シャロンと卒業式①
遂に中等部の卒業式を迎えた。
気怠い身体に叱咤して私は学院に足を踏み入れた。
普段の学院の様子とは違い、生徒達のは浮足だっている様に見える。
この学院に通う貴族の子女は中等部で卒業して、高等部に進学しないものが多い。
中等部を卒業する頃は結婚適齢期に突入するので、女子の方は花嫁修業をしたり、結婚する者もいる。
偶にもう少し学びたいと言う女子も出てくるため、高等部に女子がいないわけではないが、少ない。
その一方で男子のほとんどが高等部に上がる。そこで専門的な事を学んで、社会に出て行くのだ。
ゆえに高等部の生徒の大半を男子が占めていた。それがまた女子が少ない理由でもあるのだろう。
こうして中等部卒業を境に、学生という自由な身分から離れてしまうので、卒業してしまう者にとってそうそうに男女が常に共にいる機会も無くなる。
それを惜しむからなのか、男子の表情は悲哀を含んだ者ばかりで、それをどう評するべきかもわからないまま、私は教室に向かった。
教室に足を踏み入れると、一際目立つ集団が目に入った。
それに私は、ああ、と納得する。
集団の中心にいたのはレーナ。
少し前に成人の儀を迎え、国中に顔が知れ渡ったので、こうして貴族の皆様に取り囲まれてしまっていると言う訳だ。
私に気付いたクラスメイトが挨拶をしてくる。
ごきげんようと返せばそれに気付いた他のクラスメイトが連鎖するように口々に挨拶をしてきた。
そしてレーナも私の存在を目に留めるとふわりと笑った。
その美しさに教室中の人が息を呑んだ。
「ああ、私も遂に卒業なのね」
「おめでとうございます、レーナ」
「ふふ、シャロンもおめでとう」
もう隠すことも無いので私への態度も、二人きりの時の様になっている。
それを聞いていた人達は公爵令嬢に羨望の眼差しを送った。
と、そこに、やって来た一人の男子学生。
「やあ、レアリーナ・ポライト伯爵令嬢」
「……あら、フレドリック・メシュヴィツ侯爵令息様。随分と遅い御到着で」
教室の空気がピシリと固まる。
メシュヴィツ様がレーナが王女殿下だと知らないはずがないと困惑したが、ああ、とすぐに気が付く。
彼は敢えて態度を変えていないのだと。
そんな彼の様子にレーナは嫌味を含めながらも軽く笑った。
確かにクラスメイトのレーナへの接し方の変化に些か呆気にとられはしたが、身分の重要さは心に深々と焼き付いている貴族のことを考えれば、納得もいく。
勿論レーナはそんなことは理解していただろうが、現実を突きつけられ沈んだ気分の今だからこそ、メシュヴィツ様の変わらない態度が嬉しかったのだろう。
私も嬉しくて微笑ましく二人の様子を見ていると、ぐるりと彼の視線がこちらに向いた。
ぎくりと肩をすくめると怒涛の求婚劇が始まった。
それに突っかかるレーナに、私はなんだか可笑しくてつい笑ってしまった。
「ああ、貴女の笑顔は本当に愛らしい。高等部では会えないと思うと私は胸が張り裂けそうです」
「本当に張り裂けてしまえばいいのに」
「何だと!」
二人の楽しそうなやり取りを前に、私はおずおずと言いそびれたことを口に出した。
「……あの、私も高等部に進学します」
「「え?」」
勢いよくこちらを振り返った二人の表情はそっくりで、私はまた笑ってしまった。