【短編】愛しい人、貴方と結婚できません。
結婚式の直前。
白いドレスに身を包んで、いつも以上にたっぷり時間を掛けて肌を磨いて化粧やアクセサリーでめいいっぱい着飾って、最後に白いベールを被せてもらった。後は時間になったら、教会の控え室から大聖堂に向かうだけ。
(お父様。仕事は忙しいって言っていたけれど、流石に今日ぐらいは遅刻せずにくるはず……)
母を失ってから、父とは疎遠になり仕事ばかりで、屋敷に寄り付かなくなってしまった。婚約を結んだ時も、結婚式が決まった日も「わかった」と手紙が届いただけ。かれこれ数年会っていない。
「お嬢様、贈物と手紙が届きました」
「まあ、屋敷ではなく教会に? 誰からかしら?」
「……亡くなった奥様からのようです。お嬢様の20歳の誕生日に合わせて送るように、指示をしていたようで……」
「お母様が? 私に?」
手紙には『誕生日おめでとう』とお母様の字を見て泣きそうになる。幼い頃病で早くに亡くなったお母様。
幼過ぎた私には当時の記憶は曖昧で、よく覚えていない。
もう一つの箱には、赤い背表紙の日記が収まっていた。その日記を、後になって読めばよかったと後悔する。でも、もし後で読んでいたら、もっと後悔もしただろう。
***
『あなたは常時発動型の魅了持ちなの。目が合っただけで、話をしただけで、傍に居るだけで誰もがあなたを好きになる』
知らなければよかった。
自分のこの能力を知らなければ、気づかないままなら、どんなによかっただろう。一つ気づけば、次々におかしかったことに気がつく。
「──っ、じゃあ、あの時も?」
お母様の日記を床に落とした。
大好きだったお母様。両親はいつも仲が良くて幸せそうだった。そんなお母様が20歳になった時、瞳の中に綺羅星のような輝きがあることを思い出す。
それは女神の末裔に現れるものだと、お母様は知っていたらしい。そしてその瞳の能力は無自覚のうちに、相手を魅了するという厄介なものだという。
魅了の証として、瞳が変わるのが20歳だという。お母様がそれを知ったのは、私が4歳の時だと日記には書かれていた。
お母様が体調を崩して亡くなったのは、それから3年後。私が4歳の時だ。ずっとお父様に謝っていて、私を見ても「ごめんね」と抱きしめて、泣いてばかりだったと綴られていた。お母様が悲しい思いをするのが嫌で、「泣かないで」とずっと声を掛けていたとも書かれている。
でも私にはそんな記憶はない。
(でも……日記にはそう書いてある……)
魅了という呪い。魅了によって自分が好かれていた事実。愛されていたのは、自身の魅了によって相手の意志を歪めた。その事実に耐えられなかったと──お母様の日記には、そう綴られていた。
(私も……同じようになる?)
今ならお母様の気持ちがよく分かる。だって自分の愛した人が、自分を心から愛したわけではなく、そうなるように自分が望んで捻じ曲げたものだと知ったら、とても怖いと思う。同時に自分のしでかしたことの大きさに潰れそうになる。
「──っ」
心から愛してくれた可能性だってある。でもそれをどう証明すればいいのか。
(私の周りには優しい人たちが多かった。いつも……守ってくれて、助けてくれて、大事にしてくれた……)
周りに優しくされた記憶。
大切にされて、親切にしてくれた人たち。
困ったときに手を貸してくれる人もいた。
そのたびに感謝して、いい人たちだと思っていた。友人にも恵まれていたし、愛しい人との結婚もお互いに好いていると──。
「本当は誰も私を好いていなかった……?」
自分の都合で、心をねじ曲げてしまった事実。本当は別に好きな人がいて、それを無理矢理変えてしまったとしたら?
ちょうどお母様が結婚する時に、お父様の幼なじみの女性と一悶着あったらしい。最終的に幼なじみの女性が悪巧みをしていたことが明るみになって、彼女は遠方の親戚の領地に追いやられたと書かれていた。
もし幼なじみの女性とお父様が、本当は恋仲で結ばれるはずだったとしたら──?
