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MEGA-KILLER ~地下衛生管理局特別殺虫係~  作者: 浪川晃帆
第一部
19/81

第19話 遺跡ー3

 

 かくして潤史朗は、ゴキゲーター1体と対峙した。

 後ろにはルニアが石棺に身を潜める。


 殺虫剤はない、拳銃には弾がない、左腕は肩からない。

 右手には斧、ただそれだけだ。


 ゴキゲーターは、その頭から伸びる細い二本の触覚を、目の前でふりふりと振り回し、襲い掛かるタイミングを計った。

 顎を鳴らして、首を傾げる。

 その挙手一投足、奇妙と言うより気持ち悪い。

 まるで標準サイズのゴキブリをルーペで観察してみたような仕草であった。

 

 人智を超えた、どうしようもなく強大な敵。

 もう既に何人の人間がこれに食い殺されて来たのだろう。

 体の割りには大きくない口で、人は体を削られるようにゆっくり捕食される。最初に口をつけられた部位が悪ければ、死ぬまで死ぬほどの痛みを味わいながら死ぬことになるのだ。

 その間どうもがこうとも逃げのびるのは不可能に近い。

 彼らのもっている力ときたら、熊や虎など猛獣の類いの比ではないのだ。

 まるで重機のパワーをそのまま体に宿したような、破壊的なまでの体力。

 そして、その堅い殻を纏った体表面は、部分的には銃弾さえ弾いた。

 この絶対的な力の前に、人は成す術を持たない。


 この地底世界で生きる事。

 それは、いかにこの怪物と付き合っていくか、という事に他ならないだろう。


 そして、そんな神にも等しい地下世界の支配者に、今正面から抗おうと身構える。

 心臓が高鳴った。

 まだいけると、体がそう言っている。

 こんな最悪の局面であっても、場数を踏めば、その恐怖心さえも制御せし得た。

 血の拍動は恐れではない、それは戦いに駆り立てられた、ある種の興奮。

 いつもぎりぎりで、ぎりぎりだからやってこられた。

 もはやぎりぎりが好きだ。

 そして今日もぎりぎりを生き抜いて、帰るべきところに戻るのだ。



 何かの決意を表すかのように、潤史朗は側頭部に装着されたアクションカメラに手を伸ばす。

 そして、その外付けの小さなボタンを素早く操作。


 スピーカーから電子音声が鳴った。


『アクティブコントロール――現在の設定は……。』


 電子音声の案内中に次の操作を入力し、途中でセリフはカットされる。


『設定変更――現在の設……。』


 そして更に、短くボタンを連打する。


『エコノミ……。』

『セイフ……。』

『スポー……。』

『ハイ……。』


 決まったところでボタンから手を離し、そして手斧をしっかりと握り直した。

 ひりつく空気の中、側頭部のアクションカメラは無機質な音で喋り続ける。


『設定が変更されました。』


『現在の設定は、ハイパーアクティブ。』


『周囲の状況を確認し、安全に活動して下さい。』


 電子音声は喋り終える。


 同時に、ゴキゲーターが動き出した。


 獲物を捕らえるためのその爆発的な瞬発力は、一瞬で間合いをゼロに詰める。

 その重さと大きさを無視した機動性は、人間の運動能力など遥かに凌いだ。

 

