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MEGA-KILLER ~地下衛生管理局特別殺虫係~  作者: 浪川晃帆
第一部
27/81

第27話 第二覚醒ー4

 

 猛進する駆逐トラック。

 前方に間もなく見えるのは先ほどの女の姿。

 突撃すれば潤史朗ごとこいつを轢いてしまうだろう。

 迫る銀髪の女。ルニア。

 ふらりと立ち尽くすルニアの、そのすぐ横を猛スピードで駆け抜けた。


 そんなトラック程度、いつでも簡単に捻り潰せるとでも言いたそうな様子でルニアは通り過ぎるこれを見送った。

 しかし、その瞬間にトラックを飛び降りてきた人間の存在には、気がつくのに一瞬の遅れをとった。

 走りぬけるトラックから飛び降りたのは、散弾銃を片手に持った沙紀。

 地下体質の人間ならではの運動能力で、そのアクロバティックな動きを体現する。


 沙紀に向かって右手をかざすルニア。

 同じタイミングで、沙紀は手に持った銃の引き金を素早く引き込む。

 放たれる鉛の弾丸。

 それらが銃口を飛び出した瞬間に、ルニアの力である例の奇妙な回転ベクトルが加えられ見当違いな方向に飛ばされた。

 そしてルニアが次に狙うのは、沙紀本人。

 そいつを捻じ切ることなど造作もない。ゴキゲーターに比べれば人体など紙をくしゃくしゃに丸める程度の力で済んでしまう。


 右手に力を伝達した。

 しかし、その女、沙紀の移動速度は想像以上に高速だ。明らかに普通の人間とは一線を画す身体能力。

 横方向の動きを行う沙希は更に弾丸を打ち込み続ける。

 意識の集約がワンテンポ遅れるルニア。だが、まずは人間本体より弾丸の排除が優先だ。

 またしても吹き飛ばされる銃弾。

 次で本当に潰す。

 

 そう思った時だ。

 先ほど通過したトラックが超特急で帰ってくる。それはエンジンの大爆音とともに急速に接近。

 車体に飛びつく沙紀。

 ルニアはまたしてもこれを狙い損ね、また去り際に更に散弾銃の攻撃を浴びた。

 そしてそれに意識を取られる内に駆逐トラックは素早く逃げ去った。

 

「ふふふふふふふふ、うふ。ふふ。あはは、あはっははっはっはっははは。何をして来るかと思えば、小賢しい。小賢しいぃいいい!! はっははっはっは。しかし、いいじゃないか、その辺の虫どもよりはよっぽど殺し甲斐がある!! あっははっはははははっ。」