運命を変えてしまったことへの後悔。
自責の念に、お母様は心が壊れてしまった。どのページを読んでも、日記には後悔と謝罪ばかり。それを読んで自分も同じ道を歩もうとしているのではないか、と不安でいっぱいになる。
どうして、このタイミングなの?
この手紙は本当に、お母様から?
運命的、あるいは作為的な誰かの仕業か。
私は今日、愛する人と結婚する。ずっと昔から好きだったランベルト様。
「でも、……私……結婚しても……いいの?」
覚悟が揺らいでしまった。私もお母様と同じ20歳だ。ランベルト様が魔物討伐のため遠征に出てしまったため、結婚が3年延びてしまった。今なら結婚だけは防げる。
「……っ」
今日の結婚式を楽しみにしていたのに、幸せな気持ちは一瞬で消えてしまった。
魅了。
無意識レベルで目が合った人たちは魅了持ちを優先する。それが魅了の能力で、意識して自分で使い分ける者もいれば、常時発動型で常に無意識レベルで周囲の人を味方にする能力。
私と母がそれだと、日記には書かれていた。
(お父様はお母様が亡くなってから、私を距離を置いて今は魔法庁で働いて屋敷に戻ることはほとんど無かった。じゃあ、私にはその力はない? 確かめる術は……魔法庁で調べてもらうしか無い? 鏡を見て瞳がお母様のようになっていなかったら、魅了は受け継がれていない? でもお母様は私がその力を継いでいると……)
両目を潰したら魅了は解けるのだろうか。
わからない。
落としてしまった日記を拾って、テーブルの上に置き直す。ふとテーブルにランベルト様の手紙が届いているのに気付いた。行き違い、あるいは別の要件かなにかだったか。封を切っていない便せんを見つめた。
大好きな人の筆跡だ。
「ランベルト様……っ」
ぽつりと呟いた声は、自分でも分かるぐらい震えていた。
灰色の髪に、エメラルドグリーンの瞳。眼鏡を常にかけていて、褐色の肌の素敵な殿方で、彼は侯爵家の次男。天馬騎士団副団長を務めて、伯爵家に婿入りする。
幼い頃からずっと一緒で、気づいたら隣に居るのが当たり前だった。四つ年上で、優しくて紳士的で、誰よりも私を大切にしてくれる。
私から好きになって幼い頃からずっと甘えて、強請ってばかりだった。剣の稽古の後、私のママゴトにも付き合って、本を読んでくれて……。
思い返せば私の我が儘をランベルト様は、いつだって聞いてくれていた。これは好意ではなく、そうしなければならなかった?
ずっと前から、出会って私が願った瞬間から?
目が合った時から?
「──っ、私の魅了のせいで好きを強要されていたら?」
恐ろしい事実。
あの人の人生を私は狂わせてしまったら?
心臓が張り裂けるように痛い。大好きな人になんてことを……。
別れる?
離れなければいけない。
好きな人の幸せを願うのなら、私は……誰もいない場所に……行くべきだ。
「──っ」
涙が溢れて止まらない。
いやだ。別れたくない。
じゃあ、正直に話す?
話して理解して貰える?
ここ三年はあまり会えなくて、やっと再会して、でも結婚の準備でお互いに時間がとれなくて……。私の話を信じて貰える?
私を今まで通り、愛してくれる?
