第1話 チーズ餃子とオリオンミニコーラ
「まだ明るいのにビールを飲むとなぜ罪悪感があるんだろね?」
会社帰りなのだろうか、スーパーで20代らしき同士の女性二人が立ち話をしている。
外からは明るい西日が差し込んでいる店内。
買い物籠の中にプロセスチーズと、餃子の皮、そしてビール350ml缶を2つほど。
俺もまだ日の沈まないうちからビールを味わおう。餃子を作ろう。
チーズを包んだ揚げ餃子は、匂いが残らないし、なにせビールのつまみにぴったりだ。
「ただいま」と独り言ちる。
ネクタイを外してキッチンへ直行だ。
日が沈まないうちにビールにありつくには、手際よく餃子を作らねば。
チーズはサイコロ型に刻む。大きさは気にしない。皮が破れさえしなければよいから。
餃子の皮のふちをなぞったときの何とも言えないザラっとした感じがいい。
二つに折った皮の向こう側にゴツゴツしたチーズが薄っすらと見える。
食べない分は次に備えて冷凍しておこう。って次はいつのことやら。
餃子を一つずつ、鍋にゆっくりと入れる。音に聞き惚れる。
パチパチ音を立てている鍋から目は離さず体を離してじっと待つ。
きつね色になった餃子、敷き紙の上で整列!
「お先です」。
今夜の妻の帰りはまだまだ先で、俺はテーブルの餃子とグラスを前にして合掌。
ビールを一口、そして、餃子を頬張る。
カリッとした皮の感触の先に、熱を持ったチーズが飛び込んでくる。
やけどしそうだが、ちょっとぐらいいい。明るいうちからビールを飲んでる罰なら甘んじて受けてやる。
ハフハフ。
ビールが口の中の熱を奪い取って喉元を過ぎていった。
さてと。
大人買いした駄菓子の入った袋の中をためつすがめつ。
一つを選びたいのだが目を開けているといつまでも決められない。
駄菓子の前ではいつも優柔不断であります。
目をつぶって手にしたオリオンミニコーラ。
ダイエット~でもない、ただのコーラだ。いやミニコーラでありました。ジャンク万歳!
ふたは、今どき引き上げるプルトップのふた。
これがまた固くて焦らしてくる。ただのコーラなのに。
容器から2粒飛び出してくるのを手のひらで受け止めた。
小学校の下校途中で買って帰ったミニコーラ。歩きながら食べるとたいてい何粒かは道路に落ちたものでした。それがもったいなくて拾って食べたこともあったな。
昔ミニコーラを分け合った近所の友達。抜け落ちた乳歯の穴にはまったのを、ニヤッと見せてたな。
あいつは、今何をしているんだろう。
ビールとともにミニコーラ。なんだか空恐ろしい。おそるおそる、だ。
ビールを含んでミニコーラをかみ砕く。シュワシュワが口を波状攻撃してくる。その味は苦いんだか、甘いんだか。口の中はノーガードでパンチを食らってしまった。
その味はさておき、ひとつ面白い発見をした。ビールのグラスの中で浮きつ沈みつするミニコーラに思わず見とれてしまったのでした。