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レヴェルトと来高

 

 新年度になってから半年が経った頃、俺は魔法学の特別講師として高等部へ呼ばれた。


 最初は断ろうと思ったが、シャロンのことも気になるため承諾し、今日こうして高等部へとやって来た。


 のはいいものの。


「おい、なんだそれは」

「え?何が?」


 俺は青筋を立て、目の前にいるヤツを睨んだ。

 ウェーブがかった亜麻色の長髪、華奢な肩に揺れるスカート。


 目の前にいるのは間違いようもなく、男だ。



「お前は何をしているんだ、──アイヴェルト」



 高等部で久しぶりに会った天敵、アイヴェルトは何故か女になっていた。


「やだあ、ここではアイヴィーって呼んでよ!」


 ゾワリと一気に鳥肌が立つ。

 見てみればただの女装ではなく、魔法がかけられているのが分かる。

 しかもある程度力のある魔道士にかけてもらったのだろう、普通の人間なら気づかないほど違和感は全くなかった。

 赤い唇がその姿にしっくり馴染んでいるのがまた気持ちが悪い。


「ふふふ、どう?似合うでしょ?」


 スカートを摘んでくるりと回る。

 どこをどう見ても女であるが、元の姿を思い出せばどうしても冷たい目でヤツを見ざるを得ない。


「その姿で入学したのか?」

「もちろん!男どもがどんどん自分に惚れていくのを見るのはマジで楽しいぞ」


 悪趣味な。

 やはりコイツに関わるべきではなかったと痛感する。


「そんなことより……シャロンのことはどうなんだ?」

「シャロン?……ああ、シャロン様ね」


 意味深に笑うアイヴェルトに嫌な予感しかしない。


「──シャロン様ってさあ、本当にバレンスエラの人間?」

「は?」


 空気が一気に凍りつく。

 それを全く意に介す様子もなくアイヴェルトは続ける。


「だって見てて本当にイライラするんだよね。すぐウジウジするし、地味だし、特筆することもないじゃん?レヴェルトの姉って言うからワクワクしてたのに、期待はずれ……ッ!」


 アイヴェルトの胸ぐらを掴み、ドンッと壁に叩きつけた。

 俺がいつになく怒っているのをヤツが分からない筈がなかった。


「……だからさあ言っちゃったんだよね。『本当にレヴェルトの姉ですか?』ってね」

「それ以上口を開いてみろ、──消すぞ」


 わざわざ甲高い女の声に変えるのも、試してくるような視線も全て虫唾が走る。

 シャロンの気持ちを思えばただ怒りが湧いてくる言葉だった。


「やだやだ、怖い男はモテないわよ?」


 反省のはの字も見えないアイヴェルトに向けて口を開く。


「シャロンをろくに知りもしないくせに勝手なことを言うな」

「分かった分かった」


 降参の意を示しているのか両手を上げてひらひらとふる。


「もう二度とシャロンに近づくな。様子を見ることすらしなくていい」

「なんだよ、ご挨拶だな。せっかく守ってあげてるっていうのにさ」

「……守ってるとはなんだ」

「さーなんでしょう!」


 無言で胸倉を掴んでいた手を首にやる。

 途端焦ったように俺の手を引き剥がした。


「ちょ、落ち着こうぜ。まあ別に教えてもいいんだけどさ。──ここは等価交換じゃない?」

「……何が望みだ」


 アイヴェルトの目がギラつく。

 女の姿でこんな表情をするのはやめてくれと切に願う。


「レヴェルト、君秘密裏に研究してることあるでしょ」

「……ちっ」

「よし、契約成立〜!じゃあ俺からね!」


 防音魔法は既に使っているので問題はなかったが、コイツの空気を読まない能力は国一番だと素直に感心するしかない。


 しばらくしてお互いがお互いの衝撃の事実を耳にし、目を見開くことになる。

 これはもうしばらく話し合いが必要だと悟らざるを得ず、詳しい話は次回へと持ち越しになった。



 *



 アイヴェルトとの会話後、胸糞悪い気分のまま講義室へと向かう。

 緊張こそしないが、生徒は全員俺より年上だ。

 宮廷魔道士としてのプライドを守るためにもアイヴェルトのことは一旦忘れ、身を引き締め直した。


 講義室へ入ればシンと静まり返っており、中等部の授業の雰囲気とは全く違うなと実感する。


「これから特別講義を担当する、レヴェルト・バレンスエラです。よろしくお願いします」


 教卓から生徒たちを見れば早速と言っていい、舐めた態度が伝わってきた。

 どう料理してやろうかと思っていたその時、一人の人物に自然と目が引き寄せられた。


 金の髪に青い瞳。


 ──王太子殿下だ。


 周りと一線を画しているのが一目瞭然だ。

 洗練された雰囲気に、絶対的オーラ、何より輝く目がそれを証明していた。


 ゾクリと肌が粟立つ。

 将来この方の(もと)で働くことが俺の運命だと、ここで、この瞬間、確信した。


 気分はいつになく高揚する。

 なんとなく、この殿下にならシャロンを任せられるのにとほんの少しだけ思った。



 しかしまさかこんなにも隙がなく見える王太子殿下がああなってしまうとは俺は夢にも思ってもみなかったのだ。

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