学校にて Ⅰ
少年は黄色いスティックを右手に持って、授業が終わるのを今か今かと待っていた。教室の一番後ろの窓側の席でそわそわしている。黒板の真上にある時計は、まもなく正午を示そうとしていた。ノートや筆記用具はもうすでに机の上から片付けられている。
「あと何分で終わる」
黄色いスティックを持った少年は、隣に座っている女の子に顔を近づけ、話しかけた。女の子は鉛筆を動かすのを止め、時計を見た。
「だいたい2分くらいかな」
女の子は声をひそめてそう言うと、再び鉛筆を動かそうとした。しかし、少年がさらに顔を近づけてきた。
「2分くらいだってことは大体感覚でわかってるよ。もっと詳しく秒単位で教えて」
女の子は少しめんどくさそうな様子で、もう一度黒板の上を見上げた。秒針はちょうど文字盤の真下を指していた。
「1分30秒よ。それでちょうど正午になるわ」
少年は納得して、正しく座り直そうとしたとき、女性教師と目が合った。
「そこ。さっきから何をこそこそ話しているの」
教師は目を少し釣り上げ、大きな声を出した。生徒達はいっせいに少年達の方を振り返った。
「あなたのせいで怒られちゃったじゃない」
少女は少年にだけ聞こえる声で呟くと、教師と目が合わないように俯いた。
「あなた達が今こうして授業を受けられるのは、たくさんの奇跡があったからこそなのよ」
教師は目を閉じてゆっくりと語り始めた。