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「「「お姉様が行方不明!?」」」


 レヴェルトお兄様の言葉を聞いた瞬間、私の頭の中は真っ白になった。

 一緒に話を聞いていたリゼお兄様とロゼお兄様も顔色を失い明らかに動揺している。


「昨夜から足取りが掴めない。魔法を使っても探知できない」


 その一言が状況の異常性を物語っていた。お姉様が意図的に姿を消すなど考えられない。


「お兄様でも分からないなんて……」


 焦燥感と不安が胸の中で渦巻く。するとレヴェルトお兄様は険しい表情で続けた。


「これはただの魔法妨害じゃない。十中八九、黒の魔法士の仕業だろう」


 黒の魔法士──その言葉を聞いた瞬間、私は全身の血が凍るような感覚に襲われた。


「もしかして、『サバト』……?」

「その可能性が高い。」


 レヴェルトお兄様の声は苦々しさを帯びていた。それは、不安と焦りを必死に押さえ込んでいるような響きだった。

 私は胸の奥が締め付けられるような感覚に襲われた。

 お姉様は特別な力を持たない。それゆえに一度狙われてしまえば抵抗することもできないだろう。


 不安に襲われる中脳裏に浮かんだのは、シャロンお姉様のことを「愛している」と口にしたある男性の顔だった。


「殿下は? 王太子殿下なら、お姉様のことで何か知っているのでは?」


 思わず問いかけると、レヴェルトお兄様が不思議そうな表情を見せた。


「……お前、王太子と面識があるのか?」


 ギクリとして言葉に詰まる。私が王太子と会ったことは殿下と私だけの秘密だ。

 どう誤魔化そうかと目を泳がせたが、レヴェルトお兄様はそれ以上深入りするつもりはなかったようで、すぐに真剣な表情に戻った。


「殿下には既に連絡を入れている。もうすぐこの家に来るだろう。リゼ、ロゼ、アマリー、いざとなれば力を貸してほしい」


 その言葉に、私たちは力強く頷いた。自分たちの力がどれほど役に立つかわからない。でも、今できることをすべてやらなければならない。それだけは分かっていた。



 それからほどなくして王太子殿下が我が家にやって来た。彼の鋭く引き締まった表情から事の深刻さがひしひしと伝わってくる。


「何か分かったことはありましたか?」


 私は焦りを抑えられず問いかけた。殿下は一瞬だけ目を伏せ、慎重に言葉を選びながら答える。


「場所はまだ完全に特定できていない。だからこそ確実な手がかりを得るために君たちに協力をお願いしたい」


 その言葉に、私たちは深く頷いた。


「確かに私の妖精の力、そしてお兄様たちの精霊の力を使えば、お姉様の位置を探すことくらいは可能かもしれません」

「頼む」


 殿下のその一言が、私たちの胸に火を灯した。


 私とリゼお兄様たちは三人で輪になり、私は妖精を呼び出すために瞼を閉じ心を集中させる。すると、まるで応えるように小さな光の粒が空中に舞い始めた。その光は優しく揺らめきながら、次第に力を増していく。


