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にがあま。  作者: Hypericum
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第3話 イワシの煮付けとキャベツ太郎(後編)

大下との飲みから帰宅すると、玄関には妻、ヤネコの仕事で履く靴が置いてある。


先に帰ってきているな。

腕時計を見たら11時近くを指していた。


-ただいま


洗面所から水の流れる音。

ヤネコはメイク落とししてるのだろう。


ー おかえりぃ


ヤネコは管理職、仕事の日は毎晩10時以降に帰ってくることが多い。体が心配になるが、頑丈が自分の取り柄なのだと言う。


俺も仕事着から、家着に着替えて、台所で手を洗う。


そうやって、妻から注意されたことがあったのは昔の話。じゃあ、と俺は彼女の立つ洗面所の横から割り込ませようとしたら、次からは台所で洗っていても何も言わなくなった。


俺の子供のような振る舞いにあきれたのと、家に回せなくなるほど使うの気力は、会社で吸い取られているのかも知れない。


メイクを落としたヤネコが、俺の前に座るなり、


ービールちょーだい!


乾杯するなり、ゴクゴクと飲むヤネコ。


ーいい飲みっぷりだな


ー今日は大変だったよぉ


ヤネコが仕事のことで弱音を吐くのは珍しい。


ーどうした?


ーサクとニシちゃん。


ー前に話してたね


ヤネコの部下のこの2人、どうやら反りがあわないそうで。上司としてどちらかの肩を持つと角になる。でもこのままだと職場の雰囲気も良くないし、仕事の進みに支障が出てくるかも知れない、という悩みなのです。


ヤネコの話で聞く2人はこんな女性だ。


サクが明るくて天真爛漫、可愛くて、周りがチヤホヤしてくれるから、周囲を巻き込んで要領よく仕事をこなすタイプ。でも結構相手を見て自分の対応を変えたりする強かなコらしい。


一方のニシちゃんは何事も慎重派。考えすぎるきらいがあるらしい。仕事は丁寧だが、能天気に同調することは良しとしない。芯はしっかりしている。そして、お世辞にもカワイイとは言えないそうだ。


ーついにこの2人がアタシの前で言い争いになってさ


オフィスは凍りついたらしいが、幸いヤネコはじめ周囲がフォローして、一件落着。


ーアタシは、人としてはどっちも好きなのよ。でもこの2人みたいなタイプって、同じクラスにいたら、まず同じグループにはならないよね


人としてって言葉、最近あまり聞いたことがない。

なぜか俺の頭の中は、武田鉄矢だ。

昔テレビでそういうタイトルの曲を歌ってる彼を見たことがあったっけ。


俺は雑念を振り払うために、目の前のキャベツ太郎に手をかけた。


「バリバリ」


袋の破れる音に反応したヤネコは、


「パコッ」


勢いよく、次のビール缶を開け放った。

飲むピッチがいつもより速い。


ーキャベツ太郎ってさ、ビールにあうの


ー合うよ。ビールにスナック菓子は王道でしょ


ーキャベツ太郎って男?


ーうん?


ー男なの?女なの?


ー男だよ


ーどんな?


ーえ?何?空想してんの?


ーそう


ーヤネコの空想、珍しいね


ーアタシが空想しちゃ悪い?


ー空想ってくだらないって思うのかなって


ーアタシだって空想ぐらいする


そうか、悩み多き人生。

キャベツ太郎を他愛もなく話すのもいいかもな


ーキャベツ太郎はキャベツ国の王子だ


ー王子ねぇ。じゃあ白馬に乗ってるの


ー白馬にも乗るけど、本当は車好きだ


ーいつの時代?車あるなら車乗るでしょ


ー白馬に乗るのは、お城の近くの山に狩りに行く時だ。


ー何狩り?


ーイノシシとか


ー王子はイノシシは狩らない。狩るなら鹿でしょ。

キャベツ太郎って、名前はおちゃらけてるけど、人生何か影をおとしてたりする、本当は


ー影?


ー死に別れた母親がいるんだけど、継母とそりが合わなくて、本当は自分が必要とされていないと思ってて、城を飛び出すのよ。そして、自分を必要とする人々を求めて冒険に出るのよ


ヤネコは酔いの勢いに任せてよく話した。

でも聞いていた俺もどんどん酔い、お互い取り止めもなくなってしまった。もちろん、ヤネコの悩み相談も。


ただちゃんと覚えているのは、ヤネコがビールを飲みながら、キャベツ太郎をしっかりツマミで食べていたことだった。


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