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アマリ―と殿下②

 


「──愛してるよ」



 その言葉が嘘ではないと愛おしさに満ち溢れた表情が証明していた。

 殿下からから光のような愛情が感じ取り、思わず泣きそうになったのを一生懸命(こら)えた。


 しかし殿下はお姉様の病気のことも、パートナーのことも何も知らないはずだ。

 もしパートナーが殿下でなければどうするのだろうと、余計な世話をつい焼いてしまった。


「もし、シャロンお姉様が別の人を好きになったらどうするのですか?」


 その言葉を発した瞬間、真冬を思い起こさせるような鋭い冷たさが身を襲った。

 地雷を踏んでしまったと否が応でも悟らなければならなかった。


「別の人を好きになったら?それでも──逃がすわけがない」


 口角は上がっていても目が笑っていない殿下を前に流石に私も、ははは、とただ引き攣った笑みを浮かべるだけしかできなかった。

 パートナーの候補になりそうなシャロンお姉様の周囲にいる男性のことも聞き出そうとしたが、絶対に無理だと、決意は早々に霧散した。

 諦めも大事である。


 一筋縄ではいかない展開に残念な気持ちがするが、タイムリミットもあるし、殿下も流石に鬱陶しいと感じているだろう。

 そろそろお暇しようとした時、殿下が口を開いた。


「ねえアマリー嬢、教えてあげる」

「え?」

「実は──僕も妖精の祝福持ちなんだよ」

「え!?」


 衝撃的な言葉を何の気なしに口にされ身体が固まる。

 この時代に私以外の妖精の祝福持ちがいるという話を聞いたことがなかったため、私だけなのだと思い込んでいたがどうやら違ったようだ。


「ただ僕は妖精自体は見えないからまだ公にはしてないんだ」

「妖精が見えない?」


 それは祝福持ちと言えるのだろうか?

 私の疑問を解消するように殿下は話を続ける。


「僕が妖精が見えないのは珍しいことじゃなくて、むしろ見える人の方が希少なんだ。昔の文献を調査したら見えない人はたくさんいたしね。だから妖精が見える君は本当に凄いんだよ」

「そうだったんですか」

「それに僕は言わば後天性のものでね、能力を授かったと気付いたのは成人の儀を迎えてからだよ。対する君は先天性のものだね」


 妖精の祝福持ちの当事者のくせに何も知らなかったなあという意味を込めて、内心でほーっと馬鹿みたいな声を上げた。

 妖精が見えることが当たり前に育ってきた手前まだ少し理解しがたいが、殿下が言うのならそうなのだろう。


 ならば意外と自分が妖精の祝福持ちだということに気づいていない人もいるんじゃないだろうか。

 その考えに思い至った時、自然と口は動いていた。


「妖精の祝福持ちってどうやって見分けるんでしょうか?」

「普通は不思議な力を持っている時点で疑っていいんだけど、一番簡単な方法は意思を持って天然物に口付けをすればいい」

「意志を持って口付け?」

「そう。応えよ、と心の中で唱えながらね。そうするとその物が輝くんだ」


 そう言って殿下は花瓶に挿してあった花弁をちぎって口付けを落とすと、パアッと花弁が輝いた。

 ニコリと笑って殿下が私にも渡してくるので拝借して応えよ、と心の中で口にしながらキスすると、今度は殿下よりももっと強く花弁が輝いた。


 凄い、魔法みたいだと感動に目を輝かせると、殿下に頭を撫でられた。

 子どもみたいに扱われたことに頬が熱くなる。

 いや、子どもなんだけど!と一人でツッコんでみるもそれすら恥ずかしくなって、羞恥心を隠すように気になっていたことを質問した。


「殿下は何の力持っているんですか?」


 そう尋ねれば殿下はどこか遠くを見つめるように目を細めた。


「君の魅了のような大した力では無いけどね。思考加速、って言えばいいのかな」


 思考加速、聞いたことのない名前だ。

 首を傾げると殿下は微笑んで説明してくれた。


 言ってみれば思考の速さが常人と違ってとんでもなく早く、議論や交渉の場においてとても役に立つらしい。上手く使えば敵の動きがゆっくりになったように感じたりすることもできるそうだ。

 なんだか凄い祝福だなあと小学生並みの感想を心の中でもらした。


「祝福ってね、努力や工夫次第でどうとでもなるんだ。……もしかしたら遠い未来、祝福持ちがたくさん増える世界になってるかもしれないね」

「──それはちょっと怖い世界ですね」

「妖精のみぞ知る、ってとこかな」


 世界は広いと、前世の自分に言ってあげたい気分になった。


「そう言えば、ここまでどうやって来たの?」

「一人で歩いて来ました」


 そう答えると殿下は絶句と言った様子でぽかんと口を開けた。

 何かおかしなことを言ったかなとここに来るまでの自分の行動を振り返ってみる。

 馬車なんて音が凄いから絶対だめだし、護衛なんて外に出た時点で連れ戻されるに決まっていた。

 自分の行動は妥当だと思ったが、どうやら殿下は違ったらしい。


「アマリー嬢、君は『サバト』のことは知ってるんだよね?」

「はい、それはもちろん」

「……それなのに」


 顔が青いような気がするけど気のせいだろうか、とそう思った時、殿下は目尻を吊り上げた。


「だめだよ、ちゃんと妖精の祝福持ちという立場を理解しないと」

「……すみません」

「……君は凄く大人びて見えるのに、時折年相応のところも見れてなんだか安心するよ」


 貴方の方こそもうすぐ十六になる歳には見えませんけどね、と出そうになった口をぐっと押さえる。

 私の場合は前世の記憶を持っているのだから当然のことにしても、殿下の場合は祝福持ちの話を抜きにこの風格は称賛に値する。

 流石は未来の国の主である。


 値踏みするような視線を送っていると、殿下にん?と微笑まれたので慌ててて取り繕った笑みを返した。


 そろそろ時間だね、と窓の外を見ながら言われこくりと頷く。


「帰りは『影』に送らせよう」


 窓を開けて、コンコンと二度ノックした。

 不思議な行動に首を傾げた瞬間、何か黒いものが勢いよく部屋に入ってきた。

 ひゃあっと思わず声を上げると、シーっと人差し指を口に当てて諫められた。


「……『影』が僕の敵と見なしていたら君がここに辿り着くことも無かったんだよ。ここに着た時点で来訪者が敵ではないと分かっていたんだ」


 その言葉に私は震え上がった。

 かしずく黒ずくめの人物をちらりと見て、冷や汗を垂らした。


 王族の『影』の正体は黒の魔道士で、宮廷魔道士とは違い裏で王族のために動く者達だ。

 命拾いをしたのだと安堵するとともに、自分の行動の迂闊さを反省した。


「じゃあね、アマリ―嬢」

「はい、色々とすみませんでした。そしてありがとうございました」

「うん、また会おうね」


 その声が耳に届いた瞬間、『影』にお姫様抱っこをされ窓から落ちていった。


 恐怖に声を上げなかった私を誰かどうか褒めてほしい。



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