局特別殺虫係~  作者: 浪川晃帆
第二部
76/81

第76話 地下核実験場ー4

 

 

 東雲廉士と志賀潤史朗。

 どんな因果が彼らをここに呼んだのか、もしくはこうなる運命であったのか。元同僚である二人は、親しくも敵同士。いいや、親しいなんてのは嘘だ。互いに何も、何一つとして知りはしない。ただ、胸の内に忍ばした陰謀が、この避けられざる戦いを引き起こしたのである。

 

 いざ、対決。


『設定が変更されました。現在の設定は、ハイパーアクティブ。周囲の状況を確認し、安全に活動して下さい。』


「そうか、じゃあこっちもハイパーアクティブだ。」


 姿勢は低く、この間合いに張り詰めた腕と足は互いに大体同じ物。

 一方はフルサイボーグにドローン頭、一方は生身に機械手足をくっつけた者。

 

 先に攻撃を仕掛けたのは潤史朗だった。 

 爆発的なまでの力で地面を蹴り、音にも近く、その足は衝撃となって東雲を襲う。

 しかし、これをいとも容易く回避するのが東雲廉士。

 今はっきりとわかった。

 この動体視力に巧みな体術。やはりコイツは東雲だ。本人の確認などは必要ない。当時から何の遜色もない確かな実力。無双の鉄人とも称された、かつての志賀潤史朗にも迫る戦闘力である。


「おやおや。やはり君は……。」


 続く潤史朗の攻撃。

 しかし彼には掠りもしない。

 壁を蹴り返し、更なる一撃を繰り出すも、まるで動きの全てを完全に読まれているかのように回避される。

 そしてすれ違いざま、東雲の攻撃。弾丸の如く膝蹴りを胴に食らった。

 これにより地面に転がる潤史朗。

 脇腹を押さえながら立ち上がった。


「いてててて。」


「やはり、君は志賀潤史朗ではない。そうでしょ? どう考えたってそうだ。」


「なんだそりゃ、どこのホームズよ君は。僕が潤史朗じゃなかったら一体なんだって言うのさ。それはあまりにも哲学的すぎる。もっと目に見えた現実を直視しようよ。まぁ生憎、ジュンシロウとは何か、だなんてアホらしい議論に付き合う気はないけどね!」

 

 そう言いつつ、再び飛び掛かる潤史朗。

 だがしかし、今度はその足を掴まれて宙を一周。そのままの勢いで地面に叩きつけられた。

 

「あぎゃっ。」


「弱い、弱すぎる……。」


 それでも被害は依然軽微にとどまるか、潤史朗はぎこちなくも立ち上がった。

 確かにこれでは東雲の言う通り。沙紀の方がよほど良い勝負ができただろう。


「そろそろ本気で殺しにかかるけど、いいのかい? クワガタムシ君。そこの彼を殺すよ?? それとも、君の正体ってのは彼の命よりも大事なのだろうかね。」

 東雲の言葉を発するテントウムシドローン。


 沙紀の方につき容態を観察していたクガマル。

 クガマルは一旦ぴたりと行動を止めた。

 潤史朗がちらりとクガマルの方を見るも、特に何かを言うことはしなかった。


「この際だからはっきりと言わせてもらうけど、僕の狙いは君だよ。クワガタムシ君。もはや作戦が失敗した今、そっちの奥にいる大きな害虫になんて興味はないし、4900地帯の被害もどうでもいい事だ。ただ一つ、君のことはどうでもよくない。」


「……。」


「なぜか。そうだよ、君というドローンの存在だけは、なぜか公安のデータベースに上がってこない。だってほら彼の義腕義足、こうしてグラン-エクスノイドの設計は君たち特務技研中央開発部と僕らアサルトゼロとで同じ情報を共有できるのに、そのほとんど全てを把握できる司令官たる僕が、君のことを知らないんなんて異常事態だ。そう思わない?」


 と、そう言いつつ次に攻撃を仕掛けるのは東雲廉士。 

 接近速度は同性能、しかしそこから繋がる連撃は同じ機械とは思えない程に凄まじい。

 まるで花火が連続で開いたような、鮮やかな連撃が潤史朗を打つ。

 これに吹き飛ばされる潤史朗、勢いよく側壁へと激突した。


「そして、君の正体は何?」


「いっ……。」

 