 その笑い声が、果たして彼らに聞こえただろうか。

 猛々しいエンジンを纏い、駆逐トラックはまたしても突入を試みる。

 その戦術は、自身らのリスクを極力低減させるための、機動力をフルに活用した一撃離脱戦法である。

 そして、そのトラックの車体の横に掴まった沙紀が銃口をこちらに構えていた。


「はっははは、いいぞ! そのまま来い。」


「貴様らは敵、ワタシは敵には容赦しないんだ。はっはっははっはは。」


「死ね!」


 トラックが向かい来るその途上、ルニアが狙うはその車体本体。

 距離も離れていれば、質量もかなりのもの。

 しかし、それがどうしたというのだろう。

 内包する力を放出すれば、その程度とて何とでもできる。

 容赦はしないと言ったのだ。

 もったいぶらずに終わらせる。


 放出した力を、その四角い物体に飛ばした。


 次の瞬間、一度浮いたと思われた駆逐トラックは進行方向に対して錐揉み状態に回転。何回転かの後、トラックは背面を下向きに地面と擦れながら滑走してクラッシュ。

 天井を仰ぐ車輪はそこで虚しく空転した。



「……、捻じ、切れなかった。……。」


 何故か、そこで一人呆然とするルニア。 

 裏返ったトラックを前に、彼女は自身の右手を見つめた。


「ワタシの力、やはり最初よりも弱まっているというのか……。」


「なぜ……。」



 と、その隙だ。

 トラックの陰から急に飛び出す人間。

 沙紀である。

 彼女は額から血を流しながら、つるはしを両手に握ってルニアに襲い掛かった。

 その凄まじい跳躍は、まさに上空からの攻撃だ。


「ワタシに、近づくなあああ!!」


 右手を払い、空中にある沙紀を吹き飛ばす。

 沙紀の体は天井面に激突し、そのままぼたりと地面に墜落した。


「はあ、はあ、……。」


 いつの間にか息が上がっている。

 全身に満ちていた、あの無敵の感覚がどんどん薄れていくのがわかった。


「しかしどうであれ、どうであろうと、ワタシは潤史朗を守り抜くのだ。」


「近づくことは許さない。決して。」


「そしてワタシは容赦しないんだ。」


「貴様らは敵。」


「ワタシと、ワタシの潤史朗の敵なのだ。」


 激痛で体を動かせない沙紀。

 トラックは依然横転したまま沈黙。中の状態はわからない。


「潤史朗、少しの間ここで待っていてくれ、すぐに奴らを始末してくる。なに、すぐ終わるよ。」

 担いでいた意識のない潤史朗を、いったん地面に優しく降ろした。


 ルニアは、ゆっくりとそれらの敵に歩み寄る。

 多少力が減衰しようと、こんな脆弱な連中など一瞬で肉塊にできるだろう。

 目の前に倒れたこの女。

 まず最初に死ぬのはこいつだ。


「死ね。」


 見下ろすその女に両手の平を向けた。

 彼女の鋭い目つきには赤い光が煌々と照っていた。こんなところでやられてたまるか、とでも言いたげな様子だ。

 だが死ぬ。それはもう確定的未来であり事実。

 ただほんの少しだけ、捻じ切るための力を流し込むだけで事は済むのだから。


「ふふふ。」




 その余裕さが。

 失敗だったのだろうか。

 

 何の前触れもなく、いきなり砕け散るトラックの窓ガラス。

 その内部から何かが急に飛び出したのだ。

 

 一瞬それに気を取られるも、飛び出したそれを目で追う事が叶わず、それが何なのかは全く分からない。

 ただ、高速で移動する小型飛翔物体が現れたという事実のみ認識できた。

 

「なんだ?」


 ルニアの周囲を2、3週回る高速の影。

 首を振ってそれを追う。

 においは特に感じない、こいつもまた敵なのか。不明だ。

 ただ明らかに自身の攻撃を妨害する行動である。

 迷わず排除すべきだ。


 やがてそれは自身の周りをぐるぐる周回したのち、ぴたりと正面上方にて停止。その位置から、こちらを見下ろすように滞空した。


 まるで姿はクワガタムシ。

 表面は美しい合金で覆われ、大きな顎はペンチかプライヤーのよう。

 そしてその複眼に灯るランプは、響く電子音声に連動して赤く点滅した。



「ぎゃはははははははははははははははははははははははははっ。オレだぁああああああああああ!! はっはっは。ぎゃははははははははははははっ。」


 突然大声で笑い出すクワガタムシ。

 一体これは何なのだ。


「あのドローンが、めっちゃ叫んでる。」

「ボス!! 目が覚めたんすね!」

 横転したトラックから這い出した二人は、出現したドローンを見上げた。


「例のドローン……、コイツ一体……。」

 沙紀の方も、倒れながらにその飛翔物を観察した。


「ぎゃはははははははははっ。なんだなんだあ!? 害虫みてえな連中が勢揃いしやがって。オレの知らねえ間にとんでも楽しい状況になってるみてぇじゃねえか。祭りか? そうだな、こりゃ祭りだぁ!! ぎゃはははははははっ」


 クガマルである。


「ボス! その女は……。」

 輝人がそう言いかけるも、クガマルはそれを遮って指示を飛ばす。


「おい! そこのデグノボー!」

 クガマルは重吾に向かって叫ぶ。


「ええ? それ俺のことすか?」

 

