第4話「取引」
王宮の兵士に案内され、カイ、ノア、トマスの三人は一室へと通された。
簡素だが広い待ち合い室だ。 重厚な調度品が並び、
ここが王宮であることを否応なく実感させられる。
「懸賞金を支払う前に、異端審問官シオン様からお話があるそうです」
兵士はそう告げると一礼し、部屋を後にした。
扉が閉まる音が響く。
「……話、ね」
ソファに腰を下ろしながら、カイは鼻で笑った。
「まさか金を払うのが惜しくなった、なんて言い出すんじゃないだろうな」
「そ、そんな……」
ノアは慌てて首を振る。
「シオン様に限って、そんなことは……」
「あり得ないっスよ」
トマスも同調する。
その反応を見て、カイは少しだけ眉をひそめた。
「……二人は、その“シオン”って人物を知ってるのか?」
「ええ。この国じゃ有名人ですから」
トマスは少し誇らしげに語り出す。
「異端審問官シオン。元は賞金稼ぎだったんですが、
A級賞金首を何人も捕まえた功績で、異例の出世をした人物です。
魔法技術は王国一とも言われていて……嫌いなものは――」
「――法を破る者と、秩序を乱す者」
低く、澄んだ声が背後から響いた。
三人の体が同時に強張る。
「な、何!?」
振り返ると、そこにはいつの間にか一人の男が立っていた。
黒衣に身を包み、穏やかな笑みを浮かべている。
「やあ」
シオンは片手を軽く上げ、気軽に挨拶してみせた。
カイは即座に部屋の入口を見る。 扉は、ずっと閉じられたままだ。
(……瞬間移動か? いや、魔法の気配は微塵もなかった。
この男、何者だ?)
背筋に、冷たいものが走る。
「盗み聞きとは……いい趣味してるじゃないか」
カイが睨むように言う。
「やだ、恥ずかしい」
ノアは苦笑しながらも頭を下げた。
「いつから、いらしてたんです?」
「君たちが私の話をし出した辺りからだよ」
シオンは悪びれずに答える。
「少し、興味があってね」
「興味……?」
トマスが首を傾げる。
「ガルドは、私の魔法すら防ぐ鎧を着ていた」
シオンは静かに語った。
「それを、一般人である君たちが捕まえた」
その視線が、まっすぐカイに向けられる。
「一体、どうやって捕まえたんだい?」
カイは腕を組み、しばし沈黙した後、はっきりと言い放った。
「答える義理はないな。アーク村を守りもせず、見捨てるような連中には」
「ちょ、ちょっとカイさん!」
ノアが慌てて止めに入る。
だが、シオンは怒るどころか、薄く笑った。
「見捨てる、か。それは少し違うね」
彼は淡々と続ける。
「王国に納付される作物が少ない。
だから、守る価値が低い拠点だと判断されているだけだよ。
こちらもリソースが限られているのでね」
(リソース……?)
カイは内心、わずかに驚いた。
この男は、自分と同じ**「考え方」**をしている。
「なら聞く」
カイは一歩踏み出した。
「納付作物が多く、王国にとって守る価値があると判断されれば、
アーク村は守られるのか?」
シオンは顎に拳を当て、考える素振りを見せる。
「そうだね。港町ポートリアのような重要拠点は、王国兵が常駐している」
そして、はっきりと言った。
「基準は、四ヶ月で20トンの農作物だ」
ノアとトマスが息を呑む。
「む、無理です! 今の農地規模と人口で、
四ヶ月で20倍なんて、どうやっても無理です!」
だが。
カイは右手を上げ、指を四本立てた。
「四ヶ月後に、20トン納める」
一瞬、空気が止まった。
「それができたら、アーク村を守れ」
ノアとトマスは、言葉を失った。 一瞬、呼吸の音すら聞こえなくなる。
「……ははは!」
シオンは思わず声を上げて笑った。
「君は自分が何を言っているかわかっているのかい?
君達のアーク村の納付量は、せいぜい1トン程度だろう?
四ヶ月で、その20倍だ」
だが、カイの目は揺れていなかった。
(……本気、か)
シオンは内心でそう呟く。
「いいだろう」
笑みを消し、彼は言った。
「もし達成できたら、君たちの村を正式に王国の保護下に置こう」
「ただし――」
その目が鋭くなる。
「できなかった場合、私の質問には何でも答えてもらう。それでいいかい?」
「いいだろう」
カイは即答した。
その時、扉が開き、兵士が懸賞金の袋を抱えて入ってくる。
「シオン様、懸賞金の準備が整いました」
「ご苦労。彼らに渡してくれ」
袋を受け取ったカイたちは、そのまま廊下へと案内された。
「では、四ヶ月後にまたここで会おう」
背後から、シオンの声が響く。
「20トンも忘れずにね」
「ああ。言われなくてもな」
三人は廊下を歩き去っていった。
その背を見送りながら、兵士がシオンに報告する。
「鎧を調べたところ、このような物体が見つかりました。
この国では見られない、金属に強く吸着する物体です」
「……そうか」
シオンは静かに頷いた。
「なぜ、あの三人に会われたのですか?」
兵士の問いに、シオンは遠くを見る。
「先日会った預言者の言葉が、少し気になってね」
「預言、ですか?」
「――『異世界より転生せし者、この世に革命をもたらす覇王とならん』」
シオンは、かすかに笑った。
「……まさか、ね」




