我々は魔王器官”LOVE”
魔王。魔族の王。
今や全世界に名が知られている魔王という存在ですが、多くの人が誤解していることがいくつかあります。
一つ目。まず、魔王とは必ずしも悪の存在ではありません。魔族の王であって、悪魔の王ではないのです。いや、確かに悪に染まった魔王も存在します。しかし、すべての魔王が世界征服だとか、人類抹殺を目論んでいるわけではないということは、ここでしっかりと述べさせていただきます。もちろん、あなたはわかっていることでしょうけど、ね。
二つ目。魔王は、一人ではありません。これには二つの意味があります。ダブルミーニングというやつです。ほら、只人の王だって、妖精の王だって、一人ではないでしょう?国があれば、王がいます。この世界は無数の国で構成されており、したがって無数の王がいるのです。これは魔族社会も例外ではありません。現在魔族が主な国民となっている国は三つありますが、そのどれもに王が存在します。つまり、今この瞬間、魔王は三人いるのです。
過去を遡れば、様々な魔王がいたことがわかります。
例えば、『反抗』の魔王。粘体と魔族の間に生まれた魔人族であり、その特性から長年虐げられてきた歴史を持つ一族でした。彼は怒りのエネルギーを原動力に、あらゆるものに『反抗』しました。倒し、喰らい、反逆し、そして頂点に上り詰めました。その血に塗れた王冠とは対照的に、治世は長く安定したものでした。弱きものであった彼は、弱きもののことをよく理解していたのです。国民からの支持は厚く、国もおおいに繫栄しました。その最後は、次世代の反逆者による『反抗』でした。
例えば、『分割』の魔王。権力を分割し、互いの抑制によって均衡を保つことを目指した魔王でした。彼を象徴する制度として、四天王制度があります。皆さんご存じのこの制度。四天王制度を生み出した彼は、己の能力さえも分割し四天王に分け与えました。また、臣下の能力に適した仕事を与えることで国の生産力を向上させることにも成功しました。その最後は暗殺でした。四天王による謀殺という説や、その繁栄を妬んだ隣国による暗殺だとする説などがありますが、真相は未だ解き明かされていません。
さて。長々とお話ししましたが、私が言いたいことは、いったいなんなのか。ダブルミーニングとは何だったのか。ええ、すぐにお伝えしますとも。
何を隠そう、私も——私たちも、魔王なのです。
魔王は一人ではありません。我ら『群体』の魔王は、百にも及ぶ魔族の集合体なのです。
魔王には目があります。すなわち、目の機能を司る魔族がおります。
魔王には鼻があります。すなわち、鼻の機能を司る魔族がおります。
魔王には口があります。すなわち、口の機能を司る魔族がおります。
我々は魔王器官であり、命ある集合体の王を構成する一部であるのです。
私は何の器官を司っているのかって?ふふ、いつかわかりますよ。ですので、そうお急ぎなさらず……。
我々は魔王から生まれました。そして、魔王として死にゆくのです。そして、新たな魔王の器官が生み出されるのです。
……。
…………。
……………………。
ふふ。
あなたは、いつもそうですね。せっかちで、結論を先に欲しがる。いえ、謝る必要はありません。あなたのそんなところも……。
では、先に言ってしまいましょうか。
こほん。
あなたには、我々を殺していただきたいのです。
魔王の絶対条件は、魔族の王として生き、そしていつか死ぬことです。この世界には多様な種族が存在しますが、しかし、その中でも魔族は特に世代交代を重視する種族です。誰かの礎の上に立つことで、我々は種族として成長する。そう信じてやまない種族です。
その種族特性ゆえに。世代交代に着目した……いえ、着目してしまった我々は、つい、うっかり、死を乗り越えてしまいそうになっているのです。それは、いけないことです。
かの超越者様方でさえ、乗り越えたのは老いのみです。『死』の概念を司る超越者様がいらっしゃいますよね。故に、我々は死なねばならぬのです。死んで、冥界へ行く義務があるのです。
ええ、もちろん、いつか私は死にます。器官それぞれには、死があります。病気、事故、老衰……。何が死因になるかはわかりませんが、これは、避けられぬ運命です。
しかし、『群体』の魔王としての我々には、死があるかと言われると。ええ。困りますね。とても困ります。
心臓を司る魔族が死ねば。脳を司る魔族が死ねば。『群体』の魔王は死ぬのか。
答えは、ふふ。もうお分かりですね?