「アマリー、精霊たちの準備も整った」


 ロゼお兄様が静かに声をかけてくる。その声に頷き私たちは妖精と精霊の力を調和させた。


「どうか教えて……お姉様はどこにいるの?」


 私の心の中の問いかけに応えるように光が一方向に集まり始め、私たちにお姉様の居場所を教えた。


「ここ……ここにお姉様が」


 用意されていた地図に指を置き私は小さな声で告げる。

 そこは天国の花畑(ホーリーレイス)と呼ばれる場所がある禁断の森。その森の中にある灰色の建物にお姉様はいる。


 殿下は険しい表情を浮かべたまま頷き、帯同していた剣を握りしめた。


「協力感謝する」


 そう言って足早に外へ向かおうとする殿下に私は慌てて口を開く。


「待ってください! 私たちも行きます!」

「ダメだ。君たちを危険と分かっている場所に連れて行くわけにはいかない。レヴェルトのみ連れて行く」

「禁断の森は精霊の加護持ちが入り口を作らなければ入ることはできません!」


 私の言葉にリゼお兄様とロゼお兄様は真剣な表情で頷く。

 殿下はしばし逡巡した後諦めたように溜息を吐いた。


「……なら何もしないと約束してくれ」

「え」

「いい?」


 そう言い放った殿下の顔はゾッとするほど無表情で、尋ねているのに有無を言わさない空気に、私たちは無言で頷くしかなかった。



 *



 リゼお兄様たちを先導に禁断の森に足を踏み入れる。

 以前来た時とどこか違う雰囲気に私はレヴェルトお兄様の腕を掴む。


「あそこか」


 殿下の指差す先には灰色の寂れた建物があった。

 ロゼお兄様が「そうです」と頷く。


「リゼ、ロゼ、アマリー。いざとなれば自分の身を守ることを第一に考えろ。シャロンは俺と殿下で守る」


 レヴェルトお兄様の言葉を皮切りに殿下が走り出した。

 私たちの身の心配をしてくれるのは嬉しいけれど、お兄様や殿下を危険に晒したくないのはこっちだって同じだ。



 しかしそんな私の心配をよそに、お姉様の救出劇は驚くほどに早く終わった。



「アデーレ・ハイロン。無駄な足掻きはやめてシャロンを解放しろ」


 その名前をどこかで聞いたことがある。

 そうだ、まさに殿下から聞いていたお姉様の友人の名前だ。

 まさかお姉様の友人が犯人で、しが『サバト』についた黒の魔法士だったなんて。


 レヴェルトお兄様の横で待機しながら彼女を見つめる。

 一見優しげに見えるその顔は不気味に歪み、瞳には底知れない狂気が宿っている。それは恐怖と執着を混ぜ合わせたような存在感だった。


「解放? シャロン様は私だけのものよ。誰にも渡さないわ」


 その言葉に背筋が凍る。彼女は本気でそれを信じている。そう、信じ切っているのだ。


「……これ以上、話す必要はないようだな」


 ルイス殿下の冷たい声が空間に響いた瞬間アデーレは目を細めた。

 空気がピリつく中アデーレが不意に手を振り上げたかと思うと、黒い魔力を纏った。


「シャロン様にお前は不要! 死ね──!!」


 黒い魔力の奔流が私たちに向かって解き放たれたかと思ったその時。


「遅い」


 殿下の声が静かに響く。

 次の瞬間、私の目には信じられない光景が広がっていた。


 アデーレが放った魔力を綺麗に避けた殿下がいつのまにかアデーレの目の前に立っていた。

 瞬間移動した? と考えてすぐに違うと否定する。

 私は知っていた。この力は殿下が持つ妖精の力──思考加速によるものだと。

 それは彼の思考速度を常人の何十倍にも引き上げる能力。その能力を使えば、周囲を止まったように感じさせることもできると殿下は言っていた。


「あなた、何をしたの……?」


 アデーレの声は動揺していた。その隙に、殿下は剣を振り彼女の腕を切り裂く。

 悲鳴をあげて倒れるアデーレだったが、すぐに再び魔力を溜めようとする。


 しかしその速度では到底殿下に追いつかない。

 殿下はアデーレに剣を向けた。


「何度やろうと、お前の魔法が僕には届くことはない」


 殿下の声は人間と思えないほど冷たく、鋭い。


「……これで終わりだ。──レヴェルト!」


 最後は殿下ではなく、私のそばにいるレヴェルトお兄様から放たれた魔法によってアデーレの意識は奪われた。


 アデーレが完全に動かくなったことを確認したレヴェルトお兄様の頷きにより、その場の空気が一気に緩む。


 呆然と座り込むお姉様に殿下は急いで駆け寄り、お姉様を抱きしめる。


「ルイス様……!」

「遅くなってごめんね、シャロン」


 二人抱き合う姿はまさに御伽話の王子様とお姫様のようで、思わず見惚れてしまう。


「っ、シャロン!」


 しかしその時シャロンお姉様の体が突然傾いた。

 何が起きたのかと一瞬焦るもどうやら意識を失っただけのようだ。


 意識を失っただけとは言っても、監禁されていたことによる体力精神力の消耗は激しいだろう。

 捕えられていた手首には痛々しい痣まで付いている。


「レヴェルト、すぐにシャロンを──」


 焦った表情の殿下がシャロン様を腕に抱きながら、レヴェルトお兄様に指示を出そうとする。

 しかし私は会えてその言葉を遮るように「殿下、良かったらですが」と口を開いた。


 私の提案に殿下は目を見開き、リゼお兄様とロゼお兄様は「とってもいいね!」と賞賛してくれた。


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