おまけ:葛西の彼女
「紹介するのが遅れたけど」
「初めまして、諏訪小百合です」
葛西晃一の隣には、モデルと言っても通用しそうな美人がいた。
「いつから?」
「春から付き合ってる」
葛西の嬉しさを隠そうとしている表情に、涼は苦笑を漏らした。
そして、小百合に向き合い、爽やかに笑った。
「泉水涼です。葛西をわかってくれる人がいて、嬉しいです」
「うーん晃一くんに聞いていたとおり、面白い人ね。私も君みたいな理解者がいて嬉しいわ」
小百合は屈託なく笑みを浮かべた。葛西たちとは五歳差なのに、距離を感じさせない笑みだった。
会う前に、葛西は両方に簡単な説明をしていた。小百合のこと、涼のこと。涼については、恋人のことまで話していた。
「黒瀬千尋です。葛西くんから説明は…」
「うん。泉水くんの恋人だよね」
あっさりと言った小百合に、涼と千尋は顔を見合わせた。それを見た葛西と小百合も顔を見合わせ、同時に笑った。
葛西は困ったように、小百合は楽しそうに笑ったまま説明した。
「私の親友がね、男同士で恋人関係なの。一人には恋してたけど、今ではどっちも大切な親友。そういうわけで、変だと思わないわよ」
「で、俺は小百合さんの親友に会ってたから、泉水たちに偏見はなかったんだ」
千尋は納得したように頷いた。隣で涼もへえ、と顎に手を置いている。
葛西と小百合の出逢いは、コンテスト受賞の絵が展示されている会場だった。そのコンテストで葛西は佳作を受賞し、表彰式後に小百合が声をかけた。
葛西は小百合を見て初めて人物画を描きたいと思い、小百合に頼んだ。小百合は自分が惹かれた絵を描いた人が、自分をどう描くか興味があり、迷うことなく引き受けた。
その後、何度も会っている内に、互いが離れ難くなっていき、付き合うことになった。
「小百合さんの親友に会ったのが泉水から電話があった日の一週間前で、運命感じたな」
「そうだったんだ…。うん、運命ね。そう思いたいかな」
涼が幸せそうに言ったのに対し、千尋は擽ったそうに苦笑を漏らし、葛西は愉快に笑った。
いつの間にか広がっていく繋がり。誰が中心になっているのかわからないほど、偶然で、運命的に交差する。
「世間は狭いって言うしね。今度は泉水くんに親友を紹介したら、隠れた繋がりが見付かるかも」
小百合の意味深な発言に、三人は顔を見合わせた。
まだ、どこかで誰かが繋がっている。