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最終章 岬にて

 岬へと続く長い階段を少年は登っていた。スティックで足元を確認しながら一段ずつゆっくりと。周りは木で覆われている。その一本一本の枝には緑の葉が生い茂っている。石造りの階段の隙間からは雑草が生えており、緑色の斑点を作りだしていた。やがて雲の隙間から太陽が姿を現し始め、初夏の到来を告げる光が差し込み始めた。

 しばらくして、少年は頂上に到達した。ちょっとした広場があり、端には崖へ転落しないように簡単な手すりが設けられている。またベンチも並んでいて、それに座ると眼下に広がる海が見渡せるようになっていた。少年はゆっくりとそのベンチに近づこうとした。

 もう少しでベンチにスティックが当たりそうな所で少年は足を止めた。さっきまで肌に感じていた熱さが急にしなくなったことに驚いている様子である。少年は顔を上げた。白いワンピース姿の少女がそこにはあった。ベンチの上に立って少年を見下ろしている。

「……君はどうしてこんな所にいるの」

 少年はやっとの思いで声を出した。彼は目の前に来てようやく彼女の気配に気づいた様子だ。

「あなたこそ。ここは誰も来ないと思っていたのに」

「僕はたまに、波の音とか風の音を聞きにここに来るんだ。と言っても最近は忙しくてここがあることすら忘れていたけどね」

「私もだいたいあなたと同じ理由。……あと、一人になりたいときとか」

 少女は目線を少し上げ、広場全体を見渡した。くすんだ白色の砂が敷き詰められているが、ここにも緑色の斑点模様が所々できていた。

「僕もそう思ってここに来ることもあるよ。今日はどちらかと言うとそっちの理由で来たんだけどね」

 少女は少年の方へ視線を戻すとベンチから降りた。そして、少年と少女は向かい合った。お互いに言葉を待っているわけでなく、それぞれの存在をただ確かめ合っている。そんな時間が二人の間で流れ続けた。



「……そろそろ行くわ。あなた一人になりたいって言ってたしね」

 少女は背を向け、手すりに向かって歩き出した。

「待って」

 少年は必死に呼び止めた。少女の足は止まり、少年を振り返る。

「ごめんなさい。私はもう行かなくちゃならないの。それに私の姿を知ったらあなたはきっと失望するだろうし」

 少年は口を一瞬開けた。声を出そうとしたが、それができなかったみたいだ。彼の顔は困惑していた。何を言っているのかまったく理解できていない様子だった。少女は手すりに触れるとそれに寄りかかり、もう一度少年の方を振り返った。彼女は少年の目を見て一瞬視線をそらしたが、何か決心した様子で少年の目を再び見た。

「あなたにあって、私にないものってなんだと思う」

 少女はおもむろに口を開いた。息を止めて少年の顔をじっと見つめている。

「……なんだろう。全くわからない」

 少女は彼の黄色いスティックに目を向けた。少しだけ頬が緩んだ。

「すこし難しいかな。じゃあ宿題ね」

 少女はそう言い終わると手すりに上った。うまくバランスを取りながら両腕を広げ、少し膝を折った。雲は先ほどよりも少なくなっていて、強い光が差していた。風もいくらか吹き始め、彼女の髪を揺らしている。白いワンピースも風にあおられ、裾が少し膨らんだ。

 少女は足に力を込める。そして手すりを思い切り蹴って、空に向かって『跳んだ』。


 この話は、最後の章の岬の情景と少女が手すりの上に立っている姿が最初に思い浮かび、それを描きたいと思って考えました。また文章でしかできない推理もあればなと思い、それも少し意識しました(推理物になっているのか微妙ですが…) もっと章を増やし、もう少し長い話にしようと思ったのですが、実際はとても短い話になってしまいました(汗)

 最後に、ここまで読んで下さった方々、本当にありがとうございました。

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