シャロンと帰宅
しばらく精霊と遊んだり、花を摘んだりして過ごしていた。ふと空を見上げると、日が傾き始めている。
「そろそろ帰りましょうか」
学校の帰りにここにやって来たため、滞在時間も短くなってしまった。三人に声をかけると、文句を言うこともなく素直に帰り支度を始めてくれた。
アマリーの髪についている花びらを取って、私も立ち上がると双子に手を繋がれた。
この天国の花畑は精霊に認められないと立ち入れない聖地である。
その為、ここは禁断の森と恐ろしい噂がつく森の中に存在している。存在していると言っても下界と上界の間に位置する不思議な界にあるらしいので、無暗に探してみても普通の人は絶対に辿り着かないようになっているそうだ。
精霊の加護持ちのリゼとロゼは、この天国の花畑への出入り口を唯一作れる人間だった。
弟達の手をギュッと握って、私はモヤモヤと動く不思議な色をした穴の中へ身を投じた。
「──皆様、ご無事でなによりです」
そう私達に声をかけるのはバレンスエラ家の護衛達で、安堵の表情を隠すことなく全面に浮かべていた。
天国の花畑は聖地である為、おいそれと人は入れない。
ゆえに護衛の者達は、森の前まで来たのはいいけれど、留守番ということになってしまった。
勿論、彼等はそう簡単に私達を行かしてくれた訳ではなく一悶着あった。
人間国宝の精霊加護持ちと妖精の祝福持ちに何かあれば家庭の問題では済まない。
国、さらに言えば世界レベルの問題にまで発展する。
そんな弟妹を守るのに、護衛達は一つの緊張も許されなかった。
最終的に、妹の涙を溜めた上目使いに甘い声の最恐コンボによって護衛達は撃沈した。
妹ながら末恐ろしい思うも、聖地に行ってみたい欲が勝った私にとっては有り難かった。
馬車に乗り込み、家へと向かう。
「お兄様たちも来れたら良かったのになあ……」
「仕方ないよ、スフィフト兄様もレヴェルト兄様も忙しいんだから」
「兄様方って本当にすごいよね!俺もああいうふうになりたいなあ」
「ロゼならきっとなれるわ」
仲良く談笑しながら、何気なく外に目をやる。
森の影から何かの灰色の壁が見えたような気がした。
こんな森の奥にしかも不可侵の区域に建物があるなんて珍しい。
誰かに話してみようと思っていたけれど、結局お喋りに夢中になり、すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。