アマリーと行動
神の御恵みにより、王国は自然豊かで四季も美しく、貧困層も少ないという比較的平和な国である。
そんな国の男爵家の貴族の愛人の子として生を受けた少女。
少女の母は平民であったため、父親は二人を捨て、本妻と暮らしていた。
10数年が経ち、本妻が亡くなった。二人の間には子どもがいなかったため、父親は少女を引き取ることにした。その頃には少女の母も亡くなっていた。
少女が今までの暮らしとは全く異なった状況に戸惑っているうちに、貴族の学校に通うことが決まった。
そしてその学校で王子と出会い、お互い惹かれていく。
身分差に葛藤しながら様々な障害を乗り越え愛を深めて、最終的に少女は王妃となってめでたしめでたし。
そんな話だったっけ。
まあありがちな話だった。
私は自分の部屋にこもって、紙に思い出せる限りの事を書き出す。
ヒーローやヒロインの名前や性格、容姿、特徴。
この話は小説でアニメ化もマンガ化も無かったため、外見はハッキリとは分からない。
一度は王子様に会わないと分からないよね。
というかむしろ不穏分子はヒロインなんだけど。
シャロンお姉様が病気持ちだったのだ。
どこでストーリーと異なっているのか分からない。
「アマリー」
ドアがノックされ、お兄様の声が聞こえた。
私は一旦紙を机の引き出しに仕舞い、お兄様達を迎えいれた。
入って来たのはリゼお兄様に、ロゼお兄様。
二人とも酷く強張った顔で勧めた席に座る。
必然と私の顔も強張り、ギュッとスカートを握った。
「提案が、あるんだ」
口火を切ったのはリゼお兄様。
ロゼお兄様も頷きながら私を見るので、どうやら先に二人で話し合ったらしい。
「──シャロン姉様の病気、精霊達に頼んで治してもらえないかなって思うんだ」
「え、でも」
「分かってる、精霊の力はむやみに私事に使っちゃいけない」
「でもそんなこと関係ない。今、この力を使わないと俺等は絶対後悔する!」
ロゼお兄様の決心した瞳に、私は力強く頷き返した。
お兄様達の提案により、私達は庭に出ることにした。
精霊や妖精を呼ぶためだ。
本当は天国の花畑に行く方が良いんだけれど、そうそうに外に出してくれないので、仕方なく自然のあるここへやって来たわけだ。
精霊達は万物の根源なので、部屋でも呼んだりすることは出来るが自然がある方がお兄様達的に呼びやすいらしい。
というより、妖精自体が自然物の精霊なので、私が自然が無いと呼べないのである。
もちろん妖精の祝福持ち<精霊の加護持ちなので私は精霊は視えない。妖精しか視えないのだ。
ゆえに以前天国の花畑へ行った時も私は精霊が視えなかった。
けれどシャロンお姉様も精霊が視えないはずなのに、精霊に愛されていると知ったのは本当に驚いた。
「出てきてくれる?」
『どうしたのー?』
私が一言言えば、直ぐ近くにあった花々から妖精達が飛び出してきた。
間延びした愛らしい声で私の周りをふわふわと飛ぶ。
少し離れたところではお兄様達が精霊と会話をしているらしく、私もこちらに集中した。
「お願いがあるの」
『どんなおねがい―?』『どんなのー?どんなの―?』
「シャロンお姉様の病気を治してもらえないかな…」
『びょーきー?』『びょーきー?どんなびょーきー?』
「えっと、魔力欠乏症って言って、魔力が無くなっちゃう病気だよ」
『んー』『んーー』『んー』『んーー』
『みてくるーー』
妖精達がシャロンお姉様の部屋がある方へ飛んでいく。
しばらくして妖精達が帰って来たので、身を乗り出して聞くと、
『むりー』
絶望的な答えが返ってきた。
「な、なんで」
『あのこのびょーきはー』『わたしたちにはー』『なおせないのー』
『まりょくはー』『にんげんがー』『つくらなきゃいけないのー』
肩を落とす私に妖精たちはさらに説明を重ねる。
『わたしたちもー』『まりょくはつくれるー』『でもーあのこのびょーきはー』
『しんこくだからー』『わたしたちがつくってもー』『すぐになくなっちゃうー』
『それにーわたしたちがー』『まりょくをつくったらー』
『わたしたちきえちゃうー』
「──あ」
言葉を失った私に妖精達は微笑む。
『ごめんねー』『ごめんねー』『ちからになれなくて』
『ごめんねー』
ぽろぽろと涙を流す私を妖精達は優しく撫でる。
妖精はもともと自然から生まれた力=魔力の塊だ。
それを分かっていたのに、妖精達が魔力を作れると言った時、それなら作ってくれたらいいのにと不満を抱いた私はなんて愚かだったのだろう。
「ううん、こちらこそ本当にごめんね……っ」
顔を覆って更に泣き出した私の傍にお兄様達が慌てたようにやって来た。
「アマリー!」
「どうしたの?体調悪くなった?」
私はふるふると首を横に振る。
そんな私の様子に二人は何も聞くことなく、部屋に戻ろうと私をロゼお兄様がおぶって庭をあとにした。
私が落ち着いた後、お兄様達も報告してくれたがそちらもダメだったらしい。
妖精達と同じ理由でだ。
「考えが浅すぎたね…」
「精霊達のこと、何も考えていなかった…」
空気が重い。
期待が大きかっただけに、ダメージが3人共大きいのだ。
「──でも、ここで僕達が諦めちゃダメだよね」
リゼお兄様その声にロゼお兄様も私もハッとする。
「だよな、俺達ができることを探して行けばいい!」
「うん、そうだね!」
3人の気持ちが一つになり、落ち込んでいる暇は無いと、お兄様達はそうそうに部屋を飛び出して行った。
そして私は、この前世の記憶を使ってお姉様を助けて見せるんだ、と意気込み、再び机に向かった。