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第2話

 気が付くと俺は光の部屋にいた。


 いや、部屋とはいささか表現が違う。

 光の空間にいる。と言うのが正解だろうか?


 縦、横、高さ、各百メートルくらいで、壁も床も天井も淡く光っている。


 周りを見渡して気が付いたが、俺と少し離れた場所にアイドルたちも居て、キョロキョロとしてる。

 

 俺もアイドルたちもいる……と言う事は、……ここは、……?

 どこだ?

 頭が混乱して、よく整理できない。


 と思いながら、無意識に美月ルナちゃんの方を見ていたら、美月ルナちゃんの横に居たアイドルと目があった。


 するとそのアイドルは、ハッとしたような顔をして、ズンズンと俺に近づいて来る。


 確か名前は、クリスティーナ……北条院? 北条院クリスティーナだった、ような気がする。

 ハーフで、腰までかかるロングのゆるふわヘアー。

 パッと見、ちょっとキツメ美人のクールビューティさんだ。


「ちょっと、あなた! これは、あなたの仕業?

 わたくし、こういう悪戯は嫌いなんですけど!」


 俺の目の前まで来て、北条院さんが眉を吊り上げて抗議して来る。

 さらに、俺に迫って、睨み付け何かを言おうとした瞬間、【ポーン!】と柔らかい音が脳内に響く。


「な、なにっ? 何なのこの音は一体?」


 北条院さんがそう言いながらキョロキョロしている。

 その向こうでは、アイドルたちもキョロキョロしている。


 美月ルナちゃんもキョロキョロしている。

 ……かわいい。


 それに引き換え、北条院さんは、いきなり俺に叱り付けて来たし、ちょっとマイナス点だな。

 他の子たちは、性格良いといいのだけれど、……どうなんだろう?


 いやいや、今はそんな事を考えている場合ではないのだ!

 しかし、みんなそろってキョロキョロしていると言う事は、俺だけでなく、皆も脳内に音が聞こえたのか?

 そんな事を思っていると、


【時空間の特異点発生に伴い、時空境界断裂が発生】


 今度は脳内に声が響いてきた。

 そして、続けて次々と声が響く。


【地球において人間が巻き込まれたことを確認】

【時空間管理者、時空神ロロの権限範囲内において救済を実行】



【地球への転送は不可能と判断】

【代替案としての異世界転移を実行】

【転移先は魔法、魔物の存在する世界、アイルと確認】


【転移人員の中に、赤ん坊等の存在は無し】

【転移人員の中に、十四歳以下の子供を確認】

【転移先アイルにおいて、生存確率を伸ばす為に、アイルにおける成人、十五歳の身体で転移するように調整】

【副作用として、転移中継空間に存在する人間すべてが十五歳の身体に調整され転移】

【また、この調整によって、さらなる副作用として、身体に若干の変更が発生】


【転移先アイルにおいて、十五歳、成人の儀で、祝福スキル授与があることに伴い、祝福スキルを授与】


【身体成人化、祝福スキル授与開始】


 ……。


【身体成人化、祝福スキル授与終了】


 ……。


【救済による力の行使に伴い、時空間に多大な悪影響が出る恐れが発生】

【これ以上の救済を中止】


【このため異言語理解、無限収納、簡易鑑定のスキル授与は行われない】

【転送先世界、アイル基本知識の転送は行われない】

【転移中継空間での魂の力の変更は行われない】

【………………は行われない】

【…………は行われない】

【……は行われない】


【以上、救済終了。転移開始】


 最後の言葉を聞いた瞬間、俺の意識は再びなくなった。




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




 気が付くと俺は青い空を見上げて寝転がっていた。


 どこまでも突き抜けるような青い綺麗な空。


「ああ、今日は良い天気だなあ……」


 と寝ぼけた事を呟いた瞬間、「ここはどこだっ?」と、飛び起きる。


 そして、直ぐに思い出す。


 黒い玉に巻き込まれて、光の空間へ行ったこと。

 そこで謎の声を聞いたこと。

 そして、恐らく俺は、異世界に転移したこと。


 しかしだからと言って……。


「どうすればいいんだ?」


 皮膚感覚的にも、直感的にも、ここが異世界で俺が転移した事はわかる。

 動揺も無く、スッと受け入れている。

 もしかすると、あの光の空間でそういう風に調整されたのかな?


