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MEGA-KILLER ~地下衛生管理局特別殺虫係~  作者: 浪川晃帆
第二部
75/81

第75話 地下核実験場ー3

 

 

 嵯戸を撃破した。


 こちらにあってはクガマル・潤史朗ペア。


「嫌な予感がするぜ。」

 地面の上、うつ伏せに倒れる嵯戸を前にしてクガマルが言った。


「取り敢えず先を急ごうクガマル。流石にルニアを一人でムカデリオンに向かわせるのは良くない。」


「ああ。」

 

 そう言ってすぐに走り出した潤史朗。

 しかしクガマルは依然として嵯戸の上空に留まった。

 何か後ろ髪を引かれることがあるのか、黙ってそこに居続ける。

 その様子に気が付いた潤史朗は一旦止まって振り返った。


「クガマル?」


「いや、いいんだ。悪いな。行こう。」


「……。あれ?」


「どうした、ジュンシロー?」


 すると、次に足を止めたのは潤史朗だ。

 彼はぼんやりと周囲を見渡して、何か思いついたかのように言った。


「ねえクガマル。何か足りなくない?」


「あ? 何がだ??」


 しかしどうやら、彼のその疑問は、クガマルが一人懸念しているところとは別の視点にあるようだ。

 彼らは、それぞれの疑問に首を捻った。

 

「何か足りない。君もそう思うだろ? クガマル。」

「何のこった?」

「あれ? もしかして僕ら噛み合ってない?」

「ないな。オレが考えてんのは恐らく別の事だ。」

「ふむ。」

「とりあえす先を急ごうぜ。」

「いや、ちょっと待ってクガマル。僕に3秒時間をくれ。きっと忘れたものを思いつくから。」

「よしわかった123。で?」

「はやいな。まぁいいけど……。」




 そんなクガマル・潤史朗と時を同じくして、こちら、龍蔵寺沙紀の方も既に戦闘を終えていた。


 目の前のサイボーグは頭を失い横に倒れ、そして転がった頭部は沈黙。沙紀はレイシアに勝利した。

 一見は互角の戦いであったが、経験で上回る沙紀が一歩先を行く形で決着がつく。

 結局よくわからない機械女であったが、戦闘を終えた沙紀の感想としては、最近のアサルト・ゼロはこんな感じなのね、と言ったところ。これ以上特に興味があるわけでもなく、早々にこの場を離れて彼らと合流する必要があった。

 なんと言っても、真の敵たるはこの奥に身を潜める超級、ムカデリオンである。

 果たしてこんな少人数で何とかなるものなのか怪しいが、だとすれば尚更のこといち早く参戦しなければ潤史朗達が危ないだろう。


「アンタの戦い、まだまだアサルト・ゼロの本質じゃない。悪いけどウチには勝てないわ。鍛え直して出直すことね。それじゃバイバイ。」

 

 沙紀は最後にもう一度レイシアの顔を確認すると、伝わっているかもわからない一言を残し、そして彼女に背を向けた。

 次に向かうは更に深部。

 長大な横穴、沙紀は一人深部へと向かって走り出した。


 しかし、その時だった。

 途端。

 その意識の死角より、唐突に突き抜けていく発砲音。

 トンネル内部に反響を繰り返す一つの銃声。


 沙紀はその音、衝撃に立ち止まる。

 胸に手を当てると皮のグローブが全体に広く湿り、とても生暖かい。

 撃たれた?

 そんな疑問が頭に浮かんだのは数秒後。

 振り返ると、そこには拳銃を片手に構えた何かが立っていた。 

 人? いや人ではない。 

 それは頭部の無い人間のような人型のもの。

 発する言葉は何もなく、ただ無機質に後方より沙紀を撃ち抜いたのだ。

 頭を失ったレイシアがそこに。


 まさか体だけで動けようとは。と、沙紀は何か一言口に出そうと試みるが、その時にはすでに体中の力が抜け、立っていることも儘ならない状態であった。


 膝をつく沙紀。

 それに続いて何処からともなく音声が響いた。


「う~ん、ダメか。今のレイシア君ならばやれると思ったんだけどね、残念。流石に元アサルト・ゼロのエースは強いなぁ。まぁこれも実験のうちだ、良くも悪くも結果を得られたならばいい。」


