シャロンと親友
昼休み、ぽかぽかと昼の日差しは温かい。
二人でベンチに腰掛け、シェフに作ってもらったお弁当を味わいながら口に入れて行く。
「ねえ、シャロン」
「はい、レーナ様」
「それ」
ビシッと指差され、レーナ様の不機嫌顔に少し戸惑いながら首を傾げる。何か不愉快になることでもしてしまったかと、急いで考えるがどうも思い当たらない。
しばらくして彼女の口がその答えを紡いだ。
「その敬語、どうにかならないの?」
「……そうは言われましても」
王族の御方ですしと口にすれば、レーナ様の顔に刻まれていた眉間のしわが更に濃くなる。
解せないとでも言うように、私の肩を掴んだ。
興奮しているらしいレーナ様の瞳孔は開いていた。
「禁止」
「へ」
「様付も敬語も禁止!」
そんな無茶な。
「だって私達又従姉妹じゃない。親戚なら遠慮することはないわ」
「……それはそうですが」
彼女の言葉通り私達は血が繋がっている。
我が家バレンスエラは王族の血が混じり、数ある公爵家の中で第一位の地位にいる由緒正しき大貴族だ。
私の祖父が王弟であり、父は現王の従弟にあたる。
祖父の母もバレンスエラ家出身で、実家を継ぐ者がいなかったため祖父が臣下に下って当主になったと言われている。
更に驚くことに、初代バレンスエラ家当主の娘が初代国王の寵妃だったそうだ。
まあこういうわけで、王家とバレンスエラ家は切っても切れない深い関係であるのだが、敬語を止めろと言うのは些か私の中では勇気のいる問題であった。
「や、やっぱりちょっと……」
無理です。そう口に出そうとするのを止める。
友人が目に涙を浮かべていたから。私は思わず目を見張った。
「レ、レーナ様!?」
「私の事"親友"って言ってくれたのに、敬語なんて付けられたら"友人"止まりで終わりじゃないっ。私はそんなの嫌だもの。それとももう私の事なんて"友人"としか見てくれないの……?」
「──」
一瞬、言葉を失った。図星だったからだ。
レーナ様と親友なんておこがましいと思っていたのだ。
「いい!シャロンは私の親友なの。シャロンだけなの!」
思っていたのに、友人の……親友の言葉に視界がパッと明るくなる。
凝り固まっていた何かが開放される様に、私は笑った。
「うん、レーナ!」
仲がより深まったと言うことで、お互いのことをさらに知ろうと色々な事を話した。
中でも印象に残った、というよりたくさん話題に上がったのが王子殿下の話。
もう一人いる成人していない王族がレーナの双子の兄である王子殿下。
学校には通っていないので家庭教師だけで勉強しているとか、妹であるレーナに対しての扱いが雑だとか、十三歳のくせに何でも完璧に出来て怖いだとか。
まあ、誉めているのか貶しているのか分からない王子様の情報をたくさんくれたけれども。
王子殿下の情報はほとんど役にも立たないだろうなとは思う。
そんなことよりまず、未成年の王族の情報をこんな簡単に流しちゃっていいのかと余計な心配をしてしまうが、レーナが楽しそうなので良しとしよう。