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くちづけ

作者: 裕里 沙亜奈

キスって、スキの反対で…

行為自体よりも、何となく愛情感じてみたりする気がするんですよね…


ちょっとだけ大人なキス=スキのお話を書いてみたかったのです!


絡まる吐息が熱い鎖を紡いでいく。

鎖は徐々に私の思考を固定していき、私の世界から貴方以外の存在が消えていく。

まるで、言葉に乗せられないほどの想いが合わせた唇から伝わっていくのだと信じる少女のようにひたすらに口付ける。

一言の会話すらも惜しむように、ひたすらに。



「お帰りなさい。」

「ただいま。」


一週間ぶりに会う貴方を迎えた玄関で抱擁と共に短い挨拶を交わしたあとは、どうしても言葉を継げない。愛しい貴方の匂いを、体温を、鼓動を感じてしまうと、どうしようもなく身体の奥で熱が暴れだしてしまう。

どちらからともなく重ねた唇からは言葉にならない声が僅かに漏れるだけ。

蜜の滴るような囁きも、一日千秋の思いで過ごした時間の前には無意味だ。


―――会いたかった……


それだけが今伝えたい全て。


熱が脳を侵食していく。水中を漂うかのようにふわふわと地に足のつかない感覚になっていく。


貴方が靴を脱ぐ間も待てない。

胸に貯めた熱を冷ましたい。


けれども、吐き出しているはずの熱はさらに温度を増していく。背中に回された貴方の腕から、溶け合いそうに絡む舌から、甘い熱が脳の痺れを伴って全身へ広がっていく。


丘に揚げられた魚のように絶え絶えに呼吸をしながらも、合わさった唇を離せない。

苦しさににじむ涙は、全身を支配していく甘味に添えるスパイス。


意識が霧に霞む寸前、ようやっと離れた私の目に貴方の瞳が突き刺さる。

抑えきれない熱と激情が、その瞳の奥に……


ジャングルの中で虎に出会ってしまった野兎は、きっとこんな気分なんだろう。

その瞳が宿す荒々しい熱の美しさに心奪われて、息もつけない。


苦しいほどに鼓動が騒ぐ胸に、更なる熱が注がれて行く。




……夜はまだまだこれからだ。






………なんつって。

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