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MEGA-KILLER ~地下衛生管理局特別殺虫係~  作者: 浪川晃帆
第二部
74/81

第74話 地下核実験場ー2



――聞こえる? ウチよ。悪いけど一人そっちに行かれたわ。対応お願い。


 現れた嵯戸を前にして、作業服のベルトに引っ提げた小型無線機から沙紀の声が聞こえて来た。

 途切れ途切れの音声、甲高い金属の衝突音を背景に彼女の言葉は続く。


――気を付けて。そいつ何だか様子がおかしいから。


「こちら潤史朗、了解でーっす。」


 その返答を最後に無線機は黙った。

 忠告どうもありがとう。しかし、やってきた嵯戸の様子がおかしいことなど、言われるまでもない。

 妙に陽気で、狂気さえも感じられる。


「はっはっはっはっはっはっ。あっはっはっはっはっ。」


「お、おい大丈夫かよ、この眼鏡。」

 少年は不安げに言った。

「いや大丈夫じゃねえな。ちょっと頭が逝っちまってやがる。」

「そのようだねクガマル。どうする? この人、僕らと戦う気だよ。」


 そのような会話を交わす中、嵯戸は皺だらけの笑みを顔全体に浮かばせながら、彼の両手は拳を作って胸の前、両足はリングの上とでも言いたげなステップを刻んでいる。


「さあさあさあさあさあさあさあさあ! 私と戦いたまえ! 志賀くん!」


「だとよ。ジュンシロー。」

「どうしちゃったか知らないけど、邪魔だよ。」


 潤史朗は、腰から大口径の拳銃を抜き取った。

 狂ったのかどうしたのかわからないが、この場においては邪魔なだけである。

 先を急いでいる以上、適当に手足を撃って行動不能にするのが手っ取り早い。


「おおっと!! それは駄目だよ! 君いぃい。っひひひひ~。っいひ。」

 

 銃を向けたその瞬間、嵯戸は勢いよく上着を脱ぎ棄てた。

 彼の行動に唖然とする。なにがやりたいのだろうと考えるも、ただの露出狂という結論以外に思いつかない。

 嵯戸の上半身は裸に。 

 やはり頭がおかしくなったのだと確信するが、その汚い上裸に取り付けられた、ある物体を認識して、何の考えもなしに狂っているのではないと理解した。

 一瞬はただの腹巻だと思っていたその物体は。

 爆弾である。


「そんな物を撃ってコイツをここで爆発させる気かい? あっはっはっはっはっ。」


「構わねえ、撃てジュンシロー。爆発したところでコイツ一人が死ぬだけだ。」

「いや待って。そう単純でもないだろう。」


「はっはっはっはっ。そのとぉ~り。この爆薬は半径50メートルほどの物は全て吹き飛ばしますよ。アサルト・ゼロが開発した新型特殊爆弾なのです。みなさん無事では済みませんよ。あっはっはっはっ。」


「だってさ、クガマル。」

「仕方ねえな。3秒だけ付き合ってやろう。」

「わかった。」


「はっはっはっはっ、一体どうするというのだね? はっはっはっ。みんな死ぬのだよ? もっと楽しくいこうではありませんか。はっはっはっはっはっ。」


 高らかな笑い声が長大な横穴に反響する。

 放った声と反射してきた声が重なり合い、ここに奇妙な嵯戸空間を作り上げた。

 やはり、何かタネがあるのだろう。

 これは嵯戸中尉として正常ではないし、何しろ何の躊躇もない自爆攻撃という行為が信じられない。こいつはそんな事をする輩ではないはずだ。

 

