学校にて Ⅲ
少年が座った状態で何か唱えている。彼の横には黄色いスティックが立てかけてある。テーブルの上にはトレーがあり、その上には空の食器が乗せてある。唱え終わると、少年は満足そうにお腹をさすり、大げさにふんぞり返った。同じテーブルに座っている他の男子生徒達は、もうすでに食事を終えていた。食堂には料理を頼もうと依然として多くの人が列を作っていた。
「さっきの変化の話、あれいつになったら聞かされなくなるんだろうな」
スティックの少年のちょうど反対側に座っていた男子生徒が口を尖らせながらつぶやいた。
「もう何回聞かされたのかわかんないよ」
「その奇跡のせいで、変な呪文も唱えさせられるし」
彼らは食休みとばかりに先程の授業の話を交わし合う。しかしスティックの少年は口を結んだままで、周りの音を聞いていた。
彼らの周りのテーブルがしだいに埋まり始めた。トレーを持って席を探す生徒も、ちらほら見えるが少年達はまだ先程の話で盛り上がっていた。ただしスティックを持つ彼を除いて。
「……でも」
スティックの少年の声が枯れた。言いにくいことなのかずっと黙っていたからなのかその原因はわからない。少年の顔からは全ての感情が消えていた。
「新しい身体よりも、完全な身体が欲しかったな」
彼らのテーブルだけ一瞬時間が止まった。周りはあいかわらず騒々しい。
「……ごめん。そろそろ行こうか」
彼はスティックを右手に持ち、立ち上がった。
「……謝るなって。ああ、食器は俺が片付けるよ。あの人混みを歩くのは大変だろ」
彼の左隣に座っていた大柄な男子生徒が二人分のトレーを両手に持って立ち上がった。
「いつも悪いな、片付けてもらって」
「気にするなって。困った時はお互い様だ」
少年の顔には表情が戻っていた。