シャロンと弟妹
私の目の前にはそれはそれは美しい花畑が広がっていた。
一般的に認知されている花から、見たことのない希少なものまでここにあり、私はほう、と感嘆の息を吐くことしか出来なかった。
ここは精霊の聖地、天国の花畑。
普通の一般人はまずこんなところに来られない場所だ。
精霊はとても警戒心が強く、そう簡単に姿を現さないと言われている。この場所だって精霊のお気に入りスポットであるならば、こんな私がここに居られるわけがないのだ。
なぜここに私が来られたのかといえば、双子の弟達のお陰である。
「シャロン姉様、精霊達が挨拶したいって言ってるよ」
「凄いね、姉様!精霊達に気に入られるなんて!」
精霊の加護を受けた彼らは、紛れも無く私の弟で、何百年かに一度現れると言われる精霊の加護持ち。
精霊の加護持ちは国に安寧を与える一方で、国を揺るがす脅威ともなる。それが双子として二人同時に生まれたものだから、国中は大騒ぎになった。
あれよこれよと言ううちに双子は人間国宝に指定され、世間から尊ばれている。
双子は本人たちが思っている以上に存在価値があった。
そんな彼らは流石は双子ともあり、青い髪やパールグレイの瞳は同じで姿形は似ていれど、性格は勿論違った。
双子の兄のリゼはしっかり者であろうとする慎重者だし、弟のロゼは向こう見ずで活発的な男の子である。
「いいなあ、お姉様。私も精霊さんたちとお話ししたい……」
しょぼんと肩を落とす妹を見て焦ったのは私だけではなく双子達もである。
双子以外精霊の姿は見えないため、私とアマリーは感じるしかなかったのだ。
「そんなことないよ、ほらアマリーの周りに精霊達が話をしたくて集まっているよ」
「そうそう、恥ずかしがっているだけさ!」
そう双子が言うと、妹の顔はパアッと明るく華やぐ。
そんな愛らしい笑顔は兄弟にも通用し、美少年の双子の顔はだらしくなくニヤけていた。
妹のアマリーは妖精の祝福を受けていた。
妖精の祝福の多くは王族が受けると言われる中、アマリーは祝福を持って生まれた。
精霊の加護持ちの方が珍しいが、妖精の祝福持ちも勿論国から優遇される。
アマリーの持つ祝福の中で、一番強い効果を表しているのが"魅了"だという。
アマリーが微笑めば人々の心は安らぎを覚え、泣けば人々の心は悲しみを覚え、怒れば人々の心は憤りを覚えるだろう。
アマリーがこの場所に居られるのは妖精の祝福持ちだから、精霊も比較的受け入れやすい存在なのだろう。
絹のようなミディアムブロンドの髪に薄桃色の瞳の美少女は兄姉に限らず、今日こそ精霊達をも魅了してしまった底知れぬ恐ろしい力を持っているのである。