 しかし、だからと言って、何をどうすればいいかは解らない。

 途方にくれながら、辺りを見渡す。


 いま俺は、草がボーボーに生えた、まったく手付かずの草原にいるようだ。

 二キロぐらい先に森がある。

 太陽の位置から、地球基準では南の方角。

 草原の周囲は四方すべてが、高さ五百メートルくらいの低い山に囲まれている。

 山までの距離は東西南北どの方向でも、十キロくらい。

 俺の家も、十キロくらい離れてところに山があったし、目測でも、さほど間違いは無いと思う。


 もしかして、いま俺は、盆地の真ん中に居るのだろうか?

 地形的には京都市内みたいな感じかな?

 ちょっと違うか?


 しかし、わかった事は、それぐらいかな。


 でっ? ドウスレバ、イイノダロウ?


 ……。


 そうか、いきなり転移すると、思考はフリーズするのか。

 いやいや、なかなかラノベの様には行かないようだ。

 と思いつつも、何かはしなければならないだろう。

 この場所にただ座って待機していれば、救助隊が駆けつける訳でもあるまいし。


 ……しかし、ラノベとかではどうだったかな?

 こういう場合は、……地球に帰る方法を探すのか?


 いや、取り敢えず危険が無いか確認して、生き残りか?

 あの光の空間で聞いた言葉からは、この世界における生き残りに必要な力も、一部しか頂けなかった様だったが……。

 取り敢えず、仲間を作ったりすればいいのか?


 しかし、この何も無い草原で、仲間……。


 仲間?


 そういえば、アイドルたちは?

 あの光の空間には、アイドルたちも居たはずだ!


 俺を除けば、全員で五人。

 周りを見渡しても、誰も居ない。


「おーい! おーい!

 誰かー!」


 おもわず大声をあげ、叫びながら探して見るが、やはり誰も居ない。


 それでも、しばらくウロウロと、無駄な抵抗をしてみるが、見つからない。

 まあ、傍に居るのであれば、返事くらいしてくれるだろうから、ここら辺には転移していないのだろう。


 みんな無事なのか?

 特に、美月ルナちゃん。

 無事だといいが。

 ……心配だ!


 北条院クリスティーナは、……ついでながら、無事かな?

 あの人は美人なんだが、第一印象が残念な人であった。


 いや、美人だし、許すけどね?

 だってアイドルだし、あれ位の傲慢な性格は想定の範囲内です!

 これを許すくらいの度量はありますよ?


 そして、そんな度量がある俺に、こんな良くわからない世界で再会を果たしたクリスティーナは、……。




「わたしって、最初凄く傲慢だったよね……」


 ポロリと一滴の涙を零すクリスティーナ。


「気にすんなよ! お前のその傲慢なところも含めて、全部好きだぜっ!」


 俺は、優しくクリスティーナの涙を拭いてやる。


「……えっ! そんなっ!」


 うろたえるクリスティーナに、俺はおどけた調子で、


「おいおい、なんで顔を真っ赤にしてんだよ!」

「だって、……私のことわかって、受け入れてくれた人、玲央君が初めてだからっ……」


 俯いて恥ずかしがるクリスティーナをそっと抱き寄せる俺。

 そして、いつしか二人は恋に落ちて……。




 そんな事が起きるかもしれない。……と妄想してみる。

 可能性が、ゼロとはいえないはず!


 ……どうだろう?


 ゼロかな?

 ゼロだな。


 ……。


 いや! 異世界転移も起こったのだ。

 何が起きても、おかしくは無いはず! はず!


 で、あるならば!!


 美月ルナちゃん希望!!!


