第5話「雇用」
カイ、ノア、トマスの三人はレグノア王国の城下町を歩いていた。
「さて、懸賞金も手に入ったことですし、アーク村に帰りましょうか」
ノアが口を開く。
「100万ギャラなんて大金見たら、村のみんなびっくりするでしょうね。
そういえばカイさん、このお金、何に使う予定ですか?」
トマスが興味深そうに訊ねた。
カイは少し考えてから答える。
「農地開拓の軍資金に当てようと思っている。
だが、せっかくの大金だ。君たちへのお礼もしたい」
「お礼ですか?」
ノアが少し驚いた表情で尋ねる。
「ああ、倒れている俺に飯をくれただろう?」
カイがにこりと笑う。
「俺は何かしましたっけ?」
トマスは首をかしげた。
「山賊の危機を教えてくれただろう?」
カイはノアの方を向くと、続けた。
「せっかくの城下町だ。欲しい服とかないのか?」
「え、それはありますけど……いいんですか?」
ノアは遠慮がちに答えた。
「ああ、一着くらいならな」
「じゃあ買いに行きましょう!みんなの分もね!」
ノアは笑顔で言った。
「みんなの分?俺は別に……」 カイが戸惑うと、
「カイさんもトマスさんも、山賊に斬られた服のままでしょう?
だから、みんなで新しい服を買いに行きましょう!」
ノアは強引に手を引くように歩き始めた。
カイは黙って頷いた。三人の後ろには、小さな影がひっそりと追っていた。
服屋に到着すると、店員が丁寧に案内する。
「試着室はこちらです。試着してお気に召した服を教えてくださいね」
三人は言われるまま試着室に入り、服を選び始める。カイは内心で思った。
「前世の服は目立ちすぎた……こんなもんでいいだろう」
だが、カイが試着を終えて出ようとした瞬間、
試着室の外に置いてあった懸賞金の袋を少年が素早く掴んだ。
「もらい!」
レオの声が響く。
「待て!!」
カイは慌てて外に飛び出し、レオを追いかける。
「ド、ドロボー!」
店員の叫びが後ろから聞こえた。
「すみません!お金を取り戻して戻ります!
あとの二人は残るのでお願いします!」
カイは告げると、そのまま路地裏に飛び込んだ。
路地の向こうにレオが見える。カイは息を切らしながら距離を詰めていった。
「この距離なら……!殺傷能力のない、あの制圧機器が使える!」
カイは手を前に出した。
「召喚!ネットガン!」
カイが叫ぶと、右手にネットガンが召喚された。
そして、手にしたネットガンをレオに向けて発射した。
バサッ、と網がレオを覆い、レオはその場に倒れ込む。
「な、なんだこれ!」
網の中でもがくレオに、カイは近づき、低い声で言った。
「さて、盗んだ金を返してもらおうか」
レオは涙目になり、震える声で答えた。
「く、くそ……あと少しで薬が買えると思ったのに……母さん、ごめんなさい!」
「母さん!?」 カイは目を見開いた。
レオの家に着くと、ベッドに伏せる母親のそばで、
レオが頭のタオルを替えていた。
「俺の名前はレオ。母さんの名前はエレナです。
母さんは三年前から流行り病で寝たきりなんです」
レオはそう説明した。
「そんな……」
ノアが息を呑む。
「君のお父さんは?」
トマスが訊くと、
「五年前に亡くなりました」
レオの声には、淡い悲しみが混ざっていた。
その瞬間、カイの前世の記憶がフラッシュバックする。
遠くで同級生たちが噂話をしていた。
「あいつの父親、ものすごい借金抱えて死んだらしいよ」
「だからいつも同じ服なんだ」
「家ビンボーなのかよ。かわいそー」
現実に戻る。
「だから母さんの薬を買おうと思って、
お兄ちゃんたちのお金を盗んだんです。ごめんなさい」
レオの言葉に、カイは怒りと悲しみを交互に感じた。
「この国では、病気で苦しむ家庭を王国は保護してくれないのか?
税金を取っているのに、誰も助けないのか?」
カイは息を荒げ、拳を握りしめた。
「王国は……そこまでしてくれません」
ノアは小さく首を振り、視線を落とした。
「税金では……地位の高い人や、
税収の多い拠点しか、守ってくれないんです」
「だから、病気になった国民は、高級な薬を買うか、
高い治療費を払って治療魔法を使える人に頼むしかない。
それができなければ……そのまま亡くなるだけです」
トマスは静かに答えた。
「狂っているな……」
カイは拳を握った。
(この子が悪いわけじゃない。
そうせざるを得なくしている環境が悪いんだ。
やはり俺がこの国を変えなければ……!)
「でも症状を見る限り、そこまで重症でもなさそうです。
冒険者ギルドにいる魔導士に頼めば、治してくれるかもしれません」
トマスが付け加えた。
「冒険者ギルド?」 カイが眉をひそめる。
「雇い主を探している冒険者が集まる場所です。
賃金を払えば冒険者を雇えるんです」
ノアが説明する。
「わかった。俺が魔導士を雇ってくる。
それまでみんなはここで待っていてくれ」
カイは決意を込めて言った。
城下町の冒険者ギルド。
中には戦士系、魔法系など様々な冒険者が集まっていた。
カイは目を光らせ、白い三角帽と魔法衣に身を包んだ女性・セラに声をかけた。
「流行り病を治せるか?」
「え?ええ、治せます。
ただ、治療費は時給とは別でですよ?三万ギャラです」
セラは落ち着いた声で答える。
「ああ、構わない。一緒に来てくれ。それと……」
カイは戦士系のガイル、ブロム、魔法系のリリィも雇用し、
四人を連れてギルドを後にした。
レオの家に戻ると、カイは仲間を紹介した。
「連れて来たぞ。この人だ、治してくれ」
セラは頷き、治療魔法をかける。
エレナの体から病が消え、目の前で元気を取り戻した。
「!体が軽い……病気が……治った!」
エレナが喜びの声を上げる。
「母さん……!」
レオは泣きながら駆け寄った。
カイはセラに三万ギャラを手渡す。
「ご苦労」
だが、戦士たちは不満そうだ。
「おい、俺たちは母親を治すためだけに呼ばれたのか?
セラ以外来た意味ねーじゃねーか。
まあいい。用は済んだろ、帰るぜ」
カイは手を上げて制した。
「待て。何を言ってる?ここからが仕事だ。
お前たち四人、そしてそこの親子二人、全員アーク村に来るんだ。
何かとマンパワーが必要だからな」
全員が驚きの声を上げた。
「へ?」




