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シャロンと大会①

 

 空が抜けるような青さに澄み切り、絶好の大会日和に自然と足浮き立つ。

 高等部の生徒たちも今日ばかりは紳士淑女の仮面を忘れそうになるぐらいに興奮しているのが伝わってくる。


 高等部主催で行われるこの馬術大会は結構有名なようで、来賓も多く来ているようだ。中には外国から来ている方もいるようで、先生方が慌ただしく動く様子が視界に映る。


「シャロン嬢、ハイロン嬢もこんにちは」


 こちらに笑顔で近づいてきたのはフレドリック様だ。


「ごきげんよう、フレドリック様」

「……ごきげんよう」


 フレドリック様とは教養の授業で度々顔を合わせており、今日参加することも本人から聞いていた。


「フレドリック様は何の競技に出られるんですか?」

「僕は馬場馬術です。ちなみに殿下は障害馬術ですね」


 殿下という言葉が出てきて反射的に反応してしまう。

 ルイス様をあの日以来避けてしまっているので会話はできていない状態だ。

 フレドリック様に遠回しにルイス様と話をするよう言われていたが、真実を突きつけられるのが怖くて逃げてばかりいた。

 アイヴィー様に言われたことは本当にその通りだとつい自嘲が漏れる。


「貴女方は参加されないんですよね?」

「はい」

「今日は高等部全体が開放的な空気になっています。警備は厳重に行なっている筈ですが、不審者、不審物等十分に注意してください」

「はい、ありがとうございます」


『サバト』の件もある。なるべく人目につく場所で動かないことが賢明だろう。


「殿下は来賓対応の後すぐに試合のようなので、また後にでも声をかけて差し上げてくださいね」

「……はい」


 にっこりと微笑まれ、肯定的な返事しか答えられないような空気にされてしまった。


「それでは準備もあるのでこれで失礼します」


 そう言ってフレドリック様は去って行った。

 フレドリック様が来てから終始黙っていたアデーレが気になり、顔を覗き込む。


「体調でも悪い?」

「大丈夫ですよ!有名な貴公子に初めて話しかけられたので少し緊張してしまいました」


 そうか、とその言葉を聞いてすぐ納得した。

 昔から接しているためあまりその感覚が無かったが、フレドリック様は文武両道の上に王太子殿下の側近候補として今を時めく貴公子だ。

 伯爵令嬢とはいえ、ずっと教会にいたアデーレが緊張するのも無理はないのかもしれない。


「そんなことより、そろそろ会場に行きましょう」

「あ、そうね。馬場馬術が午前競技だったよね?」

「そうですよー!」


 寮から少し離れた先にある会場には既に大勢の観客がいた。

 席が個別に用意され、女子生徒の大半は固まるように座っている。


 私たちもどこかに座ろうと適当な場所を探しているついでに来賓席の方に視線を向けた。

 ルイス様がいると分かっているとやはり気になってしまうのだ。


 そこにはもちろんルイス様はいたが、


「レーナ……?」


 我が親友の姿があったことに驚いた。

 レーナと目が会えばしてやったりという風に口角を上げられる。


 久しぶりのレーナの姿に嬉しくなって、アデーレにレーナのことを教えようと左を向くと、予想外の表情にぎくりとした。

 私の視線に気づいていないようで、何かを睨んでいる。それはある種の殺気をも感じさせた。


「……アデーレ?」


 少し怖くなって恐る恐る声をかけると、ハッとしたようにアデーレはこちらを向いてニコッと笑った。


「すみません、あそこの男がシャロン様を不躾に見ていたので」


 その言葉に先ほど見ていた来賓席を改めてみるとレーナの隣にいる男性が確かに私を見ていた。

 アデーレの言う不躾な視線かは分からないが、男性の紫髪に紫の瞳はどこかで見覚えがある。


 あ、と思わず口からもれた。


 ──アズライールの王族だ。


 隣国アズライールは私の姉が嫁いだ国でもある。我が国の友好国であり、切っても切れない関係だ。紫を象徴の色としているのが印象的だったのを思い出した。


 急いで深い礼をして頭を上げれば、男性はにこりと笑った。

 隣にいたレーナも微笑んで男性に何かを話しかけている。


 そこでアデーレが再び男性を睨んでいるのを見た私はすぐに止めるように言った。


「アデーレ、あの方はアズライールの王族の方よ」

「……そうなんですか」


 渋々と言ったように来賓席に背を向けた。


 とりあえず席を見つけ着席した後、何となくちらりと後ろを振り向いた。


 レーナでもアズライールの王族の男性でもなく、そこで私を見ていたのは――ルイス様だった。


 真っ直ぐにこちらを射抜く視線にドキリとして何か口を動かそうとするけれど動かない。

 お互い見つめ合っていると、ルイス様はゆっくりと唇を動かした。


「──え?」


 周りの喧騒が一瞬にして掻き消されたようだった。

 声は聞こえない。それでも彼は確かにこう言った。



 すきだよ



 ルイス様は小さく笑ってどこかへ行ってしまった。

 呆然とする私に大会開始を告げるパアンと乾いた音も耳に届くことはなかった。


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