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MEGA-KILLER ~地下衛生管理局特別殺虫係~  作者: 浪川晃帆
第一部
28/81

第28話 第一覚醒


 

 遭難した潤史朗を連れ、突如地底に現れた謎の女ルニア。彼女は超常現象を自在に操り、圧倒的な力を持って潤史朗の救出を試みるSPET関西1号車小隊を襲撃した。

 対抗するSPETメンバーは、機動力を生かした戦法によりこれに健闘するも、彼女の力の前に敗北寸前。その超常現象を前に死を目前とすることになるが、一行の絶体絶命のピンチを救ったのは充電が完了したクガマルであった。

 それとタイミングを同じくして、エネルギーの消耗にともない形態のダウンサイジングを余儀なくされるルニア。

 これにより、双方の戦闘力は一見互角になったと思われた。


 しかしながら、この戦いの意味に疑問を持ち始めた輝人。それに対してドローンのクガマルは、一貫して彼女の殺処分に強い必要性を主張し続けた。どうやらクガマルは、ルニアに関連した情報を何かしら持っているようだ。

 この怪女を地上に放ったらどうなるか。

 恐らくクガマルの中では、その所持している情報を元に、そうなってしまった場合のシミュレーションがついているのだろう。


 そして、依然として意識を消失している潤史朗。彼の無事は不明である。



「ルニア、戦うよ。ジュンシロウ、守らなきゃ。」

 一回りか二回り小さく変化したルニア。

 彼女は再び、クガマルと駆逐トラックの前に立ちはだかった。



「緊急掘削ロケット。」

 クガマルは駆逐トラックの運転席側に飛んで戻り、その横から重吾に指示を出す。

「待って! ボス! やっぱおかしいっす。相手は虫じゃないし。きっと話せば何とか……。」

「気分一つで人を瞬殺できる奴と、どう話すんだ? ならオメエが行ってこい。ナンパの技術に自信があんだろ?」

「え。」

「その気がないならおとなしく座ってやがれ。」

「……。」


 重吾の操作で開かれたコンテナ側部のサイドハッチ。

 そして、発射される十数のロケット弾は白煙の尾を宙に描いて、ルニアの方へと飛んでいった。

 火炎と爆風がルニアを囲む。

 前方の視界はその粉塵によって酷く霞んだ。


「ボス!! それに五十嵐さんも!! こんなの……、人殺しだ!!」

 

「黙れ。」


 後部座席で騒ぎ立てる輝人。

 それに対するクガマルは、静かに、しかし力強い言葉でそれを制した。


「オメエは今、いや、さっきから何を目撃した? こいつがオメエたちを殺すのに躊躇いはあったのか?」


「それは……。」



「あの変態野郎が気絶してる今、この尾張中京を守るのは他の誰でもねえ、オレだ。そのために殺せるもんは全部殺す。それがジュンシローの代行者たるオレの役割なんだよ。」


 思い返せば、このAIドローンは非情であった。

 ともに1万2千から這い上がり、何か友情めいたものを感じつつあったかもしれないが、これの本質は出会った最初から変わらない。

 目的のためには手段を選ばない、合理的で非情なドローンだ。


「ここの上にはな、不本意ながら守らなきゃいけねえもんがあんだよ。あくまでジュンシローの意志だが。立場上、オレもそれを実行する。」


 非情な殺人ロボ。果たして本当に、そうなのだろうか。

 輝人はそれ以上何かを言うのをやめた。

 

「煙が晴れる前につっこめ、デグノボー。」

「いや、やっぱ、しかしっすね……。」

 輝人の言葉にふと冷静さが戻ったか、五十嵐重吾には迷いが生じた。

「従わねえなら、てめえの首を切断するまでだ。オレにそれができねえと思うなよ?」

 クガマルは、自身の大顎を開いて見せる。

 このロボは、やると言ったら本当にやるに違いない。

「やれ。」

「は、はい。」


 守るべきものが……。

 そう言ったクガマルを、今は信じるしかないと輝人は思った。

 この虫は中途半端な自分とは違う。大事なこと、それについての順番を守り切る覚悟、その固い意志には一切の揺るぎはない。

 反論の余地は、ありようもなかった。


「行きます。」

 重吾は右足をアクセルに添えた。

 ごくりと、唾を飲み込む輝人は、黙ってこれを見守った。



「ふふふふふふふふ、うふふふふふううっふふふふふふ。」

 

 粉塵の中から、不意に奇妙な笑い声が響いた。


「それでさぁ、ルニアに勝ったつもりなのかなぁ? ねぇ、君たちぃ。」


 次の瞬間、力の作用によって一瞬に周囲の視界を晴らすルニア。

 不気味に笑う彼女の体は傷一つ見当たらない。


「やはり小さくなってもバケモンだな、こいつは。」



「ふふ、うふ、うふふっ、それっ。」


 彼女は両手をこちらに向けて、その内包した力を解き放った。

 瞬間、後方へと突き飛ばされる駆逐トラック。

 6輪のタイヤは地面を離れかけたが転倒までには至らない。

 

