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シャロンと決意

 

「アイヴィー様が……男性……」


 目の前で暴かれた真実は、私がかつて見た予知が外れたことを意味していた。

 初めて予知が外れたこと、高等部入学後の思い悩んだ日々、そして真実、それら全てが衝撃となって私を襲った。


「つまり、二人の間に魔力が流れなくなってしまったのはシャロンの気持ちに問題があったんでしょう。アイヴェルトの存在が殿下の魔力を受け取ろうとする機能を止めてしまった、そう考えるのが一番納得がいく」

「え、俺のせいで何かあったの?」


 とぼけるなとレヴェルトはキョトンと首を傾げるアイヴェルト様に噛み付く。

 いつになく感情を表に出すレヴェルトに私はまた驚いた。


「テメエは殿下の病気を研究していたんだろうが。そんなお前が殿下にパートナーがいなければならないことに気付いていない筈がない」

「……そうかもね」

「恐らくお前はシャロンを見定めていた。そのことは殿下にも伝えていなかったんだろう」

「それは本当か?アイヴェルト」


 レヴェルトの口から荒々しく吐き出される言葉は私を不安にさせる一方で、ルイス様の表情を不信感一色に染めた。


「本当ですね」

「それは反逆罪としても捕らえられても仕方ない発言だぞ」

「そうですね。でもね殿下、俺が今までに貴方様にとってより良い道を用意してきたのは殿下も理解している筈です。これも例には漏れません」

「……後で話をしよう」


 これ以上ここで言い争う気は無いらしく、溜息を吐いたルイス様は未だ放心状態の私を見て申し訳なさそうに眉尻を下げた。


「ごめん、シャロン。変なところ見せて」

「い、いえ」

「アイヴェルトは僕の病気を研究しているチーム員の一人でもあってね、高等部に通うのもこいつと共に通うことが条件とされたんだ」

「ではその、なぜ、アイヴェルト様は女性の姿を……?」


 ああ、とルイス様は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてアイヴェルト様を一瞥した。


「アイヴェルトが女性の姿なのは情報収集をしやすくするためだよ。学院(ここ)でしか得られない情報はたくさんあるからね」


 そうなんだと納得はできても何故だか腑に落ちず、首を僅かに傾げた。

 それを目ざとく見つけ、はあ~~と大きな溜息をつく者がいた。


「もちろん殿下の言う通りだけど、実際はこの男に女装癖があるから、が正しい」


 レヴェルトはまさに虫けらでも見るような目でアイヴェルト様を見ている。そんな目で見られているにも関わらず、アイヴェルト様は喜悦を含んだ目を細めた。まるで間違ってないよ、とでも言うように。


