下校途中にて
少年は住宅街にある、石造りの長い階段を降りている。両側には階段に沿って家が隙間なく建ち並んでいる。階段のステップは前後左右の幅が広く、また段差も低い。黄色いスティックで足元を探りながら、少年は建物の間を縫うように下ってゆく。
鮮やかな赤い屋根の家の前を過ぎる手前、その家の玄関が開いた。中からはメガネをかけた中年の女性が出てきた。手には、短冊状の竹を折り合わせて作られたかごを持っている。
「あら、こんにちは。今お帰りなの」
少年は立ち止まると、女性の方へ体を向けた。
「そうです。おばさんはどちらへ」
「夕食の準備よ」
女性はかごを少年の方へ突き出したが、少年の目を見て思い出したのか、すぐにその手を引っ込めた。
「そうだ。ちょっと待ってて。あなたに渡したいものがあるの」
女性はそう言うと、玄関を再び開け、家の中に入っていった。しばらくすると、女性は先程とはまた違うかごを持って出てきた。女性は少年に近付き、スティックを持っていない方の手に持ってきたかごを握らせた。
「このにおいはリンゴですね」
「そうよ。ご近所の人からの貰いものなんだけど、なにぶん量が多くて。お母さんとぜひ召し上がって」
「すごい重いですね。こんなにたくさん、どうもありがとうございます」
「いいえ。持って行ってくれるとこっちも助かるわ」
少年は頭を軽く下げた。女性もそれにつられて、軽く会釈をした。
「それじゃ、気をつけて帰ってね。あとお母さんによろしく」
「はい。ありがとうございます。さようなら」
少年はもう一度軽くお辞儀をすると、また階段を下って行った。