 潤史朗に向けられた2本の牙と前脚。


 構えた手斧。

 振り下ろす瞬間は、今。

 光を置き去りにした、と錯覚させる程の速さで身をかわす。

 ゴキゲーターの突進を回避。

 同時に、右腕に込められる力は消費電力の加減なし。

 叩き込まれた手斧が、ゴキゲーターの頭部付け根に食い込んだ。


 ゴキゲーターは軽く鳴き声を上げるも、それは苦痛とは異なるただの驚き。

 首に斧を挿し込まれたゴキゲーターは、何事もなかったかのように振り返り、そして体勢を立て直した。


 今、潤史朗の三肢は、電力の制限から解放されている。

 そこから発生しているパワーは、もはや人体の模倣ではない。

 頑強な肢体に見合った高出力のモーター。

 繰り出されるその衝撃力は、まさに破壊工作機。

 して、その力を持って、今ゴキブリを迎え撃つ。


 ゴキゲーターを殺すのは簡単だ。メガキラーを放てばいい。

 しかし生憎今持ち合わせがない。

 となると、ゴキゲーターの駆逐は困難を極める。

 あの化け物は、例え体が半分千切れようが、なに食わぬ顔で向かってくるのだ。

 ただ、その戦闘力を奪うことは可能だ。

 ひとつ、6本足を全て、とまで言わずとも、動けないまでに離断する。

 ふたつ、首を落とす。そうすれば少なくとも捕食は行えない。

 今やるべきは後者の方だ。

 その難易度は言うまでもあるまい。

 しかし、それは可能であることに間違いないのだ。


 あの刺さった斧を、更に食い込ませればいい。

 

 潤史朗は機械の両足で地を蹴りつけ飛び上がる。

 低い天井がすぐに迫り、体を返すと更に天井を蹴りつけて、今度は下向きに跳躍。

 向かった先はゴキゲーターの頭部。

 宙にて前転。

 首に刺さってる手斧目掛け、前転から繰り出される右足、その踵を降り下ろす。


 しかし、あまりの勢いに目標は僅かに逸れ、落とした踵は斧を外れてそのまま頭部を叩きつける。

 硬い。

 さすがは銃弾を弾くほどの外殻である。

 だが首の切り口へのダメージは少なからず入っただろう。 

 刺さった手斧は5センチ程は食い込んでいる。

 あともう30センチ程、斧を深く抉り込めさえすれば、踵落としで頭部をちぎり落とせる。


 だが、依然として負ける要因はこちらの方が圧倒的だ。


 ゴキゲーターの反撃。

 とげとげの前脚2本で、掴み掛かるように潤史朗を襲う。

 こちらはピンポイントでダメージを加算しなければならないのに対し、ゴキゲーターは一撃でも当てれば、ほぼ勝利なのだ。

 ゴキブリへの接近は大胆に、しかし一瞬たりとも気を抜いてはならない。

 身を屈めて回避する。

 頭上を前脚がかすめた瞬間に、立ち上がりつつ頭部を蹴りあげる。

 やはり硬い。

 斧をやらねば埒があかない。

 そこに刺さった斧に伸ばした。

 しかし同時に、ゴキゲーターの開かれた顎がこちらに向くのに気がついた。

 慌てて後方に飛んで回避。

 間一髪、危うく自分の首がもげるところであった。


 続いてそれを追うように、着地の瞬間にゴキゲーターが突っ込んだ。

 体勢が安定せずに回避し損ねる。

 またしてもゴキゲーターは目の前に。

 刹那、自身の体幹部をゴキゲーターの前脚が捕らえ、地面に押さえつけられた。


 これはまずい。

 上にのし掛かるゴキゲーターは完全に捕食の姿勢に入っている。

 またしても目の前に顎。

 

 これはやばいと、目の前に迫る死に対し、ばっくんばっくんと心臓が警報を鳴らす。

 しかし頭は妙にクリアで冷静だ。

 

 手を伸ばせば届く場所に斧が食い込んでるのに気が付く。

 そう思うか否か、咄嗟に手は伸ばされた。

 

 ゴキゲーターの顎も、こちらの首を取ろうと向かう。

 

 だが、早いのは圧倒的にこっちだ。

 

 素早く抜き取り、そして再びそれを叩きつける。

 手斧は更に深く食い込んだ。


 怯んだゴキゲーターに隙が生まれた。

 フリーの両足。

 右足でゴキゲーターの腹部を蹴り上げた。

 比較的柔らかい腹部裏側への攻撃は、有効と思われる。


 更に怯んだゴキゲーターは、完全に前脚の拘束を緩めた。

 同時に抜け出す潤史朗。

 ついでに一つ回し蹴りを見舞う。

 空を切り裂く右足は、見事に手斧を捉えて打撃、首への追加ダメージが確定する。

 そして、もう一撃。

 と、いきたいところであるが、それはやめるべきだった。

 潤史朗は下がる。


 攻撃は止め時が肝心だ。

 これを見誤れば、相手のカウンターをもろに受けることに繋がる。

 そうなればゲームセット、すなわち死だ。

 

