公園にて Ⅰ
「つぎはあそこであそぼう」
小さな男の子がブランコを漕ぎながら砂場を指差した。一緒に遊んでいた子供達は笑顔で頷き、返事をした。子供達はブランコから飛び降りると、走って砂場に向かった。
「おしろつくろうよ」
女の子が提案した。
「いいね。おっきいのつくろう」
子供達はわいわいはしゃぎながら砂をかき集め、一か所に盛っていった。そして自分達の背丈ほどの塊が出来上がった。
「だれか水もってきて。水がないとかたくできないよ」
男の子の一人が言った。
「入口のちかくのすいどうに大きなバケツがあったはずだよ」
「じゃあ、だれがいくかじゃんけんで決めようぜ」
「わかった」
子供達全員が頷き、掛け声と共に手を前に出した。やがて一人の男の子が立ち上がり、走り出した。男の子は水道に向かって駆けていく。水道に着くと、無造作に置かれていたバケツを拾って、蛇口の下に置き、水を溜め始めた。
男の子がふと後ろを振り返り、公園の入り口の方へ眼を向けると、白いワンピース姿の少女が立っていた。男の子はしばらく口を開けたまま、ただ呆然と少女を眺めていた。やがてバケツから水が溢れだしてきたが、男の子はバケツをそのままに、砂場に向かってまた駆けだしていった。少女はまだ入り口に立っている。しばらくすると、子供達全員が入口に向かって走ってきた。しかし子供達は立ち止まらず、少女のわきをそのまま駆け抜けていった。誰一人目を合わせないように。そして公園から出ると、全員が振り返った。少女の背中を食い入る様に見つめた。
子供達が完全にいなくなると、少女はゆっくりと歩き始めた。そしてひねりっぱなしの蛇口を閉めた。バケツの水面に映った自分の姿を彼女はしばらく眺めていた。