ルイスと彼女
僕はルディウス・ディー・バトラー。トリデア王国、王位継承権第一位の第一王子。
現在十三歳であり、後二年して成人を迎えれば立太子する予定だ。
この国の未成年の王族は公に姿を現してはいけないと言う慣習があるがゆえ、仮の身分として伯爵家か地方にある侯爵家の家へ入れられることが定められている。
そこで成人まで、様々な教養やマナーを磨いていくのだ。勿論普段は王城にいるので、滞在する家では主に外の事を学ぶ。
グレッグ伯爵子息として領地経営を学んだり、伯爵の知人や領民たちと言葉を交わし、知らなかったことをたくさん学んでいく。それは王城にいるだけでは決して学べないことばかりだった。
将来国の主として、周りの者からよせられる期待に応えようと私は日々努力した。
勉強は実際に経験することも勿論大切だけれど、知識を持つことも重要で、十歳ながらに高度な知識を持つことを求められた。
それを大変だとは思っても、辛いと思うことは無かった。学ぶことが好きだったから、そして学ぶ傍には"君"がいてくれたから。
「シャロン」
「はい、ルイス様」
目の前に座って本を読んでいる君の目に自分を映して欲しくて、私は声をかける。そして蜂蜜色の瞳が私を捉えた。
瞬間、ドキリと胸が高鳴り、言い様もない充足感で全身が満たされる。
出会って三年が経ち、彼女はますます綺麗になっていく。これでは成人を迎えた後どうなっていくんだと、私は気が気でない。
正直に言えば、私はシャロンのことを知っていた。
大貴族バレンスエラ公爵家の息女であるということを。
しかし、彼女は私の事は知らない。私が王族と知るのは一部の者達だけで、それは当然のことだった。
なのに双子の妹レーナを知っていると言うのは本当にズルい。
ならば私の正体も打ち明けてしまってもいいんじゃないかと進言したが、妹のは不可抗力だったそうで僕の方は許可されなかった。
──それは、慣習の事もあったが、何より私の病気持ちの所為での理由が一番大きいだろう。
私は他人と比べて魔力量が多いらしく、その所為でよく魔力が暴走し、倒れ寝込むことが多い。
原因は分かっていないらしく、両親は医療研究チームを立ち上げ日々研究にあたらせている。
この原因不明の病気はさらに極少数の者にしか知らされていない。勿論親戚筋にあたるバレンスエラ公爵にもだ。
私は自分の奥深くに眠る病気が恐ろしくて仕方が無かった。
何度、未知の病気への恐怖に眠れない夜があっただろう。
何度、死の存在を近くに感じただろう。
ただそんな僕の唯一の救いがシャロンだった。
側に居れば、いつだって安心し、いつだって笑顔でいられた。
僕は癒されていた。身体的にも精神的にも、愛しい君に。それをどうして惹かれずにいられようか。
彼女の手を取れば、僕の心も身体も歓喜に満ち溢れた。
彼女を支えれば、僕はとてつもない幸せを感じられた。
だからお願いだ、僕の唯一の君。どこにも行かないで、ずっと僕の傍に居て。
病気に負けない身体になって君を守ると誓うから。必ず君を攫いに行かせて。
愛してると、伝えたい。今はただそれだけだ。
一応、十三歳編?終わります!