 見た感じ、手斧はおよそ10センチ食い込んでいる。

 まだまだ、足りない。


 ゴキゲーターを前方に見る。

 呼吸が速い。

 ゴキゲーターに踏まれた胸部に違和感を覚えた。

 今これに気をとられてはいけない。

 損傷具合を気にして肋骨に手を当てようものなら、きっと痛みを自覚してどうしようもなくなるだろう。

 集中を途切れさすには、いささか以上にまだ早い。

 頭は常に戦闘状態を保持。

 全神経、全能力をゴキゲーターの駆除に向けてフル稼働。

 その緊張が切れたら、などと想像してる余裕はない。


 執拗に突進し、捕食しに掛かるゴキゲーター。

 飛び上がり、天井を数歩駆け抜けて、迫るゴキゲーターと上下ですれ違う。

 そして着地し振り返る。背後に回り込んだ時には既にゴキゲーターも体勢を整えていた。

 思いのほか着地の勢いが体にずしりと響いた。

 不意にこみ上げた喉の熱感。

 反射的に咳き込む。

 口に当てた右手には嫌な液体が数滴散った。暗くて色はわからない。

 どうせ唾か何かだろう、と思う事にした。

 再び目線を戻し、ゴキゲーターに向かう。

 


 この戦闘の様子を、石棺の影からひっそり見守る小さな少女がいた。

 目を開かずとも、この状況は把握できた。

 潤史朗という人が戦っている。

 

 色々な事が何もわからないが、潤史朗の事だけは少しわかった。

 それは食べ物をくれる人だ。

 また、ルニアと同じ、自分の事を知らない人だ。

 そして、ルニアの名前を素敵だと言い、頭を撫ででくれる人だ。

 たったこれだけ。

 でも、それでもなぜか、たったこれだけでも潤史朗を凄くたくさん知った気がした。

 

 けれど、いま敵と戦う潤史朗はよくわからない。

 なんでそんなに怖い顔をしているのだろう。

 なんでそんなにも必死なのだろう。

 敵にやられるのは痛いし怖い。それなのに向かって行く理由なんてどこにもない。

 とにかく不思議だ。わかりそうでわからない。

 何故なのだろうと、そんな疑問で胸の中がもやもやした。


 ぼんやり眺めていると、敵がこっちに向かってきた。

 襲いに来たのではない。ただ、勢い余ってやって来た。

 石棺は吹き飛び、半壊。

 その前に避けた。

 しかしその時に、潤史朗はルニアの名前を大きな声で呼んでいた。

 壁を走る潤史朗がこっちに来た。

 潤史朗はルニアのすぐ横に、すたりと降りる。


「ごめんね、怪我は?」


 潤史朗は、敵から目を離すことなく喋りかける。

 その問いに、大丈夫だと答えを伝えた。

 それと一緒にもう一つ、わからない事を彼に問いかけ、伝えた。

 どうして戦っているの、と。

 すこし間を置く潤史朗。

 すると彼は、くるりとこちらに顔を向けた。


「わかんね。まぁ何よ、意地? みたいなさ。」

 

 向けられた笑顔は、敵の来る前と同じもの。

 また、その言葉自体には大した意味がないのだと直感した。

 表現ができずとも、心でどこか腑に落ちた。

 再び潤史朗は行く。

 

 ルニアは再び、壊れた石棺に身を潜めた。

 

