シャロンと卒業式②
「そんな大事な事聞いてないわよ、シャロン」
「あ、その、レーナは最近学院に来れてなかったから、言いそびれてたの…」
「そんな…シャロンを高等部で一人にさせてしまうの?そんな恐ろしいこと想像したくない。ただでさえこんな男が付いてくるのに、男だらけの高等部に上がるなんて、絶対守りきれないわ」
「れ、レーナ?」
「……何でもないわ」
ぼそぼそとした声だったのでレーナが何を言ってるのか私は聞き取れなかったけれど、どうやらメシュヴィツ様は聞き取れたらしい。
「ふふ、心配するな、レアリーナ・ポライト嬢。責任もって私が彼女を一生守るから」
「貴方がいるから心配なのよ!大体一生って何、一生って!」
「言葉の通りだが?ああ、高等部ではどこぞの煩い令嬢がいないとなると、こんなにも気持ちが晴れやかになるものなのだな」
「何ですって!!」
レーナは中等部を卒業すると、高等部には上がらず、王宮で勉強をする。
王女として公務も忙しくなるそうだ。
卒業してしまえばレーナは忙しくなって、きっと簡単には会えなくなる。
そう考えると、悲しくなってしまいポロリと涙が流れた。
「「!!」」
二人は口喧嘩が私の涙の原因だと思ったらしく、もうしないからとあたふたしている。
その慌てっぷりが周囲の笑いを誘ったことに2人は気付かなった。
卒業式はつつがなく進行した。
学院長の式辞、国王陛下の祝辞、在校生の送辞、卒業生の答辞。
式が終了すれば、教室に戻って最後のロングホームルーム。
そして校庭に出て、皆離れてしまう友人に別れを告げていた。
「シャロン~~!」
「ふふっ、結局レーナの方が泣いてるね」
「仕方ないじゃない~~っ」
ギューッと抱き締められ、嬉しくなって抱き締め返す。
と、ふいにレーナの肩越しに外に目を遣れば、私はギョッと目を丸くさせざるを得なかった。
見られている。
周囲からガン見されている。
その中には先程祝辞を述べられた国王陛下、来賓として来ていた父に母もいた。
周りの視線に耐えきれなくなった私は一旦レーナに離れてもらう。
名残惜しそうにするも彼女も周囲の視線に気付き、苦笑いをこぼした。
「シャロンももうすぐ成人の儀よね。絶対、披露パーティには行くから!」
「うん、待ってる」
自分ももう成人を迎えるんだと思うと少し感慨深いものがある。
たとえ成人の先に影があるとしても。
「あ、高等部に兄が行くから!兄を見たら私の事思い出してね!」
「──え?」
「あれ?知ってるよね、兄のこと」
「…………ルディウス王太子殿下」
「あはは、そんな畏まった言い方しなくていいわよ。あんなのに」
悪そうに笑うレーナの後の言葉が頭に入って来ない。
脳で、上手く、処理、できない。
会うことを避けたかったルイス様が同じ高等部に入る?
嗚呼、あの"視えた"ことはやはり真実になるのだ。
あの愛しい人の傍に私がいない未来が、本当になるのだ。
その未来を私は目の当たりにしなければならないのだ。
そんなこと私が耐えられるわけがない。
「…シャロン?顔が真っ青よ!」
頭が痛い。
目の前が白くなっていく。
身体から力が抜けていく。
──助けて。
「シャロン──!!」