「てめえはさっさと車を起こせ。作業アームでやれるだろ。」


「え、あ、は、はい。」

 突然目を覚まして急に騒ぎ立てる謎のドローンに、木偶の坊呼ばわりされた上、いきなり命令をされる。

 しかし腑に落ちないのも何のその、ドローンの気迫に押されて、体は既に命令通りに動き始めていた。


「ボス! 俺はどうしましょう!」


「そっちの女を何とかしやがれ!」


「そっち!? どっちすか!?」


「テメエの手に負える方だ!」


「おす!!」


「ちょっと待ちなさい!!」

 体の痛みが緩和した沙紀は、震えながらも上体を起こした。


「いきなり出てきてアンタなんなのよ!! 小隊長はウチよ!!」


「あ? ああ、龍蔵寺か。」


「へ?」

 そのドローンが自分の名前を知っていることに驚く沙紀。

 しかし、これは何の不思議でもないのだ。

 なぜならクガマルはAIドローンだからである。という理由が最もシンプルか。


「無能はひっこんでろや。このバケモンの処理はオレがやる。」


「はああ? ウチが無能ですって!?」


「おいゴミクソ!! さっさとこの迷惑女を手当しろ!! やかましい口には包帯でも巻いておけ。」


「おっす!」

 輝人は即座に返答すると、沙紀の元へと駆け寄った。


「ちょ、ちょっとアンタ!」

「怪我、どっかしてますよね?」

「平気よ。地下体質舐めんじゃないわよ。」



「それで、問題のオメエさんは……。」

 クガマルはそう言って、ルニアの方を振り向いた。


 二人の目線がピタリと合う。


「……貴様、ワタシの敵だな。」


「ったく、こりゃジュンシローの仕業だな。面倒臭いことしやがって。なんでこんな事になるのかねえ。」


「おい貴様! ワタシの質問に答えろ!」

 ルニアは声を荒げて言った。


「却下するぜ。」


「何だと!?」


「悪いが、オレはオメエのことは大体わかる。そしてその上で殺す。オメエが地上に出るとな、百害あって一利ねえんだ。」


「貴様が、ワタシのことを?」


「ま、オレ的には死んで貰わない方が楽しいんだがなあああ! ぎゃっはははははははははっ。」


 そして次の瞬間、笑い声を高らかに上げながら突撃するクガマル。

 慌ててこれの防御に入るルニアは、その飛翔物体を静止させようと空間に力を加えた。

 しかし、その意識の座標が定まる前に、クガマルは素早く軌道をずらして力の作用を回避した。同時に体当たりも逸れるが、クガマルは更に後方へと回り込む。


「超念波使いは厄介だなぁああ! ぎゃはははっ、このバケモンが!!」


 そして再度、突撃コースに進入するクガマル。

 しかし、その目線に捕まってしまえば、たちまち彼女の力で砕かれてしまうだろう。

 よってその対策に、クガマルはできる限り変則的な軌跡を描いて接近試みる。


「この、この、どうして!! どうしてワタシの力に捕まらない!!!」


 攻防は一進一退を極めた。

 目線に、即ち意識の範疇から回避するという行動は、一対一では非常に難しい。

 その素早い空中機動でかく乱するも、大顎が届く直前までには必ず捉えられてしまう。

 このままでは埒が明かない。

 早急に現状の打開策が必要である。


「この虫が、おのれえええええ!!」


 意を決して飛び込んだクガマル。

 その開いた大顎の先端が彼女の眼前に迫った。


「そこだ!」


 クガマルが。

 空中で静止した。

 ルニアの力に捕えられる。


「あっはっははっはっはっははっはっはっ。ざまをみろ!! 奇妙なやつめ!! ワタシは最強な……。」


 と、その瞬間だった。

 彼女の意識する範疇の外側から、巨大な物体が飛び込んだ。

 横を向く。

 すぐ目の前には、突進する駆逐トラックが……。

 

 回避も制御も間に合わない。

 

 ルニアはこれに勢いよく突き飛ばされた。

 飛翔距離にあっては十数メートル。

 

「オレが囮なんだよ、バケモン。」


「や、やりました?」

 小型のイヤホンを片耳に嵌めた輝人がキャビンから顔を覗かせた。


「まだ駄目だ。ありゃ相当に強い。見た目は人間だが、中身は害虫と思っていい。」


「ボスもしかして、あれが何か知ってんすか?」


「さあな、知らねえ。ただオレは、あの類は初見じゃねえんだ。数年前に色々あってだな。」


 クガマルが見続ける中、ルニアはゆっくりと立ち上がった。

 見た限り、外観上のダメージは少なそうだ。


 そうして観察していると、その女の体からみるみる内に蒸気が立ち昇っていくのが分かった。

 朦々と上がる煙。

 やがてそれが全身から出し切られると、そこに現れるのは……。


「古代人。ジュンシロ―は昔そう言ってたな。だがしかしまぁ、ただのバケモンに過ぎねえ。」


「ボス、あ、あの人、姿が……。」


 長い銀髪、黄金の瞳を両眼に秘めるその女は……。


「背が縮んだ。」


 180センチ近い長身から、それがマイナス30センチほどに。

 大人の西洋人クラスのサイズから、その辺の中学、高校生サイズまでスケールダウンされていた。


「あ、あれ、あれれ、ルニア身長が……、ど、どうして?? ルニアの体どうなっちゃってるの??……。」


 取り乱すルニア。

 ペタペタと自身の体の各部を触り、身体の変化に驚いた。


「形態が一段階落ちたのか。」

「どういうことすか? ボス。」

「どうもこうもそういう事じゃねえのかよ。オレにもさっぱりわからん。」


「だが、殺すなら今だ。」


「ボス!?!?」


 今更ながら、あれと戦い、殺傷することに大きな疑問を持ち始めた輝人。

 よくわからない謎の力を使用して自分たちを倒そうとしているが、どう見たって人間だろう。害虫なんかではない。

 話合ったらどうにかならないのか。

 単なるすれ違いではないのだろうか。

 沙紀も、重吾も、そしてクガマルも。

 彼らが一体なにを知っているのかは知らないが、その命、そんなに軽くて果たしていいのだろうか。


 ルニアに突撃するクガマル。

 その超念波は現在どの程度か。

 

「はああああああ!!」


 その彼女の叫びと共に、空中での静止を強制されるクガマル。

 しかし、回転ベクトルによる追加攻撃は訪れない。

 そしてまたしても突っ込む駆逐トラック。


「ちょっと五十嵐さん待って!」

 

 ルニアは側方に飛んでトラックによる体当たり攻撃を回避。

 だが同時に、クガマルへの拘束を解くこととなった。


「もう一息、そんなところか。」


 クガマルは次の攻撃への体勢に入った。

 


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