田守優子くらぶ（二百文字小説集）

彼岸

「もしもし、母さん」

「何だい、お前かい？　どうしたんだい？」

「彼岸に帰ろうと思ったんだけど電車賃がないんだ。振り込んでくれないか？」

「バカだね、お前は。お前と弟の正和は分け隔てなく育てたつもりだよ」

「僻んでるんじゃねえよ、彼岸だよ！　俺には弟いねえし！」

「思いつめた願いがあるのかい？」

「悲願じゃねえよ、彼岸だよ！」

「電話で言うからわからないんだよ。ＬＩＮＥで送っとくれ」

　呆れた息子は通話を切ったそうな。