「ねえねえ君たちぃ、その中からさぁ、出てきてよ。ねえ。そうじゃなきゃ、ぐちゃぐちゃにできないよ。ねぇ。」



「トラックごと粉砕できる力はねえようだな。だが……。」

 だが依然、そこの少女を殺すための有効手段が浮かばない。


「そらあああ!!」

 つるはしを両手に持った沙紀が、再びルニアに飛びかかった。

 しかし、その先端が彼女の肌に触れる直前またしても勢いは止められた。


「ふふふ、いいねぇ。でも、無駄だよ?」

 

 右手で空間ごと沙紀を捕らえたまま。そのまま左手は拳を作り、そしてその握り締められた左手を勢いよく沙紀の腹部へと突き立てる。


 飛ばされる沙紀。

 彼女は自身の腹部を両手で押さえ、横たわった。


「輝人、あの女をトラックに回収しろ。勝手に死ぬぞ。」

「了解っす。」


 車両を飛んで降りた輝人。

 が、その瞬間に、彼はルニアの目標とされる。

 薄笑いとともに、輝人の体へと向けられた右手の平。


 そこで、その合間に介入したのは、高速で飛来したクガマル。

 クガマルはルニアの視界を塞ぎ、彼女の意識を撹乱する。

 その間、輝人は沙紀を車両の中へと回収した。


 続いてルニアは、クガマルへと攻撃対象を変更するが、次にそれを援護するのは駆逐トラック自体。

 駆逐トラックはクガマルの指示どおり、彼女を轢き殺しにかかる。

 だが、彼女の持つ力によって、その前進するエネルギーは止められ、直前にて停止、回り続けるタイヤのみが地面と擦れた。


 クガマルはその隙を見逃さない。

 車両を止めるルニアの後方より突入。

 その大顎を開いて、彼女の首根っこへ。


 しかし、またしてもその寸前に動きは止められる。

 どちらかを囮にどちらかが突入する、さすがに同じ手は二度も食らわないわけだ。


 右手から車両を、左手からドローンを、それぞれを制止させる力を発動させた。

 それらの力は完全に拮抗し、3者はその場に、力の均衡の下に縛り付けられた。


「ロケットだぁああ!」

 クガマルの指示が飛んだ。

 そして次の瞬間、再び開かれるサイドハッチより掘削ロケット弾の発射。

 

 かくしてルニアは爆炎に囲まれた。


「や、やったか……。」

 重吾がつぶやく。

 前に乗り出した輝人も、その粉塵が晴れるのを静かに見つめた。


「だめよ。」

 息を吹き返した沙紀がポツリと呟いた。



「ルニアさぁ、ちょっとぉ、怒ったよ?」

 煙の中に輝く黄金の瞳。

 それは先ほどよりも更に光度を増しており、まるで一つの光源のように煌めいている。

「ホントに、ホント、殺すから。」


 その粉塵が消退するよりも早く、ルニアは反撃を開始する。


 次の瞬間、駆逐トラックの扉が4枚、勢いよく開かれた。

 それは内部の乗員によるものではない。外から加えられる強引で強制的な力だ。

 

「うふふふふふっふ。それ、やっぱりそういう構造になってるんだねぇ。うふふ。出てきなよ、そこからさぁ。」


 これはまずいと、3人が扉を閉めなおそうとした瞬間、引っ張られるように体が車外へと引きずり出される。

 抵抗がかなわない強力な作用。

 声を出すことすらできない圧迫力で、3人は体を空中へと持ち上げられた。


 今のルニアで、どこまでの力を発揮できるのか。

 それはゴキゲーターを殺すことが困難であっても、目の前の3人を捻じ切る程度はできるだろう。


「うふふふふ、さあさあ、いっくよぉ~。」


 全身が軋む。

 骨が、肉が、内臓が、良くない方へと捻り始めた。

 激痛。しかし、声の通り道さえも狭く塞がれ、彼らの表情のみが苦痛に歪んだ。


「綺麗に散ってよ。うふっふふ、うふふふふふふ。」



 その時であった。

 後方にて、何者かの気配が新たに出現した。


「そこまでだ。」


 ルニアの後ろより聞こえる、何かの声。

 ルニアは一旦、攻撃の手を止めた。


 振り返る。


 そのゴキゲーターの死骸の山の中から、ふらりふらりと立ち上がるのは。


 潤史朗だ。


「ジュンシロウ!! 体が回復したのね!?」


 笑みを浮かべるルニア。

 彼女は3人を力の拘束から解放して、地面へと雑に落下させた。


 おぼつかない足取り。

 首は前にがくりと垂らしたままに、一歩一歩をぎこちなく前進した。


「ジュンシロウ! 良かった! 本当に無事で!」


 