 どこからともなく。

 聞こえる。

 声。


 聞き覚えのある声だ。

 あの時もそう、そうやってこの声に不意打ちを食らい、そして一度に大量のものを失った。


 全身から湧き上がる血の熱量を感じた。

 一発や二発撃たれた程度で、ぶっ倒れてる場合じゃない。 

 あの時の敵が、今ここにいる。

 ここで戦わなければどうするのだ。


 口からこぼれる血を拭い、沙紀は立ち上がった。


「東雲廉士ね。出てきなさいよ。殺すわ。ここで殺す。」


「うん、いいよ。出て来てあげようか。」


 すると、どこからともなく聞こえる羽の音。

 やがて戦車の影から姿を現したのは、テントウムシ型のドローンだ。

 ドローンはそのまま飛行すると、レイシアの首の上にぴたりと着地。

 その位置に収まるテントウムシは、まるでレイシアの頭部のように、彼女の体の上に収まった。


「それで、僕をどうしてくれるのかな? 龍蔵寺君。残念ながら今日はこんな体でねえ。ちょっと死ぬことはできないんだ。」

「……。」


 そう言うドローンに対し、沙紀の言葉は続かない。いや、彼女は喋り続ける体力を残していなかった。

 膝に手をついて、なんとかその場で持ちこたえている状態。

 しかし、肩で呼吸をする彼女の動きは次第に大きくなり、地面には大量の血液が溜まっていた。

 これでも彼女の意識が保たれているのは、単に改良人間だからであり、本来であれば既に瀕死か、もしくは死んでいる。

 だが、それほどまでに弱っても、彼女がドローンを、いや東雲廉士を睨み付ける眼光に衰えはないく、寧ろ増々鋭さを増した。


「はは、頑張るね。しかし君には同情するよ。僕を殺せるこんな絶好の機会にだよ? 誰も見ていないし、死体も残らない証拠も探られない。そんな最高のシチュエーションで、この憎き仇に出会えたのに、それがただの遠隔操縦のドローンだったなんてね、ははは。ああ、勿論知っているよ? 君は僕を殺すチャンスをいつも伺っていたんだろ? まぁそれで僕がやられるはずもない訳だが。」


「……。」


「まだ立ち続けるんだ。いいけど。まぁ僕からしてみれば、君が公安に入ったこと自体が凄く謎なんだ。まさか仇である僕を殺すために入ったわけじゃあるまい。ねぇ、どうして?」


「……。」


「んん、そんなに睨んでばかりじゃ、わからないな。ああそうか、もう立っている事すらぎりぎりなんだよね。悪かった。それでも本当に凄いね、改良人間の耐久力ってのは。それじゃついでに一つ、その性能を確かめさせてもらうとしよう。こちらもあまりデータが揃って無いんだ。」


 と、そう言う東雲廉士は、合体したレイシアの体を操り、再びその拳銃を沙紀に向けて発砲した。

 放たれた弾丸はまたしても沙紀の体を貫く。

 この衝撃に、沙紀は再び崩れる様に地面に膝をついた。

 

「はい、次は三発目だ。」


 走る衝撃。三つ目の弾丸。

 激しく飛んだ血しぶきに、沙紀は完全にその場に倒れた。

 だが。

 それでも彼女の両眼は、その狙いを東雲廉士からは離さない。

 今にでも襲い掛かろう殺気を纏い、その赤い光を鋭く燃やす。


「どう? 何か言って。」

 

「……。」

 僅かに動く沙紀の口。 

 それは音として成らなくとも、確かに死ねとその二文字を言い放つ。


「なるほど、急所に三発でこのレベル。改良人間ってのは結構丈夫なんだねぇ。でも、ほんとにもうこれで終わりみたいだ。」


「……。」


「でも、君なら。」

 テントウムシドローンこと東雲は、ふと怪しく呟いた。

「君なら、その改良人間の限界とやらを超えられるのでは、ないだろうか。」


 段々と遠のく沙紀の意識。

 その向こうで、東雲廉士が何か言っている。

 もう何でもいい。ただ殺してやるとそれだけを強く胸に燃やした。


 しかし。


 次に彼女の目に入ったものは、更にその熱を大きく揺さぶった。

 いや、もうそれどころではいられない。

 もはや銃創の数など何でもいい。

 やってくれたな、東雲と。

 胸の炎は黒く激しく、自身を焼き尽くさんばかりに肥大する。


「いいものを用意した。」


 沙紀の後方に突っ立つのは。

 あの少年であった。


「彼を殺すけど……。」


 目は虚ろに、まるで自身の意識なく、人形のようにそこに立っていた。

 少年仁太が正気でないのは明らかだ。

 この状況に一言も発さず、ただ黙って虚空を見つめる。


「いちいちネタは説明しないけど。さぁ少年のピンチだ。どうする? うん、そうさ、君とは一切関係のない子供だよ。ただ、彼は孤児みたいだね、だから何って話だけど。さぁ、殺すよ?」

 

 脳裏に浮かぶあの光景。

 あの時の子供達。

 家族で、仲間で、自分が母替わりだった。

 あの男の子が、あの女の子が、もし今も生きていたらどうなっていただろう。

 しかし、彼らにそんな未来は待っていなかった。

 誰かの無力で、彼らはみな死んだのだ。

 もう、あの日の子供達はこの世にいない。


 東雲廉士は、二重操縦するレイシアの体を、その指をまたしても引き金に添えた。

 そして。


 ここで動かなければ、また繰り返す。

 もはや体はぴくりとも動かない。

 指の先から感覚がどんどん失せていき、全身は震えるほどに寒かった。

 目の前の光景も霞んでほとんどわからない、考える頭脳もすでにない。


 だがそれでも、目の前のロボットが指を引くのが認識できた。

 その先には少年。


 また、死ぬ。


 今まで一体、自分は何をしてきたのだろう。

 何のために公安に入り、何のためにSPETに入ってまで力を求めたのか。

 それが。

 こんな惨めな様で。


 また、誰も助けられない。


「……。」

 

 そして次の瞬間。

 

 東雲廉士の拳銃は、その銃口から火を噴いた。

 同時に響く射撃音。

 放たれた弾丸は少年に向かって大気を貫く。


 また助けられない?