 その影から潤史朗の戦いを見守る。

 スピードとパワーは同じくらいだ。

 しかし体力と耐久力では圧倒的に負けている。

 また押さえつけられてからというもの、潤史朗の動き、回避や攻撃にどこか鈍い場面が目立った。

 敵の損傷よりも、そっちの方が気になって仕方ない。


 潤史朗が痛そうにしているのは嫌だと思った。そして、潤史朗がやられたらもっと嫌だと思った。

 そのためにできる事を考えた。

 しかし何も思い浮かばない。

 でも、何かができる気がしてならない。

 自分の事は何もわからないが、絶対に何かできる、自身と確信が奇妙な感じで頭に湧いている。

 ただし、力が足りない。

 全身を巡る決定的が何かが足りていないと、そう体が叫んでいると思った。

 今、力が必要だ。

 

 体の中で何かが大きく鼓動を生み、言葉にならない衝動が、全身の渇望感を震わせた。

 

 

 またしても、飛び上がる潤史朗。

 先ほどより喉から湧いて出る例の液が、どんどん量を増していき、こみ上げる咳が鬱陶しい。

 そして同時に呼吸は荒くなり、その度に体のどこからか異音が耳に入って来る。また、自分の動きにどこか歪が出てきているのも多分気のせいではない。

 そろそろ痛みを自覚しなければ、危ないラインを過ぎるまで、本当に気が付かないだろう。

 しかし状況がそれを許さない。

 求められるものは早期決着だ。

 ゴキゲーターがルニアの方へ行かないよう気を付けていたつもりだが、つい不注意から石棺が壊されるに至った。

 そんな油断も、体力消耗の現れだろう。

 幸いにも刺さった斧は、最初よりかは遥かに深い。

 次で決着をつけようと思う。

 

 攻撃をかわされ、壁に突っ込むゴキゲーター。

 その隙に右手はアクションカメラへ。

 赤いボタンに指を添え、約一秒の長押しをした。


『超電力状態へ移行します。――充電中です。消費電力にご注意下さい。』


 右耳の上、頭にぴたりとくっ付くこのアクションカメラは、単に動画撮影の道具でない。

 これは潤史朗にとって、生活上また業務上欠かすことの出来ない電子デヴァイスを兼ねており、寧ろカメラの機能がおまけである。

 機械の四肢の管制は全てこの装置で、自動に若しくは操作によって成し得ていた。

 そしてここに来て緊急事態に即したモードを選択。

 更にここから決めるのは、結構無理する奥の手だ。


『充電完了まで、五秒前、……4、3…。』


 壁に激突したゴキゲータ―が振り返った。


 潤史朗はまたしても地を蹴り宙へ。

 そして、天井を蹴り返し、砲弾の如くゴキゲーターに向かった。

 ここでもう一度決めたい踵の振り下ろし。

 見積もりが正しければ、現在の斧の切れ込みと、そして間もなく放つ必殺の一撃があれば、頭部の離断が叶うだろう。


『……2、1。充電が完了しました……。』

 

 事前設定された右足に、溢れんばかりの過電圧を感じる。


 電子音声は注意喚起に喋り続け、同時に警報のブザー音を煩く響かせた。


 この特殊な状態が許されるのは、僅か一動作のみ。

 その一瞬の爆発的なパワーを、振り下ろされる踵に集約。

 技名など無いしあっても叫ぶ間は無いが、言うなれば超電力キックでいいだろう。

 この破壊力が切り札だ。


 宙にて前転。

 迫るゴキゲーターにその踵を叩きつける。


 と、その時だった。


 胸部右側のどこかから、よじれるような悲痛が叫ばれた。

 ここにきて、無理した皺寄せが一線を越える。

 その刺激は脳内に、塩辛い感覚を擦り付け、一瞬だが注意がそちらに向いた。


 狙いが逸れる。

 飛び降りた地点は、頭部よりずっと前方、ゴキゲーターの正面付近。

 振り下ろされた右足、それは地に敷かれた岩石を大変激しく粉砕し、その細かい粉が白く舞い上がった。

 奥の手が外れた。



『……大きな力が発動します。衝撃にご注意下さい。』



 電子音声のみが無虚しく響き渡たった。


 そしてすぐそこにて、ゴキゲーターがにゅるっと顔を覗かせる。

 何てことはない、また跳躍して距離を取ればいい。

 地を蹴って飛び上がる。

 そうなるはずだった。

 右足が抜けない。

 岩石を砕き、内部にめり込んでいった踵が、全くびくとも動かない。

 目の前にはゴキゲーター。


 やらかした。

 いや、終わった。

 

