第2話「仕様」
二人の山賊があっけなく倒れ伏した光景を目の当たりにし、残っていた連中は完全に戦意を失った。
「ふ、二人もやられた!ひ、ひいいい!!」
悲鳴を上げながら、山賊たちは村人から奪った食料や金品を地面に投げ捨て、
我先にと村の外へ逃げ去っていく。
その背中を見送りながら、カイは小さく鼻で笑った。
「……俺の能力にビビって、逃げ出したか」
やがて、家々の窓の陰から様子をうかがっていた村人たちが、恐る恐る外へ出てきた。
そして、次第に人の輪ができ、カイの周囲を取り囲む。
「山賊を倒してくださって、ありがとうございます……!」 「助かりました……!」
口々に感謝の言葉が向けられる中、一人の中年の男が前へ進み出た。
落ち着いた態度ながら、その目には確かな安堵が宿っている。
「この村の長をしております、オルドと申します」
男は深く頭を下げた。
「あなたは我々の恩人です。村を代表して、お礼を言わせてください」
その言葉に、カイは静かに首を振る。
「お礼なんてとんでもない。俺は人として、やるべきことをしたまでです」
一拍置いて、カイは視線を村へ巡らせる。
「それに……これで終わりにしようとも、思っていません」
口元に、かすかな笑みが浮かぶ。
(なぜならば、ここは……弱者のいない完璧な王国、完璧な世界を築き上げるための第一歩だからだ)
オルドは眉をひそめた。
「と、申されますと?」
「さきほどの俺の力を使い、この村をあらゆる危害から守りたい。
さらに――この村を、発展させたいとも考えています」
その言葉に、村人たちの間にどよめきが走った。
「……!?」
オルドが慎重に問いかける。
「さきほどの力……あなたの、魔法で、ですかな?」
「そうです。(ここは否定せず、魔法ということにしておくか)
俺の召喚魔法で、それを成し遂げます」
オルドの顔が明るくなった。
「それは……素晴らしい。我々としても、願ってもない申し出です。
どうか、よろしくお願いします」
カイは軽く頷いた。
「そのためにも、まずは敵を把握したい。
この村を襲う存在は、さきほどの山賊以外にもいますか?」
「ええ……モンスターも出ます」
オルドは村の入り口を指さした。
「山賊もモンスターも、決まってあの入り口から侵入してくるのです」
「……入り口は一箇所、か。なら、対策は立てやすい」
(人型防衛ロボットを召喚して、常駐させれば完璧だ)
カイは前へ一歩踏み出し、宣言した。
「召喚!人型防衛ロボット!」
――しかし、何も起こらない。
代わりに、空中に淡く光る文字が浮かび上がった。
《召喚失敗! 召喚可能重量 398.5kgオーバー!》
「な、何……?」
カイは目を見開いた。
「召喚可能重量オーバー……!?現代物を何でも召喚できる能力じゃないのか!?」
苛立ちを抑えきれず、心の中で叫ぶ。
(仕様を教えろ……!)
すると、視界に別の表示が展開された。
召喚レベル:1 ・1日の召喚可能回数:1/3 ・召喚可能重量:1.5kg以下
「……!!」
思わず息を呑む。
(銃と手榴弾……どちらも1.5kg以下だった。 そして、今日残っている召喚は、あと一回)
(――無駄遣いはできないな)
その瞬間、脳裏に過去の記憶がよみがえった。
学生時代。 サークルの部室で、複数の部員と口論になっていた。
「今期の部費を全部使い切っただと!?残りの期間がどれだけあると思ってる!」
詰め寄るカイの胸を、誰かが乱暴に押した。
「何が計画的だよ。IQ150だか知らねえが、調子乗るなよ!」
床に尻餅をつき、笑われる自分。
(……あの時と違う)
カイは拳を握りしめる。
(この世界に、俺の計画を邪魔する者はいない)
再び、ステータス画面を見据えた。
(重量1.5kg以下、残り一回。時間は……六時間)
「ならば――」
カイは村の入り口へ向かった。
「ここに侵入者を排除する地雷原を召喚する!総量1.5kg以下の地雷原よ、現れろ!」
だが、再び表示が弾かれる。
《召喚失敗。 複数の存在を同時に召喚することはできません》
「……複数もダメか」
舌打ちし、すぐに切り替える。
「仕方ない、これで妥協するか。召喚――ワイヤートラップ!」
次の瞬間、村の入り口に、肉眼では見えない極細のワイヤーが張り巡らされた。
触れれば絡みつき、動きを封じる。
(地雷は一回限り。ワイヤートラップなら、壊れない限り永続的に防御できる。
残り一回の召喚だ。リソースは計画的に活用しないとな)
同時に、新たな表示が現れる。
召喚レベルアップ! 1 → 2
・1日の召喚可能回数:3 → 4 ・召喚可能重量:1.5kg → 2.0kg
「……なるほど」
カイは口元を歪めた。
「使えば使うほど強くなる、か。あの創造主め……まるでゲームだな」
オルドの元へ戻り、告げる。
「村の入り口に罠を張りました。外に出る時は、別の道を使ってください」
「わかりました。すぐに村の者全員に伝えます」
村人たちは顔を見合わせ、安堵の息を漏らした。
だが、その中には、目に見えない罠を恐れるような、どこか戸惑いの表情も混じっていた。
「……本当に、守られているんだ。……あの、魔法で」
(彼らは安堵している。 だが、この得体の知れない力に、一部はまだ心を開いていない)
その夜、ノアの家。
ノアはカイに食事を出しながら、ためらいがちに尋ねた。
「カイさん……あの、罠って……」
「ん?」
「……村から出られなくなるんですか? 入り口はもう使えないんですか?」
カイは首を振る。
「別の道を使えば大丈夫だ。安全には変えられないだろ?」
「そう、ですか…… 変わっちゃうの…仕方ない…ですよね…」
ノアは俯いた。
(何か、言いたそうだな)
カイは気づいたが、あえて追及しなかった。
(まあ、いい。今は村の防衛が優先だ。 彼女の不安に向き合う余裕は、まだない)
一方その頃――山賊のアジト。
逃げ帰った部下から報告を受け、リーダーの男が不敵に笑った。
「ほう……見たこともない魔法を使う用心棒、か」
ガルドは立ち上がり、壁に掛けられた鎧に手を伸ばす。
「くく……面白い。先日盗んだ“魔法の鎧”を試すには、ちょうどいい」
嗤い声が洞窟に響いた。
「次は俺が直々に行く。そいつを――始末してやる」




