シャロンと目覚め
次に私が目を覚ましたのは成人の儀が執り行われる、すなわち私の誕生日の三日前だった。
私は四日程眠り続けていたらしい。
目を開けて一番最初に視界に入ったのは、濃い隈が出来た弟、レヴェルトの姿だった。
私が目覚めた瞬間、レヴェルトはメイドに指示を出し家族を呼びにいかせた。
「……レヴェルト」
「シャロン……」
「……ごめんね」
私の謝罪にレヴェルトは悲しそうに眉尻を下げた。
原因を知っているだけに、弟にはどれだけの心配をかけさせたか分かる。
「もう、病気の事言うからな」
大勢の足音がこの部屋に向かっているのが聞こえる。
もうすぐお父様やお母様が来られるのだろう。
「……う、ん」
私は振り絞ってその声を出した。
「「シャロン!!」」
勢いよく扉が開いた。
礼儀作法などお構いなしに、両親や兄弟が入って来るのが分かる。
「ああ、本当に良かった……っ!」
お母様は私の左手を取り、涙を流しながら何度も撫でた。
お父様は安堵の表情で私の頭を優しく撫でた。
その後ろで兄弟も安心したように息を吐いていた。
「御心配を、おかけしました……」
私は敢えて両親を見ること無く、真上を見る。
私の様子がおかしいことに直ぐに気付き、彼らは緊張した面持ちになった。
「やはりまだ調子が悪いか?」
お父様の問いには答えず、私はゆっくりと体を起こして、家族に向き直す。
まだ寝ていなさいというお母様の声に首を横に振る。
「話があります」
レヴェルトに補ってもらいながら病気の話をした後、両親は呆然と、兄弟達も顔が真っ青になっていた。
皆私が死んでしまうというところに反応した結果だ。
「そ、それでも、シャロンはパートナーを見つければ助かるのよね?」
「そう。……でもそのパートナーを見つけられる確率は低い」
最初に我に返ったお母様が尋ね、それにレヴェルトが答える。
「シャロンはこれまでにピンときた殿方はいないのかい?」
お父様の至極真っ当な質問に、私はうっと息を詰まらせた。
「──……いません」
「そうか…」
残念そうに肩を落としたお父様に申し訳なさが募る。
その殿方が王太子殿下と言われても困るに決まっている。
ルイス様の事を思い出した私はズキリと頭が痛む。心臓が軋む。
胸を押さえて俯いた私に皆焦って、おろおろし始めた。
「一人に、して下さい……」
「し、しかし……」
「大丈夫なので、……お願いします」
「……分かった。でも何かあったらすぐに呼びなさい」
しぶしぶではあったけれど、私の言葉にレヴェルト以外が従ってくれた。
レヴェルトにも視線で出て行ってくれるように頼むが、真剣な顔で私を見つめるだけで動こうともしない。
「なあ、シャロン」
レヴェルトが何を言おうとしてるかは分かっていた。
あの時の様子をこのキレ者の弟が見逃すはずがないことを理解していたからだ。
無言を通す私にレヴェルトは静かに言った。
「もう気付いてるんだろ?」