「……自信ないわ。全てを話したらきっと……」
「クリスティーナ?」
「!?」
ハッと振り返るとそこには、正装姿のランベルト様の姿があった。騎士服とも貴族服とも違って、よく似合っている。私のウエディングドレスを見て嬉しそうな顔をしたけれど、すぐに不安げな眼差しを向けてきた。
「クリスティーナ、どうした? 体調でも? それとも急に結婚するのが怖くなったのかい?」
「あっ……これは」
ランベルト様の姿を見た瞬間、罪悪感で窒息しそうになった。
「クリスティーナ?」
「ランベルト様……ごめんなさい。ごめんなさい。貴方と出会って、今まで……私は気づかないうちに、この目で、魅了……貴方を、貴方の心を縛って……いたかもしれないの」
声が出てこなくて、でも伝えないとと言葉を絞り出す。いきなり魅了なんて言われても、困惑しただろう。けれどランベルト様は落ち着いた様子で、私を膝の上の乗せて、そっと抱きしめてくれた。
「クリスティーナ、落ち着いて。ほら、ゆっくり呼吸もする」
「はい……」
「良い子だ」
ちゅっ、と額にキスをして、次に頬にもする。ハンカチで涙を拭ってもらい完全に小さな子どもあやすかのよう。なんだか恥ずかしいわ。
「愛しているよ、クリスティーナ」
「ランベルト様……っ、でも、私っ」
「もしかして、私に愛想を尽かしてしまったのかい?」
「ちがっ、……っ、大好きです。愛しています。……でも」
「君が不安になった原因は、その手紙と日記だね」
「──っ!」
目敏く彼はテーブルの上に置いてあった手紙と日記に気づく。他にもお祝いの品は届いているが開けていたのは、あれだけだった。
「私の20歳の誕生日に、ってお母様が準備していたみたいなの」
「クリスティーナ、手紙と日記が入っていた小包を見ても良いかな?」
「え、ええ……」
手紙と小包?
日記では無いのかと小首をかしげたが了承した。すぐに確認すると「ああ」と彼は何かわかったようだった。
「クリスティーナ。まずこの手紙の消印と切手は数年前のもので、間違いなく君の母親が送った手紙だ。けれど、こちらの小包はつい最近発送されたものだ。この包装紙は、最近立ち上げた商会が使う物特有だからすぐにわかった」
「え?」
「その商会は、ある人物から大量に色んな物を送るよう依頼をしたという。送り先はそれこそ様々で、急ぎ回収をしていると聞いていたが、まさか漏れがあったとは……」
「ランベルト様?」
話が見えない。色んな物を?
どういうことのなのだろう?
「ちなみにクリスティーナは、どうして魅了が使えるなんて思ってしまったんだい? この日記を読んでそう思い込んでしまった? それとも私以外に誰かに愛を囁くようなことをしたのかい?」
「ひゅ」
どうしてかしら?
すごくすごく怒っている感じがするわ。
「その……だって……日記に書いてあって……。それに私の言葉をみんなよく聞いてくれるから……」
どんどん言葉が尻つぼみになっていく。不安になっていることに気付いたのか、ランベルト様は私の手を握ってくれた。ゴツゴツして固いけれど、温かい。
「ああ。ごめん。もし君が私以外の誰かに愛を囁いていたら──と想像して、腸が煮えくり返る思いをしただけ」
「そうぞう……。そんなことしてません」
「うん」
ブンブンと首を横に振って否定すると、ランベルト様は嬉しそうに微笑んだ。笑顔が眩しい。
「……話を戻すけれど、今回君を陥れた犯人は《永久の魔女》だよ」
「???」
「世界を絶望と混乱にさせるのが楽しくてしょうがないという最悪の性悪女だ。今回の魔物討伐の原因も、その魔女だったし、君のその日記も特別な術式が組まれている」
魔女の名前にギョッとしてしまう。それだけじゃない。ランベルト様の討伐に関係してくるとは思ってもみなかった。
「……まじょ? 魔物討伐の原因?」
「読んだ相手を絶望と不幸にするように上書きされている。真実と虚偽が混じり合って、疑心暗鬼にして家庭を、人間関係をめちゃくちゃにするつもりだったんだろう」
どうしてそんなことを?
恐ろしい計画を聞いて、身震いがした。
「え、じゃあ……」
「この日記に書かれていることの大半は本当だろう。けれど嘘も混じっている」
その言葉で気持ちが落ち込む。つまり私の目に魅了の力があるのは事実なのだろう。そしてお母様がおかしくなって亡くなったのも。
「この手のやり口は、君の母親が亡くなった時と同じものだ」
「え?」
「特に君の母は魔術書の効果が強すぎて、真実と虚偽がごっちゃになってしまった。確かに君の一族は人を惹きつけるものある。けれど魅了とは少し違う。正確に言うなら周囲を和ませるものだ」
「なごませ?」
ちゅっ、とまたランベルト様は私の頬にキスをする。それがくすぐったくて、私も頬にキスを返した。彼は嬉しそうに口元を緩ませる。
「ランベルト様」
「うん。顔色もよくなった。君は女神の末裔であり、《善き魔女》の一族でもある。周囲にいる人の心を穏やかにするもので、魅了のような強制力とは違う。そして《永久の魔女》は《善き魔女》の弟子だったそうだ」
「え!?」
《善き魔女》。
それは絵本に出てくる人々を幸福に導こうとした魔女のことだ。私はそんな彼女の血を引いている?
