第3話「対決」
山賊を追い払った翌日。
朝の冷たい空気の中、アーク村の外れに二つの影が現れた。
先頭を歩くのは、黒鉄の鎧をまとった大男――ガルド。
その後ろには、腰の引けた手下が一人ついてくる。
「おい。まずはお前が偵察してこい」
ガルドが顎で村を指すと、手下は慌てて駆け出した。
「へいっ!」
だが、村の入口に足を踏み入れた瞬間――。
ビンッ!
前日にカイが仕掛けたワイヤートラップが唸りを上げ、
飛び出した鋼線が手下の身体に絡みついた。
「が、があっ!?な、なんだこれ!動けねぇ!」
もがく手下を見て、ガルドは口の端を吊り上げる。
「へぇ……やるじゃねぇか、用心棒さんよ。
まさか入口に罠を張ってるとはな」
ガルドは剣を抜き、絡みついたワイヤーをまとめて斬り払った。
「他にも罠があるかもしれねぇ。お前はここで待ってろ。
ここから先は俺だけで行く」
「わ、わかりやした!」
ガルドは一人、堂々と村の中へ踏み込んでいった。
その姿を、高台から監視していたトマスが見つける。
「……あれは……!」
トマスの脳裏に、以前見た指名手配書がよぎった。
――山賊リーダー・ガルド。 ――罪状:魔法の鎧盗難。 ――賞金:100万ギャラ。
顔が一瞬で青ざめる。
「た、大変だ!カイさんに知らせないと!」
トマスは転げるように村を駆け下りた。
* * *
ノアの家。
カイはベッドの上でゆっくりと目を開けた。
(……一日経ったか。ステータス画面を出せ)
視界に半透明のウィンドウが浮かび上がる。
召喚レベル:2 ・一日の召喚可能回数:4/4 ・召喚可能重量:2.0kg以下
(今日も計画的に使わないと……。敵がいつ来るかわからない)
そこへ、階下から慌ただしい足音が響いた。
「た、大変だあ!」
トマスが扉を開け放ち、息を切らして飛び込んでくる。
カイと、寝ぼけ眼のノアとバドが二階から降りてきた。
「むにゃ……なんじゃ……?」
「さ、山賊のリーダーが!ガルドが攻めてきた!」
一瞬で空気が張り詰める。
「な、なんじゃと!」
カイは眉をひそめた。 「昨日のワイヤートラップはどうなった?」
「手下を囮にして突破されました!」
(……くそ。予想はしていたが、まさか翌日とは……早すぎる)
トマスは震える声で続けた。
「ガルドは、王国から盗んだ鎧と剣を身につけて村の入口にいます。
カイさん、また魔法で退治してもらえませんか?」
「わかった。すぐ向かう」
カイは深く息を吸い、頭の中で戦略を組み立てる。
(敵は鎧と剣。俺の手札は4回。複数召喚はできない。
なら……別の手を使うしかない)
「ノアさん。この家に斧はありますか?」
「え?ありますけど……」
ノアが斧を持ってくると、カイは頷いた。
「召喚!」 カイの手元に、銀色の四角い金属塊が現れる。
2kg近くあるその召喚された物体を、カイは斧で細かく砕き始めた。
「そ、その割った塊が何かの役に立つんですか?」
「ああ。……俺の予想が正しければ、な」
カイは砕いた金属片を袋に詰め、静かに立ち上がった。
* * *
村のメイン通り。
ガルドは大声を張り上げながら、堂々と歩いていた。
「この村の用心棒とか言うガキ!
出てこい! 出てこねぇなら家を一件ずつ訪問してやる!」
その前に、カイが姿を現す。
「探しているのは俺だろ。相手になってやるよ」
ガルドはにやりと笑った。
「お前が噂の用心棒か。 昨日は俺の手下が世話になったようだなぁ。
百倍にして返してやるぜ!」
ガルドが剣を構え、突進してくる。
「召喚!火のついた二百グラムのダイナマイト!」
ドォンッ!
爆発が起こり、強烈な砂埃が舞い上がる。
(……やったか?)
だが次の瞬間、砂煙を切り裂いてガルドが飛び出してきた。
「!」
ザクッ!
ガルドの剣がカイの胸元を斬り裂き、カイは後方へ吹っ飛ぶ。
「ぐっ……!」
膝をつき、胸を押さえるカイ。
「ば、馬鹿な……ダイナマイトでも無傷だと……?」
ガルドは得意げに笑う。
「この鎧は王国の宝庫から盗んだ特別製だ。
どんな魔法も通じねぇ。爆発魔法もな!」
(……やっぱりか。魔法無効の鎧……)
ガルドがゆっくりと近づいてくる。
「さて。トドメを――」
その瞬間、ガルドは違和感に気づいた。
カイの血は一滴も流れていない。
(……妙だ。あれだけ斬ったのに血が出てねぇ……?)
それはカイが服の下に着こんだ防刃ベストのおかげだった。
(なんとか防げたな……
刃は防げたが、衝撃のダメージまでは防げない。
これ以上攻撃をもらうのは危険だ)
カイは砂を掴み、ガルドの顔へ投げつけた。
「ぐっ!?目潰しか、てめぇ!」
視界を失ったガルドの背後へ回り込む。
「召喚!超強力スタンガン!」
(爆発が効かないなら……金属を通して中身に電撃を流す!)
バチバチッ!
スタンガンの電撃が鎧に走る――が。
「……効かねぇよ」
「な、何っ!?」
ガルドは視界が戻ると同時に、振り向きざまに肘鉄を叩き込もうとした。
「そこだぁ!」
だがその瞬間、カイは懐から何かを掴み、
ガルドの鎧の関節部分――肩と肘の隙間に素早く押し込んだ。
カチッ
次の瞬間――
「ぐはっ!」
肘鉄がカイの腹に炸裂し、カイは吹っ飛ぶ。
(……ダメージは食らったが、これで……)
カイは地面に倒れながら、口元を歪めた。
(仕込んだ)
ガルドがカイに近づきながら言う。
「爆破も電撃も同じだ。俺には魔法が効かねぇんだよ」
ガルドが剣を振り上げる。
「どうやら万策尽きたようだな。死ねぇ!」
――カチン。
「……あ?」
ガルドの右腕が、振りかぶったまま固まった。
「な、なんだこれは!右手が動かねぇ!」
カイはゆっくりと立ち上がる。
「魔法の鎧だろうが、材質は金属だ。
さっき肘鉄を食らう前に、お前の鎧のすべての関節に――
超強力な磁石、ネオジム磁石を仕込んでおいた」
「なにぃ!?異物を仕込んだだと!?そんなもん取れば――」
ガルドが左手を動かした瞬間、左腕も固まった。
「なっ……左手も動かねぇ!?」
カイは背後に回り、軽く膝カックンを入れる。
ガクッ。
両足も曲がったまま固まった。
「く、くそっ!両足まで……!」
カイはガルドの肩に手を置き、静かに言った。
「お前、高額の賞金首なんだってな。 王宮に届けてやるよ。
いい値段で売れるといいな……」
* * *
後日。
レグノア王国の王宮。異端審問官シオンのもとへ兵士が駆け込む。
「報告します!ガルドを捕獲して連れてきた者が現れました!」
「……何?あいつは魔法が効かない鎧を着ていたはずだが」
「はい。しかし、どうやら魔法以外の力で倒したようで……」
シオンの口元がわずかに吊り上がる。
「ほう……それは興味深いね。
その者から、詳しく話を聞かせてもらおうか」




