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MEGA-KILLER ~地下衛生管理局特別殺虫係~  作者: 浪川晃帆
第二部
63/81

第63話 別区画ー2

 

 

 メガキラーを盗まれること、その数2本。また、現在の地下にあっては5000メートルの境界層が突破され、4900地帯まで怪虫の侵攻を許してしまっている。その原因究明もさることながら、公安隊アサルト・ゼロ幹部隊員の暴走行為を抑制し、一般人への被害も最小限に留めなければならない。

 多忙だ。

 だが、その前に。

 少々見過ごすことのできない怪物が、5000メートルより下から這い出てきてしまった。

 そいつは何とも都合よくアサルト・ゼロα中隊を壊滅状態までに追い込んでくれたわけだが、それでおとなしく帰って貰えそうにはないのである。

 また、こいつはなかなか厄介な敵でもあった。

 確かに脅威レベルとしては大した事はないのだが、それは単に積極的に人を襲わないからだ。しかし、一旦暴れだしたら非常に面倒くさい。ゴキゲーター以上の防御力と、ゴキゲーター以上の破壊力、更にメガキラーの効果は薄いときた。

 これの名前は、メガロマイマイ。

 見てのとおり、ただの超巨大カタツムリだ。

 しかしながら超電力キックでも破壊できない殻を背負っており、ナメクジ状の本体はあらゆる攻撃を柔軟に吸収する。

 そしてこれに加え、2本の角からは超酸を噴出するのだ。


「ルニア、そっち来るよ!」

「ムッ。」


 今まさに、ルニアに対して超酸攻撃を仕掛けたメガロマイマイ。

 その緑の液体は空中にてルニアの力の作用で逸らされたが、それが付着したアスファルトが音を立てながら溶けていく。

 こんなものが人間に当たろうものなら、数秒で骨までやられてしまうだろう。

 

 さて、朝飯前の一仕事。いや朝かどうかはわからないが、ご飯前にハードワークを一丁こなしてやろうというわけだ。

 生憎、エスカルゴなんて洒落たフランス料理の気分ではないのだが、この怪虫の攻略法はまさにその通りである。別に食うわけではないが。


「なぁ、あんた! こんなバケモン、マジでどーすんだよ!」

 相変わらず少年のリアクションが楽しい。


「こらこら敵から目を離しちゃ駄目だ。あと足元にも気を付けて。その緑の液体ふんじゃったら、靴が貫通するよ。足溶けるから。」


「うえぇええっ。」


「さて、そんじゃそろそろフランス料理でも作るとしますか。今日の僕は、まさにシェフだよ。コック長とお呼び。」


「コックチョウ!」


 攻略法は簡単だ。

 地下には沢山の種類の害虫がいて、そのどれもが大変に強力な生物だが、どんな奴でも大抵は大きな弱点を持っている。

 メガロマイマイとて例外ではない。

 どんなに強く、一見無敵に感じても、よく知っていればなんてことはない。

 まさに朝飯前。


「炒めるぞ。」


 火に弱いのだ。これは。


「機動輸送車からタンクごとガソリン持ってきたでしょ。それ、撒くから。」


 そしてこのカタツムリは鈍足だ。

 炎で囲むことに特別な武器すら必要としない。


「ルニア。でんでんむしの二本角、動きを止められる?」


「ルニアヤル。」


「よしいいね。んじゃやるよー。」


 ガソリンタンクをそれぞれ手に持つ。

 潤史朗、クガマル、少年仁太はメガロマイマイの周囲にガソリンをまき散らし始めた。

 頭上より放たれる超酸攻撃はルニアによって方向を変えられ3人には当たらない。

 人間ならば、誰しもが怪しむガソリン臭が充満した。

 しかしこのカタツムリは、次に起こりうる自身への災厄を理解できていない。


「クガマル、頼んだ。」


 ガソリンを撒き終えると、安全な場所まで後退。

 あとはこれに火をつけるのみだ。

 クガマル操縦のカブタスは背中のガトリング砲が火を吹かす。

 これによって飛び散る火花は瞬く間にガソリンに引火。目の前には炎の海が出現した。


 甲高い鳴き声を上げるメガロマイマイ。

 周囲を炎であぶられてどうしようもない。

 暴れに暴れ、のたうちまわる。

 背中の殻を振り回し、周囲のコンテナを突き飛ばした。

 今までのゆっくりな動作からは想像もつかないほどの慌ただしさである。よほど炎が苦手なのだろう。いいや、苦手どころか、このまま炎に炙られ続ければ即刻絶命する。

 やわらかいナメクジ状の本体は、それが占める水分量はかなりのものだ。それが高熱によって飛ばされれば、死に直結する事態となろう。


「ナメクジオドリ。」

 ルニアがぼんやり呟いた。

 