心臓が死ねば、即座に新たな心臓が生まれます。脳が死ねば、即座に新たな脳が生まれます。これが、我々『群体』の特性なのです。高速かつ円滑なる世代交代。それが、我々が魔王に上り詰めた要因なのです。
この特性によって、『群体』の魔王は疑似的な不死を手に入れてしまいました。
『群体』の魔王が死ぬ方法は、ただひとつ。
全ての器官が、同時に死ぬことです。新たな器官が生まれる前に、すべての器官を眠りにつかせる。これによってのみ、我々は。『群体』の魔王は消滅し得る。これが私の結論です。
あなたには、そのためのお手伝いをしてほしいのです。
ちょうど明日。全ての器官が集まるタイミングがあります。
ええ、そうです。あなたもよくわかっているでしょう。その瞬間です。
きっと、明日は素晴らしい日になる。それなのに、こんなお願いをするのは、とても心苦しい。ですが、これはやらなければいけないことなのです。
ああ、そんな顔をしないで。覚悟が揺らいでしまいます。
明日の会場に器官の皆さんをご招待しました。そこで、振舞われる料理の中に毒を仕込みます。即効性がある毒です。
ですが、あなたもご存じの通り。私には毒が効きません。
私は肝臓の機能を司っています。『群体』の皆様が受けた毒を、濾過してしまうのです。
私が生きている限り、毒殺は不可能です。ですが、自害は禁忌です。いえ、禁忌ではありますが、出来ないということはありません。その禁忌すら上回る不死という禁忌を打ち破るため、その手段を取ることも考えましたが、それよりもいい方法があると思い至った次第です。
そう、あなたに、私を殺してほしいのです。
他でもない、最愛のあなたに。
明日の、あなたとの結婚式を台無しにしてしまうお願いだと理解しています。これ以上ないほど酷く、大変で、辛いお願いだということも。
ごめんなさい。今から、謝っておきます。ごめんなさい。
ですが、これ以外に方法が無いのです。器官全員が揃う機会は、これを逃せば、私の生きているうちにはもう来ないでしょう。あなたの人望が為せた奇跡です。
……そう考えると、私はあなたに支えられてばかりでしたね。
学園へ入学するとき。道に迷っていた私を、あなたはまるで王子様のように導いてくれました。
卒業したとき。進路は別れ、遠く離れた場所で過ごすことになりましたが、あなたはいつも、私が恋しいと考えたときに、不思議とそばにいてくれましたね。
病気になったとき。……ああ、つい、話過ぎてしまいました。明日話そうと思っていた内容でしたのに。
本題に話を戻しましょうか。
一番いいタイミング、すなわち、誓いを真祖様に捧げ、乾杯の音頭をとる瞬間。液体を飲み、それが胃へ流れ、吸収されて、私の元へ届き濾過が始まる瞬間に。
このナイフで、私を刺してくださいませ。
私の代わりに、新たなる肝臓が生み出される前に。濾過されなかった毒が、あらゆる器官を、細胞を破壊するでしょう。それで、私の悲願は果たされます。
…………。
ナイフは、ここに置いておきます。私の想いをわかってくださるのなら、どうか。
私を殺してください。
ですが、もし。もし、そうでないのなら……。
……え?毒が欲しい?それは……ええ。わかりました。ご用意いたします。他ならない、あなたの頼みなのですから。
ええ。では、また明日。結婚式、楽しみですね。
おやすみなさい。心から、愛しております。私の旦那様。




