広場にて
空には一つの雲もなく、群青色が広がっている。快晴という言葉が今日ほど当てはまる日はないだろう。広場では市場が開かれている。たくさんのテントが所せましと並んでいた。声を張り上げて宣伝をしている元気の良いおじさんもいれば、編み物をしながら客が来るのを待っている老婦人もいる。並んでいるものも食料品や日用品、アクセサリーというように様々なものが売られていた。多くの人が視線を絶えず動かしながらテントの合間を行き来している。
その中に一人の少女がいた。整った顔立ちをしており、背も高く、大人びてみえる。彼女は白色のワンピースを着ていた。しかしそれは至る所に染みがついており、穴が空いている箇所もいくつかある。
広場は人でごった返していたが、少女の周りだけは空間があった。周りの人々は少女をじろじろ見て、明らかに彼女を避けていた。少女は気にもせず、品物を見て回った。やがて食料品が売られているテントを見つけると立ち止まった。少女は何か考え事を始めた。店の主人は目の前にいる彼女を無視し、イスに座って新聞を読んでいる。しばらくすると少女は、ポケットから硬貨を取り出して主人に話しかけた。
「このリンゴを一つ」
少女は左手でリンゴを掴み、右手に握っていた硬貨を主人に突き出した。
「……うちにはあんたみたいな奴に売るものはない」
主人は新聞をたたんで地面に置き、彼女を睨んだ。少女も男の目を真っ直ぐに睨み返した。しばらくお互いそのままであったが、男の方が根負けして、片手を伸ばした。少女は握っていた手を広げ、硬貨を主人に渡した。男は顔をそむけ、まだ何か言いたい様子であったが、黙って新聞を広げ直した。少女はリンゴをしっかり左手に掴みながら、また広場を歩きだした。