 潤史朗が再び立ち上がるのには、更に時間を要した。

 体全体に走る激痛、肋骨の何本かは折れたのではないかと思うほどの痛みである。プロテクター入りの作業服でなければ、すでに重要臓器が破壊されていてもおかしくはないダメージだ。

 しかし、痛い。

 乱れる呼吸の中、壁をつたって何とか立ち上がる。


「もうはっきり言うけど、本物の潤史朗は君なんだろう、クワガタムシ君。そうだね?」


 そこにいつもの様な悪魔の笑いはなく。

 クガマルはほんの少しその大顎を左右に開いていた。


「否定も肯定もしないか。いいけど。」


 それに表情のないドローンたるクガマルは、一旦黙ると何を考えているのかわからない。しかしそれでもいつもと様子が違うのはわかった。

 

「そうだ、こういうのはどうだろう。クワガタムシ君、君は僕のところに来なよ、そうしてくれたら僕は大人しくここを引き揚げる。それで奥の害虫も倒しに行くといいさ。別に難しい話じゃないだろ? みんな助かるし、誰も損はしない。どうかな?」


「はぁ……。」


 ここで初めて音声をだすクガマルは、溜息。

 面倒臭そうにその場を飛び立った。

 東雲は少し期待したような様子でその動きを目で追いかける。


「ったく。少し黙ってりゃぁ好き放題言ってくれるもんだぜ。」


「で、答えは?」


「ジュンシロ―、どーすんだ?」

 クガマルがやって来たのは潤史朗のすぐ横であった。


「どうするか、だって? このボロ雑巾みたいな僕の体を見て一体君は何を迷うと言うんだろうね。」

「バカが、色々あんだろ。いいのか? オレの力を晒しちまって。嫌な予感しかないが。」

「構わない。むしろそうするべきだ。」

 もう少し寄ってひそひそと話す彼ら。

 東雲はその様子を見て、テントウムシの首を傾ける。


「で? 相談の結果はどうなんだい? 僕の仲間になるのか、ならないのか。」


 と、東雲がそう言う次の瞬間であった。

 クガマルは……。


「ぎゃはははははははははっ。」

 突然にして、いつもの笑いが炸裂した。


「おいおいおい、テメエの話なんざ端っから聞いちゃいねえよ。何だ? オレがお前の提案を聞いて悩んでるとでも思ったか。思い上がりもそこまで行っちゃぁ立派だな、この勘違いナルシストめ。ぎゃははははははははははははっ。」


「いいよ。わかった。じゃ、そっちニセ潤史朗君は死ぬってことで。」

 そう言うと、再び攻撃の体勢を整える東雲。

 程よく前後に開いた両足と、構える拳はアシンメトリーに角度を付けた。


「ぎゃはははははは、面白いが、そいつは無理だぁああああ!! ぎゃはははははっ、おら見てろ、ぶっ壊れんのはテメエだぜ?」


 そして、高らかな笑い声と共にクガマルは勢いよく潤史朗の右腕に飛びつくのだ。


『新しいハードウェアを認識しました。……接続中、しばらくお待ち下さい……接続が完了しました。』

 管制装置のアクションカメラが喋る。


「いくぜ?」

「うん。」


『……設定が変更されました。現在の設定は、オーバーアクティブ。身体制御の優先権を外部端末に移譲しました。』


 潤史朗の四肢の操作権限が、今をもってクガマルへと移譲された。

 そして。


 この攻撃に宣言はない。

 瞬間的に東雲へと接近する潤史朗の体。

 そこでピタリと踏みとどまると、構える手足は新しい形をとっている。

 そして、そこから繰り出される手刀、いいや蹴りとも言える、同時か、少しずらして、片方はフェイクか、否、どちらも違う、回転回避、回し蹴り、さらに拳が追撃するのか、したような、していないような、ここから東雲のカウンターが来る、来た、回避したのか? していない、いつの間にか繰り出されるハイキック。のように見えるが、そうしたと思った時には、潤史朗の回し蹴りが東雲を吹き飛ばす。一旦両者の距離は大きく離された。