「ルニア。」

「ん?」

 小首を傾ける銀髪少女。

 輝く瞳を潤史朗の方に向けた。

「ここは僕とクガマルに任せて先に行って。すぐに追いつくから。」

「ルニア、こんな変なの一瞬でぶっ殺せるよ?」

「駄目だ、爆弾が怪しい。下手な事して起爆されたら、君の力でも防げるかわからない。はったりだと思うのは軽率すぎる。」

「??」

「頼むよ、ルニア。」

「……、ルニアわかった。」


 そう言う潤史朗は拳銃を一旦腰に戻し、そして右手はアクションカメラの方に伸ばされた。


『設定が変更されました。現在の設定は、ハイパーアクティブ。周囲の状況を確認し、安全に活動して下さい。』

 電子音声のアナウンス。


「いいかいルニア、絶対に無理はしないようにね。ほんの少しでも危ないと思ったらすぐに引き返すこと。いいね?」

「ルニアわかった。」

「よし。」


「ムカデ!! ぶっ殺す!!」

 満面の笑みで潤史朗に答える美少女は、くるりと向きを変えると横穴の更に深部へと向かって駆けて行った。

 間もなくその後ろ姿も闇の中に消え、ここに残されたのは、嵯戸と潤史朗、そしてクガマルと……。


「な、なあ潤史朗。お、俺はどうすれば??」

 少年仁太がいる。


「悪いね。正直どこが一番安全かよくわからん。まぁここにいてよ、きっと守るよ。」


「わ、わかった。」



「はっはっはっはっ。いいですね、決闘ですね? 志賀くん。」

 半裸を大の字に広げる嵯戸。


「ジュンシロー。オレが奴の首を切断する。それまで気を引け。」

「名案だ。僕もそれが一番効率的だと思うよ。」

 嵯戸に対する潤史朗、その体勢を低く構えて戦闘に備える。


「はっはっはっ。因みに一つ言っておくと、この新型特殊腹巻爆弾はですね、私の心拍数が40を下回ると爆発する仕組みになっておりますので。はっはっはっはっ。あなたたちに勝ち目はありません。」


「クガマル、作戦を変更。」

「どうする気だ。」

「根本的原因の解決を図る。」

「何だって?」


「それでは行かせて貰いますよ!? あっはっはっはっはっ! 嵯戸アタック!」


 奇声を上げ、突進するは上裸の眼鏡。

 両腕を左右に大きく広げ、引きちぎれんばかりの笑顔で迫り来る。

 しかしこの光景は、滑稽というよりもエキセントリック。おぞましく、まるで空間を歪ませるような狂気が噴き出ている。

 眼鏡の奥には、もはや生気を感じない。


「さあさあさあ!! 逃げ惑うのです!! 私はあなたに抱き着き、そして確実に爆殺するのです! あっはっはっはっはっ。」


「クガマル、君にはこれが普通だと思うかい?」

「どうだろうな、意外と素はこんなんかもしれねぇ。きっと色々溜まってやがんだぞ。」

「いや冗談言ってる場合じゃなくさ。」

「おう。」


 突進する嵯戸を回避しながら潤史朗はクガマルに言った。

 飛び上がり、天井を蹴り返すと嵯戸の背後に着地する。 

 その行動を何度か繰り返してやり過ごした。

 しかし、爆発の半径がなんとやら言っていたのも関わらず、律儀にゼロ距離爆発を頑張っているあたりが妙に引っ掛かる。

 それこそ滑稽、彼は一人でコントでもしているのだろうか。

 

「まるで何かのルールに縛られているように見える。」

「どういうこった。」

「確か、公安隊ってのは恐ろしく脳科学の分野に優れていたよね。記憶を簡単に消したりできるほどさ。」

「そうだが?」

「それさ。」

「?」


「はっはっはっはっ! 待ちなさぁ~い。あっはっはっはっ。」


 またしても飛び上がる潤史朗。

 潤史朗は両足をぴたりと天井面に付けると、手斧を勢いよく打ち込んで、その柄を強く引き付けることで重力に対抗。天井面に張り付いた。

 下で騒ぎ立てる嵯戸を見下ろす。


「はっはっはっ。降りてきなさい。逃げても無駄ですよ? あっはっはっはっ。」


「哀れな人だ。さて、そんな君を人間自爆兵器にさせているのは、一体誰なんだろうね。」

 呟く潤史朗。

 天井にめり込む手斧を左手に持ち替えて、彼の右手はまたしても側頭部アクションカメラへと向かった。


「眼鏡の君が、自分の意志でそうしている訳じゃないことなんて明らかだよ。これは命に対する冒とくに他ならない。まぁ君の場合それだけの罪を背負っているのも事実だけれど。」