 確かに踊っている。が、この光景を見るに堪えないと感じる者もいるだろう。

 炎にまかれ、灼熱に苦しむ生き物の様だ。


「や、やったか?」

 テロリストの少年が言う。


「そりゃフラグだぜおい。」


 これにクガマルが答えたが。

 そうだ。その通り。

 この程度で終わるには、メガ級地底害虫にしては弱すぎる。


「やっぱ、この程度じゃダメかねぇ。」


 そう言う潤史朗の目の前で、メガロマイマイの本体は固い殻の中に退避し始めた。

 殻に潜れば熱を防げるという訳ではないのだが。

 ここから繰り出される奥の手もあるということだ。


「見てろ、このカタツムリがカブタスを破壊した技がくるぞ。」


 すると、殻に籠ったメガロマイマイは巨大な巻貝のみの状態でむくりと起き上がった。


「立ったぞ?」

「超硫酸以外にも攻撃手段があるのさ。」


 起き上がった巻貝は、ゆっくりと動き始めた。

 転がっている。

 ただそれだけだ。

 しかし、この大きさ、質量のものが転がると一体どうなるのか。

 それは簡単、あらゆるものを破壊して回る小型台風になるのだ。


「避けるよ。」


 ゆっくり転がるメガロマイマイは、その速度を徐々に増していき、こちらの場所から遠ざかっていく。

 しかしそれは決して逃げているわけではない。

 助走だ。


「来る。」


 と、向こうまで転がった巻貝は、こちらを振り向き、そして最大加速で転がり始めた。

 その速度はかなりのもの、質量も然ることながら、これに轢かれようものならば、本当の本当にぺしゃんこだ。

 また、その殻のところどころについている棘は、アスファルトを破壊しながらに突進する。


「ルニアヤル! ブッコロ!」

「いや無理だ。退くよ。」

 突進するメガロマイマイに正面から立ちはだかるルニア。

 しかし、それは無謀である。

 潤史朗はすかさずルニアを抱え、回避する方向へと走りぬけた。


「クガマル、少年を!」

「しゃーねーな。」


 カブタスから分離したクガマルは少年仁太のところまで飛翔し、その首根っこを摘まむと、羽ばたく力で少年を持ち上げコンテナ上の安全地帯まで引き上げた。


 そして、全員が退避すると同時に、そのカタツムリ台風が直撃した。

 カブタスは大破、高機動殺虫車は運よく直撃を免れる。


 そのまま転がり去るメガロマイマイは、向こうの壁に激突し、めり込むように停止した。

 ついでに火災も鎮圧状態となってしまったようだ。


「おいジュンシロー。こりゃ抜くしかねえんじゃねえのか。こんだけ広けりゃ消火されちまうぜ。」

「そう言えば、戦車、あったよね?」

「あったな。」

「やってみようか。」


 殻を破って、内部にガソリンを流す。

 究極的な手段ではあるが確実だ。ただ、どうやって殻を破るかが大きな問題である。

 今思いついた戦車の砲撃でやるか、これで破壊できるのかも怪しいが、それでも同一箇所に複数発を命中させれば何とかなるかもしれない。

 ただ一つこれを実行するにあたって、戦車の動かし方を良く知らないのが、更に大きな課題である。


「ネットで検索するしかねえな。戦車の動かし方。ちょっと待ってろ今繋げる。」

「遠隔操作できない?」

「ありゃ思った以上にアナログだぜ。」


「ジュンシロウ。」


 クガマルと作戦会議を進める最中、小さな手で服の裾を引っ張っているルニアに気が付いた。


「どしたん?」

「アナ。」

「あな?」

「アイテル。」

「空いてる?」

「アレ。」


「え?」


 ルニアが指で差す方に目を細める。

 メガロマイマイの厳つい殻。

 その一部分から不自然に、中身のナメクジ状のぬめぬめが見え隠れしているではないか。

 非常にわかりにくいが確かにそうだ。

 殻が、すでに割れている。


「クガマルよ……。」

「こっちも確認した。」



『設定が変更されました。現在の設定は、ハイパーアクティブ。周囲の状況を確認し、安全に活動して下さい。』



 一体どこの誰、いやどこの何がそんなサービスをやってくれたのかは知らないが、こんな都合のいいことがあっていいのだろうか。

 すでに鉄壁の防御は破られた。

 

