シャロンと弟
何だろうと見れば見覚えのある家紋付の馬車。そして出てきたのは、見覚えのある憎らしいほどの美少年、レヴェルトだ。
近寄って来た彼は、見た目からして麗しいその姿で周囲の視線を余すことなく惹きつけている。十二歳だというのに、この凛々しいまでのその姿に魅了されるのは当然のことなのだろう。
「レヴェルトは仕事終わったの?」
「ああ、一緒に帰ろう」
ありがとうと頷き、レヴェルトにエスコートされ馬車に乗り込む。正直言えば歩いて行くのは疲れるので助かったと、椅子に身を沈める。
「明日からまた学校始まるね」
「……休みが無い」
愚痴を零すレヴェルトにクスリとつい笑みが零れた。
史上最年少で宮廷魔道士である弟は、仕事が次から次へと舞い込み、目が回るくらいに忙しい毎日を送っている。この歳で、普通の大人以上に働く弟には尊敬の念以外抱けない。時間を持て余し読書ばかりしている私とは大違いだ。
「シャロン、最近何か"視えた"か?」
私の予知能力の存在をレヴェルト以外知らないために頼るのも全て弟になってしまい、そんな風に過ごしてきたため、呼び捨てに何ら違和感をもた無いのが現状である。
レヴェルトはいつも私のことを気にかけ、事あるごとに声をかけてくれているのだ。
レヴェルトはいつもの喜怒哀楽を表に出さない表情で、こちらを見る。空気はどことなくピリピリしているが私は気にすることなく笑んだ。
「うーん、特にないよ」
「何かあれば俺に──」
「報告する、でしょ?」
心配をかけているのは重々承知で、申し訳なさがつのる。
こんな頼りない私でも弟の体を心配しているのだ。少々のことぐらい、私が頑張れば何とかなる。と、我慢ばかりしてしまう私のことを理解している弟は複雑そうな顔をして息を吐いた。
レヴェルトは優しい、優しいのだ。深い親身の情を感じるたびに全てを預けてしまいそうになる。
私はレヴェルトの姉。甘えて過ぎてはいけないのだ。
流れ行く景色を外目に、一切の思考を拒否するようにゆっくりと目を閉じた。
レヴェルトが胸を抉るような辛さを抱えてこちらを見ているとは気づかずに。