ランベルト様は、どうしてそこまで詳しく知っているの?
「……それと魅了は相手の意思関係なく、言うことを聞かせるものだ。実際に見たほうが早い」
「え?」
何がどうなっているのか分からないまま、ランベルト様はベルを鳴らして侍女を呼んだ。私に手紙を渡した侍女が部屋を訪れる。
「さて、知っていることを全て吐いてもらおうか?」
「そんな私は──あ、ああ、あああ……」
ランベルト様が眼鏡を外して侍女の目を見た瞬間、彼女の瞳の色が真っ赤に染まった。その形相に驚いて、私はランベルト様に抱きつく。
「ラ、ランベルト様!?」
「うん、可愛い。そのまましがみついていて」
どういうこと?
まるで相手を意のままに操る……魅了の能力?
どうしてランベルト様が? もしかして眼鏡をしているのは魅了を封じている?
次々と新事実が明らかになって、私の頭の中は情報量の多さに困惑しっぱなしだ。
「さて、《永久の魔女》。よくもまあ、古い手法を使って私の大切な人を貶めようとしてくれたな」
(古い手法……?)
「ああああ。お前の祖先が私を拒絶したからだ。だから何度でも何度でも……お前の幸福を奪うと決めた。その魅了も私が授けた……のに、どうして解除できない……!? 何をした!?」
(これが本物の魅了?)
「君と因縁のある方から助言と力を借りたのさ」
命懸けだったが、と呟く声が聞こえた。危険なことをしたということだけは理解し、ランベルト様にギュッと抱きつく。彼から感じる熱に生きているのだと実感して泣きそうになる。
「クリスティーナ、大丈夫だよ」
「ランベルト様」
「それじゃあ、《永久の魔女》。ある方の伝言をそのまま伝える。『あの時に殺さずに追放としたのは、生温かったようだ。お前はこのまま自害しろ、《永久の魔女》。そしてその魂は天上にも冥府には行かない。無となって消える。転生も転移も許さない』だそうだ」
ゾッとするほど低い声。それは人とは思えない人外の気配と空気を纏っている。一瞬だけランベルト様が別人のように思えた。
「──っ、その声は……! 忌々しい。今度こそ、私の物になると思ったのにぃいいい!」
今回? 以前にも対峙していた? ふたりにどんな因縁が?
ランベルト様の裁決は天上の、冥府の神々を彷彿とさせた。
魅了に抗うものの侍女、いや《永久の魔女》は、しわがれ声と老婆の姿に戻り、短剣で自害した。あっという間の出来事で、その老婆の体は灰となって消えていった。
「……っ!?」
もう何がなにやら分からない。緊張の糸が切れてそれから後のことはよく覚えていない。ただ意識を失う前に、ランベルト様のエメラルドグリーンの瞳がとても綺麗で、安心した気がする。
***
数日後。
結婚式は《永久の魔女》の妨害のせいで中断。ただ婚姻手続きは行いたいと、ランベルト様が強く望み、私も同じ思いだったので書類のみ先に提出して、ランベルト様の妻になった。
実家ではなくなぜかランベルト様の所有している屋敷に迎えられて使用人一同、私を奥様と慕ってくれている。
(婿入りだったのに、どうして?)
あまりにもめまぐるしい展開に、自分の気持ちが追いつかない。そんな私にランベルト様はお茶の時間を設けてくださった。
日当たりの良い温室は緑や珍しい花々が咲き誇っていて、すぐにこの場所が好きになった。
テーブルには一口サイズのスイーツと紅茶が用意されていた。
相変わらずランベルト様は私に優しくて、紳士的だ。ただ結婚したのだからと、私のことを膝の上に乗せたいと言い出した。スキンシップが今まで少なかったからなのか、ランベルト様は「ほら、おいで」と言ってくるので私に選択の余地はない。
絶賛、甘やかしがすごいことに!?