 流石に頭の中が真っ白になった。

 しかし妙に落ち着いてる。


 最後に何を言い残そうか。

 せめて一言何か、ルニアに。

 

 そう考える最中にもゴキゲーターは接近している。

 しかし一体何を言えばいいのだろう。


 走馬燈なんてものは特に、見えない。

 それが見えるほどの思い出は、一度失ってからというもの、大して何もない。


 不意に妹の顔が頭に浮かぶ。

 心残りがあるとするならそれくらいか。 

 今となってはどうにもならないが。

 だが、これでいいのか。

 これで終われるのか。

 本当に。


 ゴキゲーターが迫った。

 巨大な顎がすぐそこに……。



 一瞬何かの錯覚のような気がしたが、そこにひょこりと、いや、もっと凄い迫力をもって、小さな少女が飛び出して来た。

 小さな体を大きく張った。

 長い銀髪が横になびく。

 

 ルニアがそこに。

 一体何のつもりか。


 彼女は潤史朗とゴキゲーターの間に飛び込み、その怪物に向き合った。

 

 その謎の少女ルニアは一体何を思ってか。



 ただ、潤史朗を眺めていた時には気が付かなかった。

 しかし、それが失われそうになって、その感情は爆発的に高まった。

 

 先程からのもやもやは、すでに一切ない。

 いま戦う意味。

 どうあっても失いがたいものがここにあり、この自然と芽生えた感情が、先ほどから自身が求めた答えであると自覚した。

 恐らくこれは、潤史朗と同じなのだろうと。


 ルニアは、ずっと今まで閉ざされていた両目を開く。

 その目蓋の隙間から見せる大きな瞳は金色に光を放ち煌めいた。

 敵に向かって両手をかざす。

 体を巡るその力は、最初からすでに空だ。

 それでも今動かねば、ここで出会った全てであり唯一のものが失われる。

 無くとも振り絞る。

 全身、全脳を、かざした両手へと伝えきる。


 音にならない確かな叫び。


 一体の空気に激震がはしる。


 敵、ゴキゲーターの動きは突然に停止。

 次の瞬間に、その関節の動きを超越した、奇怪な螺旋運動で体がねじれ始めた。

 目に見えない謎の力が働いている。

 それはゴキゲーターに一切の抵抗を許さず、強力な回転ベクトルは、まるで雑巾を絞るかのようにゴキゲーターを圧倒した。

 そして遂に、切れ目の入ったゴキゲーターの頭部は、ねじ切れて吹き飛ぶ。

 離断した頭部は回転しながら宙を舞い、そして地面に落下した。

 

 その様子を確認し、彼女が手を下ろす。

 すると同時に、ゴキゲーターの体はねじれ状態から解放された。


 頭を失ったゴキゲーター。

 ゴキゲーターはわけもわからず、ただ周辺を目的なく徘徊。

 ねじ切れた頭部は地面に転がり、顎をぱくぱくと虚しく動かしていた。


「ル、ルニア?」


 潤史朗は口をぽかんと開けたまま、ルニアの起こした現象に唖然とする。

 しかし、ぼんやりできるのも一瞬だけ。

 急激に脱力したルニアは、倒れる様に潤史朗に寄れ掛かった。


「今のは……、いや、ありがとう。ルニア。」

 その言葉に、ルニアはただ黙ってこくりと頷き、疲れた表情の中に笑顔をみせた。

 両目は再び閉じられる。


『アクティブコントロール――現在の設定はハイパー……、設定変……、が変更されました。現在の設定はエコノミック。』


 よくわからないが助かった。

 今はただ、それだけでいい




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