 右肩に担いだガソリンタンク。

 ハイパーアクティブ状態で連なるコンテナ上を駆け抜けた。


 この人間を迎撃せんと、向けられるた角からは超酸が飛ばされる。

 しかし、この超速ダッシュにそんなもの当たる筈もない。

 そして更に接近すれば、ルニアの力により、その二本角はあらぬ方向へと向けられた。


 コンテナを蹴り飛ばし、ジャンプ。

 その巨体の上空より、降下しながらダンクシュート。

 ガソリンタンクを叩き込む。

 割れ目の大きさにあっては、長さ400センチ、幅100センチ。このシュートは外しようもない。

 ずばんと。

 ガソリンタンク、割れ目イン。

 衝撃でタンクは破損。


「クガマル!」


 これに続いたクガマルは、お腹に抱えるのは殺虫車車載の発煙灯である。

 急降下爆撃。

 狙った先は、こちらもやはり割れ目である。

 発煙灯、投下。


 爆発した。

 殻の中から顔を出すナメクジは、その内側より、破裂によって千切れながらに飛び出した。

 続く火焔は内部より勢いよく吹き出し、割れ目からは黒煙が朦々と噴出している。

 焼き殺すというより、もはや爆殺した。


「あっけねえな。でんでんむし。」

「所詮ゴキゲーター以下よ。」

「だが、カブタスじゃこれには敵わねえ訳だ。」


 炎上する巻貝を眺めるクガマルと潤史朗。


「ジュルリ。」

 フランス料理ができた。


「ゴキブリばっかに焦点あててっから、こんな雑魚にやられんだよ。」

「ごもっともですな、クガマル氏。」

「で。」

「で?」

「誰がやったんだ、あの割れ目。実際戦車の砲撃で割れんのか? ジュンシロ―よぉ。」

「無理じゃぁないさ。けど、厳しいだろうね。」

「となると何だ、まだ何かあるってのかよ。」

「まぁ、取り敢えずメシだ。もう頭回んない。」



 湯を沸かし。注いで待つは3分間。

 

「行くぞ!! 地下の宴!!」

 

 カップラーメンが3つ並んだ。

 それぞれ味の異なるキングサイズ。

 ノーマル、カレー、そしてシーフード。

 割りばしで塞いだ蓋からは、もくもくと湯気が上がってくる。

 そして、その湯気に混ざったメシの匂い。

 体内で胃が躍っている。

 いざ食わん、地下の味。


「俺はカレーだ!」

 少年が何だか少年らしい。

「うおおお! うめえ! あんた、カップラーメンって、サイコーだぜ!!」

「うむ。」


 まさか、ただのカップラーメンがここまで喜ばれるとは思っても見なかったが。

「地下スラムじゃ、これも貴重な食料なんだろ。」

 耳元でクガマルが囁いた。

「なるほど。」


「で、ルニアは? もう3分経つけど。」


 そういえば、先程からルニアの姿が見当たらない。


「便所?」

「さあな。」

「おーい。ルニアやーい。」



「ジュンシロウ!」

 そう思って辺りを見渡すと、焼けた巻貝を背景に誰かがこちらに走ってくるのが目に入った。

 長い銀髪をなびかせ、金の瞳は宝石のように輝いている。


「ジュンシロウ。らーめんできた? いいにおい!!」

「お、おう。」


 ルニア?

 いや。

 ちょっとデカいルニアになってる。


「ふふふっ。」

 寄りかかって来る体重も、胴体上部にある膨らみも、なんだかこれは……。


「ん? どうしたの? ジュンシロウ。」

「いや。ルニア、だよね?」

「そうだよ?」

「おっきくなった?」

「なった!」


 小学生ルニアは、中高生ルニアに変化していた。


「ふふっ。」


 いつの間にか。




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