恥ずかしいだけで嫌じゃないのを分かっているんだわ。膝の上に座ると、後ろから抱きしめて、頬にキスをする。うう、逃げられない。
そういえば私と居る時は眼鏡をしていないような?
「本当にクリスティーナは可愛いね」
「ランベルト様」
「……ああ、数日前のことだね」
「はい」
ランベルト様は少し言いづらそうに話し出した。ランベルト様?
「実は我が一族は代々、《永久の魔女》に狙われていたんだ。魅了の魔法も《永久の魔女》がかけたようで、厄介な魅了を解く方法と引き換えに自分のものにしようと企んだ。父の代で《善き魔女》の一族、つまり君の母君の知恵を借りて回避したんだ」
「お母様が?」
「そうだよ。しかしその時に《永久の魔女》は、君の母君が《善き魔女》の末裔だと気付いてしまった。犯行動機は逆恨みで、ある術式を書き加えた日記──いや魔導書を送りつけた」
知らなかった。
そもそも我が家が特殊だなんて知らなかった。普通の爵位持ちの家だとずっと思っていたし、どこにでもいる淑女としての教養しか学んでこなかった。領地経営は執事に支えてもらって、対応するぐらいだ。だからこそ、婿入りしてもらう話が出ていた。
あれからお母様のことを思い出そうとすると、泣いてお父様に謝る姿が浮かんだ。しかし何か違和感を覚えた。三歳や四歳の記憶がここまで鮮明だっただろうか。
思い出そうとすると、頭が痛い。
目が眩み、ランベルト様に寄りかかる。
「クリスティーナ? 大丈夫かい?」
「はい。……えっと、日記ではなく魔導書というのは?」
「あの日記は、冥府の書庫から盗んだ魔導書を《永久の魔女》が複製して作った物だった。だからこそ特別な力を持つ者が読むと、現実と作り物の境界が曖昧になってしまうらしい」
「じゃあ、私の記憶もいずれ……」
そう思うと言葉にするのが怖くて、唇が震えた。しかしランベルト様が首を横に振って、大丈夫だよと微笑んだ。
「そうならないように、護符の指輪を冥府の神々から貰ってきた」
「めいふ?」
唐突に神話や古い物語に出てくる名前が出てきて思考が追いつかない。魔女の話だけでも非日常的な話なのに、ここで神話の時代の単語がぽんぽん出てくる。
駄目だわ、色々話についていけない。
「ううっ……話がどんどん壮大かつ大事になっています」
「それと、今回の魔物討伐は冥府の入り口と繋がっていた」
それって機密事項じゃ?
ランベルト様は、さらにとんでもないことを言い出した。
「冥府の神々との話し合いで、この指輪と知恵を借りて《永久の魔女》を屠るだけの力を一時的に借りて戻ってきたんだ」
「まあ」
話し合い。お茶を淹れて和気あいあいとした雰囲気だったのかしら?
冥界でほのぼのお茶というイメージがあまり湧かないが、もしかしたら神話の花が咲き誇って綺麗なガゼボがあったのかもしれない。
「そういったこともあって、話を詰めるのに三年もかかってしまった」
「そうだったのですね」
「……ああ。もっと上手くやるつもりが、こんなことになってすまない」
今回の結婚式を急がせたのは、《永久の魔女》をおびき寄せるためのものだったらしい。事情を手紙にしたが返事がなかったこと、直接会いに行っても結婚式当日までは会えない、体調を崩しているなどで門前払いだったことを教えてもらう。
「クリスティーナの侍女以外にも、いくつかの顔を持っていたようだ。ああ、日記にあった父君の幼馴染みの女性は、あの侍女──いや《永久の魔女》が乗っ取った器だった」
「え!?」
「それと君の父君も記憶がねじ曲げられていた。そして自分の領地に帰るのも妨害されていた」
「え」
「幸いにも父君は違和感を覚えたようで、騎士団長の私に調査依頼を出してくれた。代々敵対していた《永久の魔女》がこんなに近くに居たことに驚いたが」
情報が多すぎてうまく咀嚼して整理ができない。でもおおよその事情は理解した。
「《永久の魔女》の最終目標はクリスティーナ、君の体を乗っ取るつもりだったのだから間に合って本当によかったよ」
「私の……?」
私の体を乗っ取るのが最終目的? そういえばそんなことを言っていた気がする。
そうまでしてランベルト様と結ばれたかった? それとも乗っ取った体で復讐を?