「ジュンさん、いや、あれは……。」

 地面に寝そべる輝人は、その顔を見上げて潤史朗の方を見上げた。

 何かが変だ。いや、変というか。

 先ほどの「そこまでだ」という声。

 どのように頭で再生し直してもクガマルの電子音声にしか聞こえなかったが。


 よく観察してみるといい。

 潤史朗の体。

 その右腕にクガマルがくっつく、というより装着されていた。


 あの正体は……。


『設定変更――、現在の設定は、ハイパーアクティブ。』

 不意に発した、側頭部のアクションカメラからのアナウンス。


「ジュンシ……。」


「悪いな、ちょいと借りるぜジュンシロー。ぎゃはははっ。」

 

 潤史朗の体に駆け寄るルニア。

 だが、彼の体に飛びつくその直前、ルニアはぴたりとそこで止まった。


「え、あれ、違う。これは一体なに?」

 潤史朗の様子に戸惑った。

 よくこれを感知してみればすぐわかる。

 潤史朗は意識を失ったままだ。


「ど、どういうこと?」


「こういうことだぁああああ! ぎゃはははははっ。」


 潤史朗の右腕にくっついたクガマルが叫ぶ。

 同時に走り出す潤史朗の体は、ルニアの数メートル手前で飛び上がり、その勢いで義足による蹴りを繰り出した。


 あわててこれを回避するルニア。

 ぎりぎりのところでその攻撃を免れた。


「お、お前、さっきの変な虫! お前がジュンシロウを操っているんだな!」


「ご名答!!」


「返せ!! ジュンシロウを返せ!!」


「ぎゃはははっはははっ、断る!!」

 再びクガマルは、潤史朗の義足義腕を使ってルニアに攻撃を開始した。



「どういうこったこりゃ。」

 重吾が言った。

「ジュンさんは両手両足が機械なんすよ。それで恐らく……。」

「あのドローンは、彼が装備する四肢のコントロールをハックできる。ということね。」

 輝人に代わって沙紀が結論をまとめた。

「で、ああしてくっ付けば多分、ジュンさんの体にも電力を供給できる。」

「わかるけど、そんなことができちゃっていいわけ?」


「二人は、そういう共存共栄。ただの仕事のパートナーというより、それ以上の何かが、あるのかもしれない。短い時間だったけど見ていてそう思う。」

 輝人が言った。


 格闘戦に入るクガマル。

 凄まじいスピードとパワーでルニアを圧しており、手刀に蹴り技と、果たして潤史朗本人でやれるのか? と思えるほど多種多様なスタイルで攻撃を仕掛ける。

 一方ルニアは、これをかわすか、力の作用によって一時的に止めるなり、巧みに攻撃を逸らした。

 しかし彼女に反撃の余地はない。

 と、いうよりも反撃ができない。

 操られているの潤史朗の体、下手に手を出せばそれを破壊してしまいかねないのだ。


「今が、チャンスかもしれない。」

「姉御?」

 沙紀は、そう言ってふらふら立ち上がると、片足を引きずりながら駆逐トラックの運転席へと向かった。


「どうしたぁああ!? 手も足も出ねえか!? ぎゃはははははははっ。」


「くそっ、この、卑怯だ!」


「んなこと知るかぁああ!! オレとジュンシローはこう見えてなぁ、一心同体なパァアアアトナァアアアなんだ。ぎゃははははっ。」


「このっ。」

 

 先ほどの女、沙紀に負けるとも劣らぬスピードによる連撃。

 吹き飛ばすのは簡単だ。

 しかし今は。かってが違う。


「ジュンシロー!! 目を覚まして!! ジュンシロー!!」


「ぎゃははははははっ。それは無理だぁああ。今はこのオレが潤史朗様なんだぁあああああ!! ぎゃははははははっ。」


 繰り出す右足による回し蹴り。

 かわすルニアの頭上を掠めた。


 相変わらず、首を垂れたままの潤史朗の頭。

 やはり、本当に体のみを操られているのだ。


「そろそろ終わりにしてやっか。」

 右腕にくっついたクガマルは、横目でトラックのほうをちらりと見た。

 その運転席に乗車する沙紀。


「悪りぃな。潤史朗。オメエの意思とは違うかもしれねえ。だが、この地上に誰が待ってるのか、わかるな?」

 クガマルは、声の届かない潤史朗に対してぼそりと呟いた。




『超電力状態へ移行します。――充電中です。消費電力にご注意下さい。』






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