表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

セラム

作者:

「金曜日、同僚が結婚するんです」


よく晴れた日の夕方、

スーツ姿でビジネスバックを提げた

男性が、カウンターの前で呟いた。


フラワーショップ『セラム』

控え目な構えだけど、私のこだわりのお店。


うちに来てくれるお客さんの多くは、

皆何かしらの想いを抱えている人で、

どうやらこの人もそうらしい。


そう悟るのに十分な沈黙。

カウンターを回り込み、

彼の側まで行ったところで、

ようやく続きの言葉が聞こえてきた。


「……それで、お祝いに花束を用意しようと思っていて」


「ご予約ですね?」


そう笑いかけると、男性は

ええ、まぁ。とぎこちない笑顔を浮かべた。


「これをお願いしたいのですが」


男性が指差したのは、

紫色のラン。その立て札には、

花束の見本写真をつけてある。

品種は、デンファレ。


「紫色が好きな人でして」


「そうなんですね。

とても喜ばれると思いますよ」


男性と受け渡しの日時を打合せ。

それが終わり、お名前と電話番号を控えて

頭のなかでこれからの仕事を整理する。


すると、今するべきことを思い付いて、

カウンターに背を向けて、

歩きだしていた男性に声をかけた。


「良かったら、こちらもお持ちください」


振り返った男性に、

私は青紫の一輪を差し出した。


「これも彼女に?」


「いいえ、あなたに」


不思議そうに受け取った男性に、


「幸せは必ず訪れますよ」


と伝えると、ぱちぱちと

まばたきをしたあと、

「ありがとう」と微笑んだ。


それは、紛れもなく

私が見たい笑顔だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