 炸裂する意味不明な体術が、東雲廉士を圧倒する。


「は、ははははっ、これだ! これだよ!! やはり、君こそが潤史朗なんだ!!」

 壁に激突したレイシアの体で、テントウムシドローンのスピーカーからは歓喜が溢れる。


「よかったのか、ジュンシロー。」

 右腕のクガマルが潤史朗を見上げた。

「これが正解さ。そこのテントウムシは、おそらくこの合体を望んでいなかった。」

「なんでだ。おかげでオレの格闘性能が露呈、ってか正体について要らん詮索をされただろ。」

「構わないさ。そのテントウムシ頭がやっていたのは挑発に乗らないことを見越した挑発だ。合体攻撃しないと勝てないよと挑発すれば、そのデメリットを考えた僕らは個々で戦う選択をするだろう。そうすればそれの手の内、僕がやられクガマルだけ残る。最初に言ってたじゃないか、そのテントウムシの狙いは君だって。」

「成程、裏の裏をかこうとしてきた奴に対して表で挑もうってことだな。」

「そーいうこと。」



「ははははっ、いいね! それじゃあ僕も、もっと本気だよ?」

 

 飛び掛かる東雲。

 激しい連撃が繰り出される。

 これに対して応戦するクガマルが操る潤史朗の体は、すばやい身のこなしで回避、更にカウンターから始まり、あらゆる攻撃が飛び出した。

 まるで局所的な暴風。行き交う拳と蹴りの舞いは、空気を叩き壊さんとばかりに激しさを増した。

 そして、間もなくこの撃ち合いに競り勝つのは、クガマルだ。

 レイシアの体は突き飛ばされ、地面を遠くに滑走する。


「ふふふ、流石は真の潤史朗くんだ。こんな借り物の体じゃ到底勝てそうもないや。」

 立ち上がる東雲。


「じゃ帰れ。しっし。邪魔なんだよテメエは。」

 右腕のクガマルが吐き捨てるようにコメント。


「何を言うかと思えば。格闘戦なんて所詮遊びさ。悦に浸ってるとこ悪いけど、この戦いさ、始まる前に終わってるって、気付いてる?」


「?」


 さて、こんな事を言って何を始めるのかと思いきや。

 テントウムシ型ドローンは、レイシアの体を離脱した。

 そして飛翔し行くは、沙紀の方だ。

 何をする気か? と言うよりも先に潤史朗は動き出すが、素早いテントウムシは既に沙紀の目の前に。

 テントウムシこと東雲は、気絶する彼女の両目を開く。


「さぁ龍蔵寺君。潤史朗君を殺してよ、君か彼が死ぬまでやり続けるんだ。」


 して、そのドローンから発せられるのは緑の光線。

 その怪しげな光は沙紀の両目に暫く当て続けられると、間もなくそれを停止した。

 するとどうだろう。

 うっすらと目を開ける龍蔵寺沙紀。

 重傷を負っている筈の彼女は、ふと立ち上がると潤史朗に拳銃をむけた。


「さぁ、これでどうだい?」 

 テントウムシ型ドローンが振り返ってこちらを向いた。


「催眠術か。」


「僕はね、よ~く知っているんだ。志賀潤史朗って人間をだ。彼はとっても強いけれど、大きな大きな弱点をもっている。そう、あの時もそうだった。さて、どうする? 彼女を殺すかい? 潤史朗君。」


 銃を構える沙紀を前に、潤史朗はその場に止まった。

 彼女の意識はないだろう。そして、催眠波動によって操られる沙紀は、自分か若しくは潤史朗が死ぬまで戦い続ける。

 これの解除方法? そんなものは知る筈がない。


「……、クガマル。合体解除。」

 潤史朗は静かに言い放った。


「ほほう、そういう選択をとるのか。そうだね。とても賢明な判断だ。」


『設定が変更されました。現在の設定は、ハイパーアクティブ。周囲の状況を確認し、安全に活動して下さい。』

 これにてオーバーアクティブは終了した。


 またしても個々に分かれる潤史朗とクガマルだ。


 こちらに拳銃を向ける沙紀。

 目に光はなく、細く見開かれた。

 体中からボタボタと地面に血を垂らし。

 無言に。

 頭を横に傾けて。


 東雲廉士は言った。

 志賀潤史朗には弱点があるのだと。

 それは、圧倒的戦闘力にて常にリカバリーされてきた。

 しかし今、沙紀を討たねば自分が死ぬ。その射撃から逃げ続ければ、出血多量で彼女が死ぬ。無論、テントウムシドローンを破壊しても無意味だろう。


 向かい合う二人。

 

 添える彼女の人差し指は、躊躇いもなく引き金に。

 そしてそのまま火を噴く銃口。

 発砲音が鳴り響く。


 


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