第6話「準備」
「アーク村へ一緒に来いだって? なんでだよ!」
ガイルの声が、城下町の一角に響いた。
「お前たちには、村の入り口の警備を頼みたい」
カイは落ち着いた口調で続ける。
「俺たちが、四か月間農耕に専念できるようにな」
「よ、四か月も!? マジかよ!?」
ブロムが目を見開き、リリィも呆れたように肩をすくめる。
「超長くない?」
「冒険者ギルドで雇い主を待ち続けるより、確実に稼げると思うが?」
その言葉に、四人の視線が交錯した。
「……ちょっと、四人で相談させてください」
セラの一言を合図に、彼らは少し離れて小声で話し始めた。
その間に、レオが不安そうにカイへ声をかける。
「あの……俺と母さんは、どうしてアーク村に?」
「ここは都市部だ。家賃も高い」
カイは周囲の建物を一瞥しながら続けた。
「それに、君の母さんは病気が治ったばかりで、まだ職もない。
アーク村で農耕に励めば、少なくとも衣食住に困ることはない。
君が、また盗みをする必要もなくなる」
レオは一瞬、言葉に詰まり――そして、深くうなずいた。
「……確かに。わかりました。俺たちも、アーク村に行きます」
やがて四人の相談が終わり、ガイルが腕を組んだまま前に出てきた。
「結論が出た。いいだろう、アーク村に行ってやる」
だが、その目は鋭い。
「ただし条件がある。
一人あたりの日当は一万ギャラだ。
四人分で、毎日四万ギャラ。払えるか?」
「……毎日、四万ギャラだと!?」
カイは思わず声を上げた。
(四か月換算で、約五百万ギャラ……。
服を買った残りの軍資金は九十七万。
破綻は確実だ。だが、四か月間の絶対的な安全と、
未来の食料生産には、この初期投資が必要だ。
ここで渋れば、信用を失う)
一瞬の逡巡の後、カイは覚悟を決めた。
「わかった。その条件で来てくれ」
「ほう?」
「食事と宿泊施設はこちらで用意する。
怪我をした場合の治療費、
万が一死亡した場合の補償費も支払おう」
その言葉に、ガイルたちはわずかに目を見張った。
「……悪くねぇな」
契約がまとまると、カイは続けて言った。
「出発前に、少し買い物をする。ここで待っていてくれ」
そしてノアとトマスを呼び寄せる。
「今から種を蒔けて、三か月以内に大量収穫できる作物はないか?」
二人は顎に指を当て、しばし考え込む。
「トウモロコシ……とか?」
「じゃがいも、ですかね」
その瞬間、カイの目が光った。
「それだ!」
「じゃがいもなら保存が利くし、土地を選ばない。
しかも、一度に増やすことができる」
(それに――じゃがいもならば、"アレ"が使える)
「トマス、すまない。この金で馬と馬車、
それからじゃがいもの種を大量に買ってきてくれ」
「わかりました!」
それから二時間後。
トマスは、じゃがいもの種が山のように積まれた馬車とともに戻ってきた。
「言われた通り、全部揃えました。
軍資金は……八十万ギャラまで減ってしまいましたが」
「構わない。ありがとう」
カイはうなずき、仲間たちを見回した。
「それじゃあ、アーク村へ向かおう」
城下町を後にし、馬車はゆっくりと村へ向かって走り出す。
(これで金策という課題は残っているが、
農耕の準備は整った。)
カイは、遠くに見える道の先を見据えた。
(四か月以内に二十トン……いや、
三十、五十トンのじゃがいもを生産してやる。
必ずな!)