 正直、クリスティーナは苦手です。恋愛対象外です。

 優しい、フワフワな子が、好きです!


 ……だが、クリスティーナに言い寄られたらどうするか?

 その場合は、……。

 ……でも、俺には美月ルナちゃんという心に決めた人が、……だがしかし……。


 どうすべきか、……。




 いやっ! 何を考えているのだ!

 今はそんな事よりも、まずは安全、安心、安定を確保しなくては。

 確か、魔法や魔物の存在する世界だったはずだ。

 早急に対策しなくては、恋愛どころか、生き残りも現実不可能。


 ……となると、さしあたり必要な事は、なんだろう?


 取り敢えず、身の安全。

 安心できる空間と、食料の確保。

 それを安定して保持する為、現在の環境や状況の情報収集。


 その後に、皆を探す?

 地球の仲間としても、心配だし。……特に美月ルナちゃんが。

 仲間は多いほうがいいし。……特に美月ルナちゃんが。

 生き残りの可能性も高まるだろうし。……特に……いや、ふざけるのはもう良いか。


 取り敢えず助け合えそうな仲間は多いほうが良いはず。

 皆を探すのに、やましき理由は、アリマセヌ。

 いや、マジで。




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




 しかし、身の安全と言っても、差し当たりは、魔物対策が急務なのかな?


 取り敢えず、自分の現状を確認して、冷静に考えをまとめよう。


 装備と言う意味では、どうやら、転移は着ていた服をはじめ、身に着けていたものはそのままのようだ。

 ちなみに、作業しやすい格好で来いと言われていたから、メンズのデニムパンツにデニムジャケット、スニーカーといった格好である。

 さらにバイトの作業前に、雑務の手伝いで使う大型のカッターとゴムつき軍手、それと何に使うのか解らないが、瞬間接着剤を渡されていた。

 ラッキーではあるが、他のアイドルたちは大丈夫なのだろうか?


 コンサートの衣装なのか、フリフリのスカートで、ハイヒールの子もいた。

 こんな草原の中を歩いたら足は挫くし、無闇に草木に触れれば、かぶれたりしそうだ。


 いや、今は自分の事に集中しよう。

 自分の事が終われば、それだけ早く探しに行ける。

 その方が、彼女らと会える確率も高まるだろう。


 俺も日本人。アイドル達も日本人。助け合い、チームワークは、得意な国民だ。

 助け合えるのであれば、お互いの生存率も高まるし、この世界における選択の幅も増えるだろう。

 そうと決まれば、今は集中だ! 集中!


 現状、大型カッターが一つでは心もとない。

 森で手ごろな棒などが無いか探すべきか?

 その上で、食料と安全地帯・寝床の確保。

 可能であれば、現地人との接触。

 それが無理であれば、道など人の痕跡の捜索。


 取り敢えずは、森に向かおう、……と思う。

 が、しかし、この草原……。

 何と言えばいいか解らないが、かなり怖い。


 草が低いものでも膝から腰あたりの高さまである。

 高いものは二メートルくらいあり、群生している為ところどころで先が見えない。


 足元も草で視界が悪いし、動きも阻害される。

 こんな状況では、何か危険なものが潜んでいても、容易に気が付かないと思う。


 日本でも、人の手の入っていない草原ではこんなものだろう。

 刈り込まれた芝生を行くが如し、とはならないのは当然といえば、当然か。

 文句を言っても始まらない。


 そうは行っても、歩き辛いものは、歩き辛い。

 しかも、怖い。


「うわっ!」


 用心して歩いていたのに、早速、泥沼に足を突っ込んでしまった。

 最悪だ。

 まだおろして直ぐの靴なのに……。

 しかも、靴の中に泥水が染み込んできて気持ち悪い。


「うおっう!」


 ……今度は、デニム生地の上から棘が刺さった。

 勘弁してくれ……。


 魔物以前に、文明人にとっては手付かずの自然すら厄介なものらしい。

 森までのたった二キロすら、凄い苦労の末やっと到着する始末である。



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