『オペレーションシステムが選択されました。』

 側頭部のアクションカメラがアナウンスをし始めた。

 これは、活動状態の設定変更などと言ういつものそれではない。

 今この場にて、少し特別な、単純な動作以外の特殊機能をオーダーする。


『オペレーションを発動します。』


「不本意ながら、これは君にとっての救いだろう。しかし、例えそうであろうとも試させて貰うよ。新機能の実力をさ。ね、Dr.ニュートロン。」


 ボタン入力を終え、更に再び手斧を持ち替える潤史朗。

 そして構える左腕は、取り替えた新品ではない。

 一度は壊れた不良品。

 しかし、この左腕に秘めるたるものは、それは新たな可能性と、そして普遍たる悪に対抗せし確かな力である。


「クガマル、援護の必要はない。」

「わかった。」


「はっはっはっ、降りてきなさぁ~い。」


「無論、そうするさ。」


 手斧を離す潤史朗。 

 天井面を蹴り、狂乱の嵯戸に向かって垂直降下。


『オペレーション……。』




 一方のこちらは、激しく刃を交える沙紀とレイシアだ。

 目にも止まらぬ素早い斬りあい。

 お互いを斬りつけるブレードとピッケルは、かわしかわされ、受け止められる。

 もはや残像ができても不思議ではないスピード。

 いや、すでに目に映っている彼らの姿は残像なのかもしれない。


 空気を切り裂く二本のピッケル。 

 改良人間として瞬発系肉体強化型の沙紀。身のこなしは人間の叩き出せる最高速よりも遥かに先を行く。

 繰り出されるピッケルの刃は例え当たらなくとも、それが生み出す風自体も凶器にすら感じられた。

 この一撃は次元が異なる。

 次元を超えた一撃は流れる様に連なって、連なる攻撃は更に次元を超越し、ここに神速の連続攻撃を発生した。


 対するレイシア。

 機械の腕、機械の足、そして機械の体幹を持つサイボーグ。

 グラン-エクスノイドと言われる彼女の戦闘能力は完璧であり完全、最高の格闘技術と人の領域を逸脱した動体視力。無論、ボディの反応速度もその領域に対応済みだ。

 何が言いたいかというと、彼女のスペックは人の域を超えた場所にて完璧なのである。

 どんな速度の攻撃であろうと、完全なまでにそれを見切り超高速の斬撃にてカウンターが発動するのであった。


 闇の中。光の尾を引く彼らの眼は、二つの青と二つの赤。 

 ぶつかり合い、離れ、また接近する。

 何度も側壁を蹴り返し、撒き上がる粉塵と共に重なる刃の高音が弾けた。

 切り裂かれる空間は耳を塞ぎたくなるほどに悲鳴を上げる。


 この勝負の行くえは。


 速度で若干勝る沙紀に対し、レイシアの方は持久力で上回る。

 先ほどよりか、僅かながら沙紀のスピードが落ちる。

 尚、レイシアに速度の低下は見られない。

 それを体感するや否や、距離をとる沙紀が手にしたものは二丁の拳銃。

 一旦ピッケルを背中に戻し、引き抜かれた拳銃はレイシアを狙い撃つ。

 しかし、この攻撃にダメージはない。

 強いて言うならば、ボンベの背負いバンドを撃ち抜いてレイシアの背中からメガキラーが落下した。

 レイシアの体に対して射撃は無効。

 だが、その逆は有効である。

 沙紀の真似をするかのように、拳銃にて応戦するレイシア。沙紀にとって、この攻撃は回避せざるを得ない。

 その弾丸、引き金が引き込まれる寸前に身をかわすのだ。


 更に体力を消耗する沙紀。

 力の拮抗が崩れ始めた。


「アンタやるじゃない。流石はマシンってとこね。」


「あなたも、実に素晴らしい体術をお持ちのようです。」


「ねえ、提案があるんだけど。そろそろ決着といかないかしら。」


「それには賛成です。それでは、その提案通り貴方には死んで頂きましょう。」


「馬鹿ね。やられんのはアンタよ。」


 そう言う沙紀。

 次の瞬間、彼女が地面に投げつけるのは、爆散殺虫グレネードだ。

 これにて一帯はまたしてもメガキラーの濃霧で覆われた。


 視界はなし。

 ただし、この環境がレイシアにとって不便を招くかと言えば、全く持ってそんなことはない。

 むしろ沙紀にとっては大きなハンディ。

 頼りになるのは音と、そして勘である。だがサイボーグたるレイシアは、超音波、熱探知、あらゆる手段を持って、沙紀の居場所を計測するのだ。


 各種センサーによって完全武装を施されたレイシア。

 光情報などなくとも、この霧の中で敵の動きを完全に把握できる。

 敵は正面。

 どうするつもりか知らないが、その腕が腰に伸び行くのがわかった。

 敵の行動を待つ必要などない。

 この霧に乗じて無音の攻撃を仕掛けるまでだ。


 が。

 次の瞬間に、またしても地面に投げつけられた小さな物体。

 それは爆散殺虫グレネードか、いや違う。

 地面に衝突した物体は、一瞬にして爆発。


 強力な熱と、そして炸裂する音波が襲った。

 敵の形は、ほんの一瞬に現れた火炎の影に隠れ、そして超音波探知のセンサーは計測の数値が振り切れて役立たず。

 無論、光情報など何もない。


 そして霧の中から突然現れた得物。

 二本のピッケルだ。

 これに対応を。

 いや、とても間に合うタイミングではない。

  

 レイシアの首が飛んだ。

 

 霧が止む。


 そこに立っているのは、防護マスクを装着した沙紀の姿である。

 首を失ったレイシアの体は、膝から上体にかけて崩れるように倒れて行く。


 沙紀は、転がってるレイシアの首を見下ろした。


「これがアサルト・ゼロの戦いってもんよ。ウチとアンタじゃキャリアが違うわ。それがこの結果よ。」


 持久力で圧倒するレイシアに対して、沙紀が圧倒的に勝る部分と言えば、今彼女が吐き捨てたとおりだ。

 どんなセンサーで防御を固めようとも、蓄積された多彩な戦術と、磨き抜かれた戦士の勘の前には、その能力は遥か及ばないのであった。


 

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