 そこで私はようやく頷くことができた。

 あのイキイキとした姿も、あらゆる人を虜にする笑顔も、女性の姿の自分が好きでなければ出せないものだろう。


「え、シャロン様そこで納得しちゃうんだ」

「す、すみません」

「──はい、そこで謝らない」


 ビシリと指を刺され困惑する。


「アイヴェルト、お前調子に乗りすぎだ」


 どう見てもマナー違反であり、品のないその行動をルイス様が諌めるもそれを気にした様子はない。それどころか畳み掛けるように私に近づく。


「シャロン様は理解してます?殿下の隣に立つという意味を」


 ルイス様─ルディウス王太子殿下─の隣に立つということ。それは自身の身分を考えれば下手なことがない限り、将来妃の立場に立つことを意味する。


「生半可な覚悟じゃダメなんです。今の貴女じゃ務まらない大役だ」

「アイヴェルト!!」


 ルイス様が声を上げて怒りを露わにし、レヴェルトが鬼の形相でアイヴェルト様の胸ぐらを掴む。フレドリック様もそれに同調するようにアイヴェルト様を睨みつけている。


 その様子を私はどこか遠くで見ているように傍観していた。

 アイヴェルト様の言葉に私は反論できなかったし、むしろ納得してしまった。



 ()の私には足りない、ということを。



「シャロンに謝れ」

「レヴェルト、いいの。謝る必要はないです」

「シャロン?」


 私が止めたことに驚いたのか、レヴェルトは目を丸くして力が抜けた手からアイヴェルト様の服を離す。


「──アイヴィー様」

「何ですか?シャロン様」


 私は立ち上がり意を決してアイヴィー様、否アイヴェルト様に声をかければ、アイヴェルト様は面白そうに目を細めた。


「あの時、談話室で言ったことは偽りではないのですか」

「……談話室?」


 ルイス様が何の話をしているんだと訝しげに首を傾げているも、アイヴェルト様はそれが見えていないようにああ、と口角を上げた。


「間違ってないですよ、あれは()の本音です」

「……そうですか」


 気持ち良いぐらいに真っ直ぐにそう言い放たれたことで、私はある覚悟を決めた。



『……本当にレヴェルトの姉ですか?』



 兄弟姉妹に対して劣等感を持つ私にとって、あの時の言葉は自分の身に深く刺さったのだ。それは今でも見えない棘として私に刺さっている。


 しかしその棘が私には必要だったのだ。

 その棘が取れない限り、いつかきっとルイス様を失望させてしまうということを、私は理解させられた。

 それはアイヴェルト様のおかげに他ならなかった。


「アイヴェルト様の言葉、最もだと思います。私がルイス様の隣に相応しくないということも、ルイス様から離れた方が良いということも」

「シャロン!?」


 焦ったように私の手を握るルイス様に今は応えず真っ直ぐ前を見つめると、アイヴェルト様は笑みを深めた。


「それでも、病気に関係なく私はルイス様の隣にいたいです」

「それで?シャロン様はどうするんですか?この国の王妃となればシャロン様より素晴らしい人にたくさん出会う。中には自分より殿下に相応しい人もいるでしょう」

「……はい」


 アイヴェルト様の厳しい言葉にギュッと空いた手でスカートを握る。

 彼の言葉は全て事実で、この先私が成長しなければすぐに私は潰れルイス様の陰に隠れて生活を送るか、そもそも隣にいることができない未来が待っている。

 それは予知しなくても見ることが可能だ。


 アイヴェルト様は今この瞬間が最後の機会だと暗に言っている。

 だからこそ私は意を決して口を開いたのだ。


 空気を読んだルイス様は口を挟んでくることは無かったが、心配そうに私を見ているのが分かる。大丈夫ですよ、とルイス様に向かって微笑む私の手を握る手が強くなった。


 この暖かさが私の背中を押す。

 いつか私も彼の背中を押せるようになりたい。守られるだけの存在は嫌なんだと、心が強く訴える。


「だから、私は、強くなりたい」


 紛れも無い本音は誰に言うでもないものだ。


「自信を持って、ルイス様の隣に立っていられるように」


 ハッキリとそれを口に出せば、どこかスッキリしたように体が軽くなる。

 ルイス様に魔力を送られた時とはまた違う、爽快感だ。


「……その言葉が言えたのなら、それはもう八割叶っているも同然。ではあと二割、どうしますか?」


 先程とは違った柔らかな声が先を促され、私はグッと喉に力を入れて、隣の存在を見上げる。


「ルイス様」

「うん」


 私の視線に合わせるように屈み、笑顔を見せるルイス様は私の何よりの支えとなっえいることを改めて実感した。


「私、変わりたいです」


 こうしてルイス様と想いが繋がって、アイヴェルト様とお話しして、レヴェルトやフレドリック様が真っ直ぐ立つ姿を見て、決意をした。


「……うん」

「だから、だから、ルイス様の隣で成長させて貰えませんかっ。貴方のそばで!私は変わりたい……!」


 精一杯の勇気を持ってその言葉を口にすると、シン、と部屋が静まり返った。


 変なことを言ってしまったのだろうかと嫌な汗が流れ始める。

 言わなければ良かったと沈みそうになったその瞬間、私に大きな衝撃が襲った。


「る、ルイス様!?」


 ギュウギュウと自分の体を押しつけるように抱き締めてくるルイス様はその美しい顔を思い切り破顔させている。

 無邪気なその笑みが私の心臓さえも締めつけた。


「……凄く嬉しい。僕を一番に頼ってくれるなんて、舞い上がってしまいそうだ」

「言ってしまった手前、私が言うことでは無いですが、……面倒ではないですか?」

「シャロンのことを面倒だなど思わない」


 愛する人の成長を隣で見守ることができることほど幸せなことはないよ、そう言ってルイス様は魔力を込めた口付けを私の頰に贈った。

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