「あの侍女も体を乗っ取られた一人だ。婿入りの話が出たのも、あの土地から君の体を乗っ取ったあと馴染ませるためだったとか」
そういえば婿入りの話も、「旦那様が〜」と侍女から聞いたのを思い出す。辻褄が合わないのは、侍女の言葉をお父様の発言と勘違いしたところから始まっていたのだろうか。実感すると背筋が凍りつく。
「……だから実家ではなく、ランベルト様の屋敷に避難しているのですか?」
「結婚の話も君の家は、親族が当主を引き継ぎ、クリスティーナがうちに嫁ぐ話で、まとまっている。だからこれからここが君の家になるかな」
(ええ!?)
「あわあわする君も可愛いなぁ」
「ランベルト様!」
「兄も家を継がなくても近衛騎士を続けられると喜んでいたしね。まったく」
侍女もまた被害者であったこと、《永久の魔女》は魂だけ存在することができ、器を乗り換えて生き続けた存在だった。それを冥府の神々は良しとせず、消滅と言う裁きを下したという。
そこまでが今回の騒動の顛末だった。
あまりにも壮大すぎて、理解が追いつかない。自分の出自だけでもいっぱいいっぱいなのに、両親のことや今回のことも自分の中で消化するには時間がかかりそうだ。
「ランベルト様の魅了は……解除されたのですか?」
「《永久の魔女》が消滅したことで、私の一族の呪いもだいぶ薄れたようだ。自分で意識して使い分けができるようになったかな」
コツンと額を合わして、私の顔を覗き込む。そのエメラルドグリーンの瞳はとても綺麗で思わず見入ってしまう。
これが魅了の持つ眼差し……? でも瞳は赤くないわ。
見つめられると恥ずかしい。
「クリスティーナ。私のものになって」
「? もうランベルト様の妻ですよ?」
「うん。じゃあ、私のことは“様”をなしにするか、“アナタ”呼び」
「そ、それは……」
「それからクリスティーナからのキスがほしい」
ぼぼぼっ、と顔が熱くて心臓はバクバクとうるさい。
「ちょっとずつ慣れてくれると嬉しいな」
「善処……します。……アナタ」
ランベルト様が心から嬉しそうに、私を抱きしめた。
「やっぱり君にはかからないな」
(今なんて?)
「クリスティーナは、私のことを愛してくれているだろうか?」
「もちろんです。愛しておりますわ」
ランベルト様は私の左薬指に、結婚指輪とは別の銀の指輪を付けてくださった。キラリと指輪が煌めく。
「さっき言ったお守りだよ」
「ありがとうございます」
それから数カ月後。私たちは盛大な結婚式を挙げた。お父様は大泣きしながらも祝福してくれた。虚偽の記憶は数日かけて、私の中から辛いだけの幻は溶けて消えて残っていない。
様々な運命の巡り合わせの終着点。数カ月前の不安だった結婚式とは違って、周りに祝福された。
それは魅了の力でも、私の持つ空気を和ませる力だけじゃないのだと気付く。今まで関わってきた人と共に積み上げてきた成果なのだと、気付かせてくれた。
晴れやかな気持ちで、私はランベルト様との愛を誓い合う。
\コミカライズ連載中/
『やり直し悪役女王は溺愛に惑う
〜婚約破棄したいのに、王子の愛が止まりません〜』
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21話まで配信中
#ggirls #めちゃコミ
『サレ令嬢とサレ王子の華麗なる復讐劇』
#スドウショウ #あさぎかな
「Colorful! vol.124」コミカライズ連載を開始しました⸜(●˙꒳˙●)⸝
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最近の短編も是非
【短編】そんなに幼馴染が大事なら、私も好きにしますわ
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