 

 いや。

 いいや。


 そんなことがあっていいはずがない。

 許されていいはずがない。

 自身の無力さに嘆いたあの日。

 二度と。

 意地でも。

 たとえこの体が朽ち果てようとも。

 

 守れ。



 …………気付けば。

 体は少年を抱いていた。

 不思議と動いたこの体は瞬時に銃の射線に飛び込んで、少年を守る盾となった。


 そして、少年の意識が解放される。


「あ、あれ、ここは? ってあんた!! な、なんだよその怪我は!!!」



「……良かった。今度は、、ちゃんと守れた。」

 沙紀はそう小さく呟くと、彼女の体は完全に力を失し、そのまま地面に倒れ込んでいった。


「お、おい!! しっかりしろよ!!」



「はははは、凄い! 動いたね! 限界を超えた!」

 二人を前に、東雲廉士は高らかに笑う。


「それじゃ、更に行くよ!」


 だが、ここで悪夢は終わらなかった。

 操縦されるレイシアの体は、またしても少年に銃を向ける。

 そして、何のためらいもなく引き金を引くのだ。


 沙紀の体はピクリと動く。

 それだけ、それ以上はもうどうしようとも行動できない。


 しかし、その弾丸は発射されなかった。いや、正確に言えば、飛んで行く弾丸が無かった。

 拳銃は弾切れ。東雲廉士はつまらなそうに銃を投げ捨てる。


「弾切れだ。じゃあ、こうしよう。」

 東雲は続ける。


「もうわかっての通り、その少年には脳科学的な催眠波動を浴びせているからね、最初に捕縛した時に仕込んでいたのさ。そう言う訳で、まぁもうしばらくは僕の命令に従うだろう。」


「は? な、なに言ってんだ、テントウムシ頭のロボット?」

 少年が言った。


「少年よ。」

 頭部のテントウムシは少年の方に目を合わせた。

「自分の首を斬れ。」

 と。


 すると少年の様子がまたして変化する。

 目は虚ろに。一言「はい」と力なく言った。

 そして少年が取り出すのは、忍ばしていたサバイバルナイフ。

 彼は、その刃を自身の首へとゆっくり向けた。


「銃弾を防ぐよりかは簡単だろ? さぁ、彼を救って見せて! 改良人間の限界を見せておくれよ龍蔵寺君。」


 刃は、小さな首に切れ込み始めた。

 少年の鎖骨に血液が滴り落ちる。


「さぁ。早くしないと。」


 それでも。


 沙紀の瞳は、未だ力を失わない。


 動かぬ体。

 しかしそれでも……。


「さぁ。」



 この時であった。

 刹那、現れたのは何者か。

 

 横穴の深部方向より、突如として現れる一陣の風。

 地を駆け、そして瞬く間に少年の手からナイフを奪い去った。

 風はぐるりと一周巻き、その者はそこに静かに身を屈む。

 倒れる沙紀の体を起こした。


「大丈夫か。」

 現れたのは潤史朗、そしてクガマルである。

 潤史朗が沙紀の体を抱え、クガマルが彼女に声を掛けた。

 沙紀は二人が助けに現れたことを悟ると、その目に灯した光を静かに収め、そして目蓋も閉じられた。


「どうだ? ジュンシロー。」

「ギリギリでセーフもしくはアウト。すぐに治療がいる。」

 沙紀を抱える潤史朗は、彼女の脈を手早く測り、同時に創部を確認した。


「わかった。が、まずはあの鬱陶しいのを排除すんぞ。」

「賛成だ。あの鬱陶しいのを排除しよう。」


 そう言う彼らは、沙紀の体をそっと地面に置いた後、そのよくわからないロボットの前に立つ。

 そのよくわからないロボットとは、体はレイシア、頭はドローン、そして中身は司令官、東雲廉士である。


「ちゃんと来てくれたね、クワガタムシ君。いや、それとももっと別の名前で呼んだ方が良かったかい?」

 頭のテントウムシ部分が喋った。


「クガマル、この変なロボ何言ってんの?」

「さあな。意味不明だ。」


「はは。ひどい言われようだ。」



「いくぞジュンシロー、時間がねえ。こいつは3秒で撃滅する。」

「了解したよ、クガマル。」


 向かい合う両者。

 クガマルと潤史朗、かくしてこれに対するはレイシアの体とそれを操る東雲廉士であった。




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